アルファ・クラブ掲載記事

以下は、ALPHA CLUB 389号(11/'2014)【アルファ・メイト医学教室に掲載された記事です

ひまわり 胃手術後の後遺症と漢方・ツボ -冷え性、下痢と便秘、おなら、腸閉塞-
  昌平クリニック院長 鍋谷 欣市

flower2 はじめに
  胃の手術には胃の全摘、部分切除、内視鏡的小摘除などがあり、再建術式も異なりますが、胃手術後は術前とは異なって人体の諸機能が低下してくるものです。
  特に消化・吸収機能の低下は避けられませんが、自分に適した食事管理で、術前と変わらない健康状態になっている人は、およそ半数を超えていると思われます。一方、術後の管理が適合せずに悩んでいる人も多いので、何とか自らの工夫と努力によって、適切な治療と管理を見出して、健康になってほしいものです。
  今回は、多くの術後愁訴、後遺症の中から消化機能に関係の深い、冷え性、下痢と便秘、おならと腸閉塞(イレウス)について、若干の対策を述べてみたいと思います。

flower2 冷え性

  胃手術後は、夏でも冷えを訴える人が予想外に多く見られますが、冬になると、その数はぐんと増加してきます。本来、体温は自分の血流で調節されていますが、胃手術後には、特に手足の先端の血流が悪くなり、皮膚温も低下してくるのです。
  さて、一般に体温といえば腋窩(わきの下のくぼんだところ)の皮膚温度を基準にしていますが、私はこのほかに全身の皮膚温度を測定して比較しています。口腔温度、肛門内温度など、特殊な部位の体温測定も行っています。
  私が使う皮膚温度計は、皮膚面に接触させて測定するものと、3cmくらい離れた部位で測定するものの2つのタイプですが、いずれも瞬時に体温を表示する優れものです。
  この皮膚温度計で測定してみますと、本人が自覚していない隠れ冷え性も発見され、予想外に冷え性が多いという実態がわかりました。一例を示しますと、額、首、手首の温度はいずれも34°C前後でも、手の指先では29°C、足の趾骨(足の指の骨)では25°Cという人も決して少なくないのです。
  治療法としては、エホチールなどの昇圧薬を用いますが、漢方も用います。漢方では、体力のある実証の人には桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)を用いたり、虚証の人に対しては当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)当帰四逆加呉茱萸生姜湯 (トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)、四逆湯(シギャクトウ)などを用いたりと、いわゆる症状に応じた証を捉えて処方するのです。手足のみでなく全身に冷えがあり、下痢傾向の人には、人参湯(ニンジントウ)六君子湯(リックンシト

ウ)なども処方するものです。
  鍼灸では、経穴(ツボ)をよく確かめて、マッサージや鍼、灸を行います。冷えに対しては足三里(膝下右指5本分くらい)、三陰交(うちくるぶしから、手の指4本分上がったところ)、太衝(足の甲、親指・第二指の付け根が合うところ)、湧泉(足裏中央前の凹み)などのツボを押したり、鍼、灸を加えたりします(下図参照)

flower2 下痢
  下痢は、水分の吸収が悪くなったときに起こる症状で、小腸下部と大腸の上半部での吸収作用が低下したために起こります。原因としては、次の3項目が考えられます。
  (1)腸の運動が亢進して、腸内容物が速やかに運ばれるため、水分を吸収する時間が短くなる。
  (2)腸自体の水分吸収能力が低下している。
  (3)大量の水分をとり過ぎて水分を吸収しきれない。
  そして、急性の下痢は有毒物、腐敗物などによる細菌性の下痢ですが、慢性の下痢では胃腸病などによるものが多いのです。
  いずれにしても血性の(血液の混じった)下痢の場合は、精密検査を要します。

flower2 便秘
  便秘は、排便回数が減って、便が細く出にくい状態をいいます。排便時に下腹部が張る不快感、疼痛、残便感があることも多いです。
  1 急性の便秘
 
a)「単純性便秘」は、それまではあまり便秘ではなかったのに、精神的に緊張する環境に入るなど生活様式に変化が起こったときに、急に便秘になる場合をいいます。
  b)なんらかの病気が原因で起こる便秘を「症候性便秘」といいます。急性の便秘では、腹痛、嘔吐、発熱などを伴う場合に、緊急手術を要する病気が疑われます。特に激しい腹痛を伴い、ガスや便通が全くなくなるのは、あとでも述べる腸閉塞の症状です。いろいろな原因がありますので、見分けが大切です。早期に精密検査を受けることです。
  2 慢性の便秘
 
a)日常的に長期にわたり便秘が続いている慢性便秘を「常習性便秘」といいます。便秘のほかに症状があまりないものは「弛緩性便秘」とも呼ばれます。
  しかし、便秘とともに腹痛を訴え、けいれんして亢進している腸が手に触れるものは、「けいれん性便秘」といわれます。この場合、便秘と下痢が交互に現れることもあります。胃手術後の患者でも時々見られるので、止痢薬と緩下薬の両方を処方することがあります。
  b)腸腔内の器官の病気によって起こる慢性の「症候性便秘」もあり、常習性便秘との見分けが大切です。
  腸の通りの悪い部位があるためにグルグル音が聴かれ、腹痛を訴えるものは症候性便秘です。腹腔内のほかの臓器の癌などでも起こりますので、精密検査が大切です。 

flower2 おなら
  ガスを発生しやすい食物は、消化が悪く発酵しやすい物で、イモ、マメ、ゴボウ、ハス、タケノコなどが挙げられます。これらをたくさん食べると、余分なたん白質が腐敗、発酵してガスが発生するのです。
  また、個人差もありますが、ガスを吸収する力が低下していると、おならが出やすくなります。
  腸の中には、ガスを発生させたり吸収したりする多くの細菌がいて、それらも個人差が多いものです。
  したがって、一般的にはガスを発生しやすいといわれる食物は少なめにとることが第1の条件で、第2には消化吸収を良くするために、よく噛んで食べることでしょう。

flower2 腸閉塞(イレウス)
  イレウスは腸のどこかに通過の悪いところができて、腸内容物の輸送が止まる病気です。胃手術後には癒着性イレウスが多いのですが、腸が捻転(ねじれること)したりすることもあるのです。打診、聴診でもガスや腸内容物のたまっている音が聴かれますが、注腸X線検査を行うと、どんな原因の腸閉塞かがだいたいわかります。緊急手術を要するか、消化管に吸引管を挿入して経過を見るかなど判断して対応します。
  胃手術後では、癒着性イレウスの再発をしばしば繰り返す場合がありますので、治療法は単純に決められません。術後に時々腹痛が起こる人はふだんから消化の良い食物をとり、便通をつけるために食事、運動などにも配慮すべきです。

flower2 漢方療法について
  胃手術後における漢方の役割は、
  (1) 術後腹痛の緩和
  (2) 消化吸収能力の向上
  (3) 便通の調整
  などが主な効能と考えられます。頻用される処方の要点を述べます。
  胃手術後の胃もたれ、胸やけには茯苓飲(ブクリョウイン)の、さらに、みぞおちに振水音を認める場合は六君子湯の適応です。
  さらに体力が低下して腹痛を訴えるときには、小建中湯(ショウケンチュウトウ)の、腹痛、腹満、鼓腸がある場合は大建中湯(ダイケンチュウトウ)の適用です。消化不良で下痢をきたすときには、啓脾湯(ケイヒトウ) がよく効くものです。体力が低下して冷え性になると、前述しましたが、人参湯当帰芍薬散当帰四逆加呉茱萸生姜湯が適応となります。
  さらに新陳代謝が低下し、冷え、下痢、腹痛などを訴える場合は、真武湯(シンブトウ)の適応です。

flower2 ツボのマッサージについて
  胃手術後対策の一つとして鍼灸療法があります。ツボの選定は、主な場所(図)を指圧してみて、快感を覚える点をツボと認識するのが良いでしょう。胃手術後のいろんな苦痛を緩和するツボは、症状の種類、軽重によっても異なると思われますので、基本的な治療(鍼、灸)は専門家にお願いし、個人的にはツボのマッサージにより緩和するのが良いと思います。に示したのは食欲不振、胸やけ、腹痛、腹満、下痢、便秘などに用いられる主なツボです。


図 胃手術後対策の主なツボ




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