漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」2006年1月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

clover 潰瘍性大腸炎の患者のなんと70%近くに効果を発揮した漢方療法

粘血便が1週間で止まることも
  長い漢方の歴史の中で、現代になって俄然とその存在が光り始めた処方があります。古くから伝わる桃花湯(とうかとう)黄土湯(おうどとう)という漢方薬を、私が組み合わせて作った「桃黄湯(とうおうとう)」という薬です。
  桃黄湯は、潰瘍性大腸炎という、現代医学がサジを投げてしまうような難病に、ときには信じられないほどの効果を現すことがめずらしくありません。
  潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる病気です。炎症は、通常肛門に近い直腸から起こり、その後、奥の結腸へと炎症が広がっていきます。
  腸に起こる炎症のため、下痢や粘血便(血液や粘液のまじった軟便)を引き起こします。そのため、一日に5〜10回もトイレに行かなければなりません。症状はよくなったり、悪くなったり(再燃)をくり返します。
  潰瘍性大腸炎は、かつてはきわめてめずらしい病気でしたが、1970年代に入って、猛烈な勢いでふえ始め、現在では10万人近くの患者さんがいるとみられています。
  治療薬には、抗炎症薬のサラゾピリンやペンタサ、ステロイド剤のブレドニンなどがありますが、いずれも症状をコントロールする薬で、根本的な解決を導く薬ではありません。
  しかも、ブレドニンには強い副作用があり、長期投与は新たな問題を引き起こすことにもなります。
  急増する潰瘍性大腸炎は、さらに大腸ガンの発生を高めるという大きな難題を突きつけているのです。私も現代医療から見放された患者さんを多く見るにつれて、なんとか潰瘍性大腸炎を漢方で治せないものかと模索を続けてきました。
  その治療の過程で、たどり着いたのが桃黄湯でした。
  まず、『傷寒論』という漢方の古典に「少陰病、下痢し、膿血を便する者は、桃花湯之を主る」とあります。この症状は、潰瘍性大腸炎とも通じると思い、まず桃花湯という漢方薬を使ってみたら、よく効きました。
  次に、『金匱要略』という、もう一つの漢方の有名な古典に「下血、先ず便し、後血あるは、此れ遠血なり。黄土湯之を主る」と記されていることに目をつけました。黄土湯という漢方薬には、血を止める作用があるというのです。
  さらに効果的にするために、桃花湯黄土湯を組み合わせてみました。これが「桃黄湯」です。さっそく桃黄湯を試してみると、目を見張るような効果が生まれました。現代医学で治せないような重傷の潰瘍性大腸炎の粘血便が、桃黄湯を用いはじめて、1週間ぐらいでピタリと止まることさえありました。


中等度や重症の第一選択といえる
  2001年1月から2004年9月までに私が院長を務める昌平クリニックを受診された潰瘍性大腸炎の患者さん225人に漢方治療を行い、そのうち166人に桃黄湯を服用してもらって、その効果を判定してみました。
  効果の判定は、下痢・粘血便などの主症状が2週間から2ヵ月までに改善されたものを「著効」、6ヵ月までを「有効」とし、両方合わせると約70%の効果が認められました。
  では、なぜこんなによく効くのでしょうか。私は次のように考えています。
  潰瘍性大腸炎は免疫(体の防衛機構)の主役をなす白血球のうちの、顆粒球という、体の外側から侵入した細菌をやっつける白血球がふえすぎたために起こってきます。顆粒球は活性酸素(毒性の強い酸素分子)を出すので、顆粒球がふえ
桃黄湯による潰瘍性大腸炎の治療効果
 
著効
 有効
 不変
 悪化

41人
9人
11人
19人
2人
25%
22%
27%
46%
5%


57人
15人
30人
12人
0人
34%
26%
53%
21%

68人
7人
42人
19人
0人
41%
10%
62%
28%
166人
31人
83人
50人
2人
100%
19%
50%
30%
1%
(昌平クリニック:2001.1〜2004.9)
ることにより、活性酸素が大量に作られて、その結果、大腸の粘膜がこわされてしまうのです。つまり、これは自己免疫疾患の一つといえます。
  一方、桃花湯の主成分は、赤石脂と呼ばれる珪酸アルミニウムなどを多く含む鉱物です。また、黄土湯の主成分は、かまどの火を焼くところの、内側の黄色く、または赤く焼けたところの土で、これもまた珪酸、酸化カルシウムなどが多く含まれています。
  この2つの生薬に多く含まれる珪酸などの鉱物には、活性酸素の発生を抑える働きがあります。そのため、潰瘍性大腸炎の症状が消えていくのではないか、と私はみています。
  実際の例で、桃黄湯の効果をご紹介しましょう。42歳の女性Yさんは、2001年1月から血便を訴えるようになり、次第に悪化して、ブレドニンやサラゾピリンによる治療を受けるようになりました。しかし、症状は安定せず、ますます悪化してきたため、2002年8月に来院しました。
  そこで、桃黄湯啓脾湯(けいひとう)という漢方薬を併用してもらいました。啓脾湯も消化器系の不消化下痢に用いる薬です。これらの薬を飲み始めたところ、2ヵ月でほぼ症状が改善し、5ヵ月で正常便に回復しました。
  桃花湯黄土湯は使うのがむずかしい薬とされていますが、試してみるとそうでもありません。それらを組み合わせた桃黄湯は、長期に服用しても副作用はみられないし、中等度や重症の潰瘍性大腸炎の第一選択といっていいほどよく使います。
  現代に与えられた漢方の使命は、こうした難病に挑戦することだと私は考えています。



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