漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は、健康雑誌「安心」2009年2月号(マキノ出版/マイヘルス社)【肌のかゆみ撃退事典】に
掲載された記事です。

clover 寒くなるとかゆみが増大する老人性皮膚掻痒症に鋭い効果を発揮する
  漢方の名薬
昌平クリニック院長  鍋谷 欣市

clover 血流が停滞して皮膚が乾燥しかゆみが出る
  冷え込む日が続きますが、こういう時期になると、身体のあちこちに強いかゆみを訴える人がふえてきます。50代以上の年輩者に多く、そのほとんどが老人性皮膚掻痒症といっていいでしょう。
 ひとくちに「かゆみ」といっても、さまざまな原因や症状があり、病名もそれに即して細かく分類されています。
  漢方では、それに患者さんの証(自他覚症状をまとめたもの)を重要な要素として加え、より細かく診断、治療を進めます。その意味で、かゆみは漢方治療が適している症状の一つであり、がんこなかゆみでも証が合えば、驚くほどあっけなく治るケースも少なくありません。
  老人性皮膚掻痒症に対する漢方の考え方は、西洋医学とは多少異なる点はありますが、基本的には血行障害によって誘発される症状といえるでしょう。
  老人性皮膚掻痒症は、漢方では「枯燥」と呼ばれます。年を取ってくると、皮膚の血流が悪くなってきます。当然、皮膚細胞の代謝も衰え、水分や脂質など、皮膚を潤す物質も不足してきます。その結果、皮膚は乾燥し、まさに木の枝が枯れるように枯燥が進んでいくのです。
  皮膚がこうした状態になると、外部からの刺激に非常に敏感になります。そのリアクション(生体反応)として、かゆみが出てくるのです。冬場にかゆみがひどくなるというのも、寒さで血管が緊張して、血流の停滞に拍車がかかるからにほかなりません。

clover 全身かゆくて眠れない人も半年ほどで大改善
  漢方では、かゆみの症状を血熱と血虚の2つに大別します。そのうえで、個々の患者さんの証や状態に応じて薬を処方するのです。

  血熱とは、患部が腫れたり赤くなったりして熱を帯びた状態。虫刺されやニキビなどが、こうした症状になります。
  血虚は、血行障害のために患部が乾燥してくる状態。老人性皮膚掻痒症は、こちらに属します。血虚の薬は数多くありますが、老人性皮膚掻痒症では昔から当帰飲子(とうきいんし)が第一選択とされています。
梅の花の写真
  当帰飲子を構成する生薬(漢方薬の原材料となる動植物、鉱物などの天然物)は、当帰のほかに芍薬防風地黄荊芥黄耆何首鳥甘草の10種。補血(悪血を取り、血の流れをよくする)を促すものが中心です。私が用いるのももっぱら当帰飲子ですが、まさに老人性皮膚掻痒症のためにあるような薬で、本当によく効きます。
  症例を2つ紹介しましょう。
  Aさん(75歳・男性)は50代のころから、身体のあちこちにできるかゆみに悩まされ続けていました。いくつもの病院で診てもらいましたが、いつまでたってもよくなりません。
  とくに、冬場になるとかゆみがひどくなるようで、試しに漢方をと当医院に来院されたのも11月のことでした。
  所見では、太ももからすねにかけて、足全体の表面が乾いてカサカサの状態。ところどころ赤い発疹も見られました。口渇(口が渇く)もあり、水分不足は明らかでした。
  そこで、当帰飲子に加え、水分の循環をよくする牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)も少量併用。その結果、2ヵ月ほどで改善の兆候が見られ、約半年後には、かゆみも皮膚の状態もほぼ正常になりました。
  Bさん(70歳・男性)の場合は、さらに重症でした。頭から足の先まで全身の皮膚が赤くなって、ボロボロと粉を吹いています。かゆくて、夜も寝られない状態でした。
  皮膚全体がやや熱を帯びた状態だったので、まず血熱向けの薬である温清飲(うんせいいん)を処方。1ヵ月ほどで熱が引いたのを見て、当帰飲子に切り替えました。また、足に多少むくみもあったので、排尿をうながす五苓散(ごれいさん)を、さらに治療の後半では体力を整える四物湯(しもつとう)も併用しました。
  その結果、3ヵ月後には石けんで体を洗ったり、シャンプーをしたりできるまでに改善。さらに半年後には、全身のかゆみがすっかりなくなり、夜もよく寝られるようになったと、たいへん喜んでいました。
  なお、老人性皮膚掻痒症に限らず、漢方薬を用いる場合には、症状や証の細かい見立てが改善のカギを握ります。お試しになるときには、必ず専門家のアドバイスを受けるようにしてください。

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