漢方掲載記事 『安心』 漢方で病気を治す

以下は、健康雑誌『安心』2012年2月号(マキノ出版)に掲載された記事です。

clover 連載第4回 皮膚掻痒症
昌平クリニック院長  鍋谷 欣市

clover かゆみの改善は漢方の得意分野の一つ
  秋口から冬にかけて、皮膚のかゆみを訴える人が増えます。強いかゆみのために眠れなくなる人もいるほどです。
  強いかゆみはあるが、発疹などの異常は見られない、特に冬場にかゆみがひどくなるそうした症状のことを、皮膚掻痒症といいます。
  体質や年齢(50代以上)によって、皮脂の分泌量が少ない人に発症しがちで、かゆみが出る場所は下半身だったり全身だったりするなど、人によってさまざまです。かゆいところをかくと、乾燥した皮膚の表面がはがれて、ウロコのようにポロポロ落ちることもあります。
  皮膚科では、かゆみ止めの薬の抗ヒスタミン剤とともに、皮膚の乾燥を防ぐ保湿剤を出すことがほとんどです。
  漢方では、かゆみを二つに分けて考えています。一つは血熱(けつねつ)といって皮膚が赤く腫れて熱を帯び、かゆくなるものです。虫刺されやニキビなどが、これに該当します。
  もう一つは血虚(けつきょ)といって、血行不全のために皮膚が乾燥し、かゆみが生じるもの。皮膚掻痒症は、漢方では「枯燥(こそう)」と呼ばれ、こちらに当てはまります。
  加齢や気温の低下とともに血行が悪くなり、皮膚を潤す皮脂の分泌や水分の含有量が減ったところへ、湿度の低下が追い討ちをかける。すると、乾燥がますます進んで皮膚がカサカサになります。
  乾燥した皮膚は外部からの刺激に弱くなり、感覚的にも過敏になることから、かゆみが生じるのです。
  漢方では、血行の悪さというかゆみの根本的な原因に注目し、それを取り除くことによって症状の改善を図ります。血の巡りをよくして皮膚に潤いを取り戻し、かゆみが消えるようにしていくのです。
  昔から、かゆみに悩む人は多かったようで、漢方には血虚のための薬がたくさんあります。実は、かゆみの改善は、漢方の得意分野の一つなのです。
  そうした数あるかゆみを取る漢方薬の中で、最も皮膚掻痒症に効くといわれているのが、当帰飲子(とうきいんし)です。
  当帰飲子は、薬剤名の一部になっている当帰を筆頭に、芍薬(しゃくやく)、川弓(せんきゅう)など10種類の生薬(漢方薬の原材料となる動植物、鉱物などの天然物)を組み合わせた漢方薬で、血流を改善する働きに優れています。
  私の経験からいっても、これが一番のお勧めです。ただし、漢方薬は体質や症状に合っていないと、本来の薬効を発揮することができません。
  ですから、誰にでも当帰飲子がいいというわけではなく、体力がある人には黄連解毒湯(おうれんげどくとう)を、体力がない人には真武湯(しんぶとう)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などを勧めることもあります。
  同じ当帰飲子を処方するにしても、人によって生薬の配合や量を変えることもあります。漢方では、いわゆる「見立て」と「さじ加減」が治療の成否を大きく左右しますので、ぜひ専門家にご相談ください。

clover かゆみ知らずの快適な冬を過ごす
  では、皮膚掻痒症がよくなった患者さんの例を紹介します。3人とも、10月から11月にかけて、私たちのクリニックに治療に来ています。
  Fさん(女性)は68歳。昼間は平気なのですが、夜、床に入ると、体のあちこちがかゆくなって眠れません。血がにじむまで皮膚をかいてしまうこともあります。皮膚科に通って、かゆみ止めの注射と飲み薬で治療していたのですが、胃腸が弱く、飲み薬を受け付けなくなって、漢方治療を試みました。

  冷えがあったので、当帰飲子牛車腎気丸を飲んでもらうと、2週間でかゆみが軽快。よく眠れるようになりました。当帰飲子は少し多めにお出ししたのですが、胃腸の調子が悪くなることはありませんでした。
  その後、当初は1日に飲んでいた量を、2日に分けて飲んでもらうようにして、さらに2週間続けた後、服薬を終了。その後は、かゆみが再発することなく、暖かい季節を迎えることができました。
イラスト・かゆみが治まりぐっすり眠れる!

  Sさん(女性)は70歳。顔をはじめ、全身の皮膚がカサカサして白く粉を吹き、夜も眠れないほどかゆくなります。しかし、皮膚を見ると真っ赤なのです。そこで、まず、血熱向けの漢方薬である温清飲(うんせいいん)を1ヵ月ほど飲んでもらい、赤みがひいたことを確認してから、当帰飲子に切り替えました。
  さらに、体力を補う四物湯(しもつとう)も出して2ヵ月後、かゆみはだいぶ軽減し、夜もぐっすり眠れるように。さらに3ヵ月ほど服薬を続けると、かゆみはすっかり消えて、皮膚も粉を吹かなくなりました。
  また、89際になるAさん(男性)は、70歳のときから毎年、秋になると予防を兼ねて来院し、体調に応じた漢方薬を服用して、かゆみ知らずの快適な冬を過ごしています。
  皮膚掻痒症では、入浴を控える人もいます。しかし、血液の循環がよくなるので、むしろ入浴したほうがいいのです。ただし、皮膚をゴシゴシこすり洗いするのは禁物。刺激成分の少ない石けんで、なでるように優しく洗ってから、石けん成分が残らないように流しましょう。


line

漢方治療は、その時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  当クリニックでは、経験豊富な漢方医があなたに合った治療を提案します。お気軽にご相談ください。


Copyright(C)昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます