漢方掲載記事 『安心』 漢方で病気を治す

以下は、健康雑誌『安心』2012年5月号(マキノ出版)に掲載された記事です。

clover 連載第7回 難聴・耳鳴り
昌平クリニック院長  鍋谷 欣市

clover 現代医学でも治療が難しい病気の一つ
  難聴には伝音性と感音性の二つがあります。伝音性難聴は、耳の穴や鼓膜など、音を伝える機能を持つ外耳から中耳までの異常によって起こるものです。それに対して感音性難聴は、そのさらに奥にある聴神経や脳など、音を感じる機能を持つ内耳の異常によって起こります。
  耳鳴りを伴いやすいことも特徴です。一般に、ジーとかゴーという低音の耳鳴りがする難聴は伝音性であることが多く、治りやすいとされています。
  一方で、キーンという高温の耳鳴りがする難聴は感音性であることが多く、治りにくいとされています。
  とはいえ、実際には両方が混じっているなど、どちらか一方に、きれいに分けられるケースばかりではありません。これという原因もなく、あるとき突然起こる突発性難聴というものもあります。
  このように原因の特定がしにくく、対処法がわかりにくいところが、難聴のやっかいな点です。進歩した現代の医学をもってしても、治療が難しい病気の一つだといえるでしょう。
  しかし、このような病気にこそ、漢方が効果を発揮するのです。漢方では、難聴の原因を主に水毒・水滞(体内の水分の代謝が悪くなること)であると考えています。「難聴ではないが耳鳴りがする」という人もいますが、耳鳴りの原因も水毒・水滞です。
  実際、難聴や耳鳴りの患者さんの多くに、水毒・水滞を示す次のような症状が、よく見られます。
●まぶたが腫れぼったい
●ひざから下にむくみがある
●尿の出が悪い
●舌の色が白っぽく、全体的にむくんでいる
●歯痕(舌のふちがギザギザしている)
●舌中(舌の中央の溝)が消える
  そこで、体内の水分の滞りを除き、流れをよくする利水剤となる漢方薬を使います。私が最もよく使うのは、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)です。ただし、体力がない人には真武湯(しんぶとう)を出すなど、体質を見ながら使い分けます。
  水毒・水滞のときは、たいてい血の巡りも悪くなっているので、血流をよくする漢方薬を一緒に出すこともあります。
  ほかにも伝音性難聴では、化膿を取る柴胡剤を使います。実証(体力がある)なら小柴胡湯(しょうさいことう)柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を、虚証(体力がない)なら黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を、中間なら柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)です。
  感音性難聴では、全身の状態を考慮しつつ、中間から実証なら八味丸(はちみがん)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を、虚証なら六味丸(ろくみがん)を使います。
  また、患者さんに動脈硬化や高血圧があれば、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)釣藤散(ちょうとうさん)を、更年期の女性には加味逍遥散(かみしょうようさん)女神散(にょしんさん)を、冷えがあるなら、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を出します。
  一見、耳とは関係がなさそうな体の諸症状を除くことによって、難聴や耳鳴りがよくなることも多いからです。

clover めまいや立ちくらみもなくなった!
 では、実際の改善例を見てみましょう。
  Aさんは23歳の女性。ゴーッという耳鳴りがつらくて、あちこち耳鼻科を訪ねましたが、どこでも「異常なし」と言われて、治療が受けられなかったそうです。私たちのクリニックに来たのは、2年間悩まされた後のことでした。
  話を聞くと、疲れやすい、汗をかきやすい、夜間の排尿、手足の冷え、めまいといった症状もあると言います。舌には歯痕が見られ、典型的な水毒の状態です。心窩部(みずおち)には動悸がありました。
  そこで、苓桂朮甘湯当帰四逆加呉茱萸生姜湯を飲んでもらうと、1週間で耳鳴りが解消。動悸も消えました。服薬は2ヵ月で終了。その後、再発はありません。
  Bさんは36歳の男性。右耳が詰まった感じがして聞こえにくくなり、キーンという耳鳴りがし始めました。やがて、めまいや立ちくらみがするようになったので、病院でメニエール病ではないかと言われ、治療を受けたのです。しかし、いっこうによくならないため、漢方を試しに来ました。
  肥満ではなく、血圧も正常でしたが、舌には歯痕が見られ、舌中が消えていて、足の冷えもあります。そこで水毒・水滞の対策として、苓桂朮甘湯真武湯を出しました。
  また、ストレスで眠れないという訴えがあり、胸脇苦満(肋骨の下辺りが張って重苦しく、押すと抵抗と圧痛がある)というおなかの症状もあったので、漢方の睡眠薬のような香蘇散(こうそさん)と、胸脇苦満を改善する小柴胡湯も出しました。
  すると約1ヵ月で、耳の閉塞感が取れて聞こえがよくなり、耳鳴りがかすかなものになったのです。めまいや立ちくらみもなくなりました。
  耳鼻科でよくならず、漢方治療を試みる人も多いのですが、一般に、難聴は早く治療を開始したほうが、治りがいい病気です。通常の治療と併用することも可能なので、ぜひ漢方治療をご活用ください。


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