漢方掲載記事 『安心』 漢方で病気を治す

以下は、健康雑誌『安心』2012年6月号(マキノ出版)に掲載された記事です。

clover 連載第8回 過敏性腸症候群
昌平クリニック院長  鍋谷 欣市

clover 下痢にも便秘にも同じ漢方薬が使える
  下痢と便秘が交互に起こり、ときに腹痛を伴う。そんな病気が過敏性腸症候群です。実態をつかみにくい病気で、調べてみても、腸に腫瘤や潰瘍、狭窄などの異常は見られません。機能にも問題がないのです。
  それなのに、なぜ症状が出るのかといえば、精神的なものが影響しているようです。よく、試験の前になると下痢をしたり、旅行に出かけると便秘になったりする人がいますが、基本的にはそれと同じだと考えていいでしょう。
  どういうわけか、その状態が病的に激しくなって、ささいな緊張にも過敏に腸が反応し、下痢や便秘、痛みなどが起こってくるのです。
  実際、会社が休みの土曜日や日曜日にはなんともないのに、平日の出勤前になると、とたんに下痢を起こし、何度もトイレに駆け込むような人も少なくありません。
  現代医学では、下痢には下痢止め、便秘には便秘薬、痛みには痛み止めを使って、症状を一つ一つ抑え込んでいきます。しかし、下痢を止めると、今度は便秘になってしまうなど、なかなかコントロールが難しい面もあるのです。
  漢方では、こうした現代医学で治しにくい病気を、案外すんなりと改善に導くことができます。というのも、現代医学の下痢止めと便秘薬は相反する作用を持つため、症状に合わせていちいち使い分けなければなりません。しかし、漢方には下痢にも便秘にもOKという便利な薬があるのです。
  例えば、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)小建中湯(しょうけんちゅうとう)などがそうなのですが、これらは腸の働きそのものを整える薬です。そのため、腸が弱っているなら強くして、けいれんしているなら、けいれんを止めて、腸を正常な状態に戻します。その結果、下痢や便秘が治まるのです。
  また、過敏性腸症候群のように、精神的な要因が大きくかかわっている病気では、体の状態だけでなく、気持ちや自律神経(自分の意思とは関係なく、内臓や血管などの働きを調整している神経)の働きを整えることも大切になってきます。
  漢方の気(一種の生命エネルギー)を整える薬は、こういった精神的、神経的な部分にも、働きかけることができます。
  さらに、全身の血液の流れをよくすることで、腸の働きを高めることもできるのです。
  では、具体的に、どんな漢方薬を使うといいのか、述べていきましょう。
  まず、挙げられるのは桂枝加芍薬湯です。下痢傾向が強い、しぶり腹(便意があるが実際には便通がない症状)、腹痛、冷えがあるといったタイプの過敏性腸症候群に有効です。便秘傾向が強い場合には、これに作用の穏やかな下剤である大黄を加えた、桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)が適します。
  下痢傾向が強く、体力がない人には、桂枝加芍薬湯に飴を加えた小建中湯や、胃腸によい9種類の生薬(漢方薬の原材料となる動植物、鉱物などの天然物)から成る啓脾湯(けいひとう)もお勧めです。神経症的な傾向が強いときには、加味逍遥散(かみしょうようさん)を使うこともあります。
    
clover 13年間苦しんだ症状がわずか1ヵ月で治った
 これらの漢方薬で、よくなった人の例を紹介しましょう。
  Aさんは60歳の女性。便秘をしたり、おなかがゴロゴロ鳴ったほか、血便が出ることもあって病院へ行きました。検査をしても腸に異常は見られず、過敏性腸症候群と診断されました。いろいろな薬を試してはみたものの症状は改善せず、3年間、下腹部の痛みや不快感に悩まされていたそうです。

  体力がないタイプで、神経症的な傾向が強く、腸の出血、瘀血(血液の流れが滞った状態)の症状もあったので、加味逍遥散当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の3種類の漢方薬を飲んでもらいました。
  すると、飲み始めてすぐ、規則正しい便通がつくようになり、おなかがスッキリしたそうです。続いて、おなかが鳴ったり、痛
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んだり、便に血が混じったりすることがなくなっていき、3ヵ月ほどで下腹部の不快感が一掃されました。
  Bさんは49歳の男性。過敏性腸症候群と診断されたものの、思うように治療の効果が得られず、13年間もしぶり腹で苦しんでいました。そのため、ヤケになって暴飲暴食し、症状を悪化させるなど、ますます治療効果が上がりにくい状態に陥ったのです。
  下痢傾向が強いタイプで、長い間、症状が改善されないことによってストレスがたまり、血圧も上がっていました。
  啓脾湯を飲んでもらったところ、わずか1ヵ月で、しぶり腹が治ったのです。すると、Bさん自身の気持ちや生活様式がガラリと変わって、暴飲暴食をしなくなり、精神状態が落ち着き、血圧が下がりました。それに伴って下痢も治まりました。
  過敏性腸症候群のように精神的な要因が大きい病気には、ストレスのもとになっているものが何かに注目し、できる限り、それを取り除くようにしていくことも大切です。

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