漢方掲載記事 『安心』 漢方で病気を治す

以下は、健康雑誌『安心』2012年8月号(マキノ出版)に掲載された記事です。

clover 連載第10回 自律神経失調症
昌平クリニック院長  鍋谷 欣市

clover ありとあらゆる不調が起こる
  体にさまざまな不調があるのに、検査で異常が見られない場合は、自律神経失調症といわれることがほとんどです。
  自律神経失調症は、植物神経ともいわれ、自分の意思とは無関係に、呼吸や循環、消化、代謝、分泌、体温の調節など、体の諸機能の調整を行っています。眠っていても生命が維持できるのは、自律神経が働いているからです。
  それだけに自律神経がうまく働かなくなると、頭痛、不眠、冷え、のぼせ、めまい、発汗、動悸、息切れ、食欲不振、便秘、下痢、イライラ、不安、肩こりなど、ありとあらゆる不調が起こります。強い疲労感や倦怠感があるのが特徴の慢性疲労症候群も、自律神経失調症とかかわりが深いようです。
  自律神経失調症の発症には、環境やストレスがかかわっているといわれていますが、それだけが原因とは言い切れないところもあります。原因がよくわかっていない上、人によって症状も違い、治療が難しい病気の一つだといえるでしょう。
  現代医学では、不安の訴えがあれば安定剤を、不眠の訴えがあれば入眠剤を出すというように、症状別に対応しています。一つ一つ症状を抑えていけば、最後には全身の不調が解消するという考え方です。
  漢方では、病気や不調の原因を、気(一種の生命エネルギー)・血(血液)・水(体液)の乱れととらえています。なかでも重視しているのは気で、血も水も気にコントロールされていて、気の流れが滞れば、血や水の流れも悪くなると考えています。
  気は、自律神経失調症のように、ストレスが関係している病気にも深くかかわっています。
  例えば、「気」力がなくなると不安になったり、ふさぎ込んだりしますし、元「気」がなくなると疲れたり、だるくなったりするというように、関係が深いのです。
  実際、体力や体質、症状にかかわらず、自律神経失調症の人には、ある共通した状態(証)が見られます。それは心窩部(みずおち)の動悸です。
  この証を示す人には、気を補うとともに、気の高ぶりを静める漢方薬である、桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)が適しています。
  イライラや不安、気持ちの高ぶりが強いときには、気の流れをよくする甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)がいいでしょう。
  気力が乏しく、何もする気になれない人には、気を補う補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や、八味地黄丸(はちみじおうがん)もお勧めです。不眠があれば、漢方の睡眠薬である酸棗仁湯(さんそうにんとう)加味帰脾湯(かみきひとう)を追加します。
    
clover 将来を悲観しなくなり生きがいも見つかった!
 では、実際の症例を見てみましょう。
  Aさんは53歳の女性。気分が沈み、不安や動悸、不眠、発汗などで悩んでいました。病院で検査をしても、どこにも異常はないそうです。それでも症状はあるので、困って相談に見えました。
  おなかを診ると、みずおちに動悸があります。聞けは、お母さんの介護で苦労されていて、体重も5kg減ったとのこと。このままでは、将来どうなることかと心配していました。

  そこで、桂枝加竜骨牡蠣湯加味帰脾湯を飲んでもらったところ、諸症状が少しずつ改善。3ヵ月ほどで、かなり気力が回復し、体重も戻って、将来を悲観するようなことがなくなったのです。
  薬が合っているようなので、続けてもらうと、約1年ですっかり元気になりました。介護は続いているものの、生きがいを見つけることもできたと、笑顔を見せてくれたのです。
  Mさんは28歳の女性。産後の育児不安から、夜眠れなくなってしまったそうです。やがて、昼間もイライラして気持ちが落ち着かなくなり、ひどく疲れるよう
イラスト(元気に子育てを楽しめる!)

になって、漢方治療を希望しました。
  話をしていても、だいぶ気分が高ぶっているように感じられます。そこで、甘麦大棗湯半夏厚朴湯を飲んでもらうと、3ヵ月で気持ちが落ち着き、夜眠れるようになりました。
  私の見立てでは、半年ほどですっかりよくなったのですが、Mさんは薬をやめるのは不安だと言います。そこで、基本は半夏厚朴湯、疲れたときには補中益気湯に切り替えるようにして続けてもらったのです。
  2年後、Mさんは「薬を飲まなくても大丈夫」という自信を持って治療を終え、元気に子育てを楽しんでいます。
  漢方薬には習慣性が少なく、専門家の指導のもとでなら、長期間飲み続けても安心です。
  自律神経失調症になるのは、女性の方が多いようですが、男性では症状の重い人が目立ちます。吐血したり、生きているのが嫌になるほど落ち込んだりするのです。
  自律神経失調症と思われる症状の記録は江戸時代からあり、いつの世にも生きる上でのしがらみはあるのですが、ストレス社会といわれる今、自律神経失調症になる人は増えています。
  心や体に不調を感じたときは、一人で我慢することなく、ぜひ漢方の専門医に相談してください。


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