漢方掲載記事 『安心』 漢方で病気を治す

以下は、健康雑誌『安心』2012年9月号(マキノ出版)に掲載された記事です。

clover 連載第11回 前立腺肥大
昌平クリニック院長  鍋谷 欣市

clover 高い治療効果を上げている
  前立腺は男性が持つ器官で、排尿や生殖にかかわる働きをしています。膀胱の出口に位置して、中を尿の通り道である尿道と、精液の通り道である精管が前立腺内で合流しています。
  大きさはクリの実くらいで、加齢に伴って肥大することがあります。肥大自体は加齢による変化であり、病気ではありません。尿が出にくくなるなどの排尿障害が見られる場合のみ、「前立腺肥大」と呼びます。
  「50歳以上の男性が排尿障害を訴えたら、まずは前立腺肥大を疑え」といわれるほど、ポピュラーな病気ですが、前立腺肥大に対する考え方は、最近、変わってきています。
  以前は、肥大した前立腺が尿道を圧迫することが、排尿障害の原因だとされていました。しかし、現在は前立腺の機能に問題が生じることが原因だと考えられているのです。便宜上、ここでは、症状を3期に分けて説明しますが、前立腺肥大に対する考え方の変化とともに、症状を3期に分けて書く医学書も少なくなってきています。
  まず、症状の第1期には、排尿の回数が増えます(頻尿)。尿の勢いが低下したり、排尿開始までに時間がかかったりすることもあります。
  第2期は、いきまないと尿が出なくなります(排尿困難)。尿が出切らず膀胱に残り、残尿管のためにさらに頻尿になったり、尿が出なくなったりすることもあります(尿閉)。
  第3期には、排尿困難が進みます。膀胱内にいつも多量の尿が残って、ダラダラ漏れてくることもあります。
  1期と2期では、ほとんどの場合、薬で症状を改善することができます。3期でも薬が有効で、今は、あまり手術を行うことはありません。
  手術は、尿道から内視鏡を入れ、高周波電流で患部を取り除く方法が主流です。痛みが少なく出血もわずか。性的能力が損なわれる心配もありません。
  なお、排尿障害は前立腺肥大によってのみ起こるわけではありません。前立腺ガンが原因で起こることもあります。「尿が出にくい=前立腺肥大」と自己判断して放置することなく、きちんと検査を受けましょう。
  漢方では、頻尿や尿が出にくいなどといった排尿障害を、体内の水分の流れが悪くなっているせいだと考えて治療します。そこで、まずは水分の流れをよくする作用を持つ漢方薬(利水剤)を選ぶのです。
  前立腺肥大は加齢によって起こるので、衰えた体力や気力を補うために、血の巡りをよくする駆瘀血剤や、気(一種の生命エネルギー)の流れを整える気剤も必要になってきます。
  この3つがバランスよく配合されているのが、八味丸(はちみがん)です。前立腺肥大に用いる漢方薬として最適で、実際に高い治療効果を上げています。
  より強力な利尿作用(尿の出をよくする働き)を求めるときは、牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)が適しています。排尿時にしみる、痛む、血尿が出るなど膀胱炎の症状もあるなら、猪苓湯 (ちょれいとう)がいいでしょう。胃腸が弱い人には、八味丸よりも胃腸への刺激が少ない、六味丸を使います。
  いずれも前立腺や膀胱の機能を高め、排尿障害を改善する効果に優れています。

clover ゆっくり眠れる!むくみも取れた!
  漢方治療が著効をみせた1例が、Nさんです。72歳ごろから昼夜を問わず、2時間おきにトイレへ行くようになり、病院で前立腺肥大と診断されて、薬を飲んでいました。

  しかし、なかなかよくなりません。夜中4回もトイレに起きるようでは満足に眠れず、疲れも取れないので、76歳のときに漢方治療を始めたのです。
  見れば、ひざから下にむくみがあり、舌の縁はギザギザ(歯痕)。おなかはフニャフニャしていて、明らかに水毒(水分の流れの停滞)、腎虚(生命エネルギーの衰え)の様相を呈しています。
  そこで、八味丸をお出ししたところ、2ヵ月でトイレの間隔が開いて、4時間おきになったのです。夜中トイレに起きる回数も2回に減り、ゆっくり眠れるように。足のむくみも取れて、舌やおなかも正常な状態に戻りました。Nさんは、様子を見ながら漢方治療を続け、90歳の今もなお、お元気です。

  もう1例は69歳のSさん。トイレに行く回数は、日中10回、夜間3回でした。別の病気で検査を受けたとき、前立腺肥大を指摘され、自己判断で八味丸を買って飲んでいました。しかし、期待したほど効かないと、相談に来たのです。
  そこで、より利尿効果の高い牛車腎気丸を出しました。すると、2ヵ月後にはトイレの回数が日中6~7回、夜間1~2回に減少し、4ヵ月後には、日中4~5回、夜間1回と、ほぼ正常な状態に戻ったのです。出る尿の勢いがよくなり、量も増えて気持ちがいいそうです。
  前立腺肥大の場合、症状が強いときは、漢方薬を1日2~3回飲みます。しかし、症状が落ち着いてきたら、1日1回、夜に飲むだけでもけっこうです。それなら、続けるのが苦にならないと思いますので、一度、漢方治療を受けてみてはいかがでしょうか。


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