漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1996年10月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド6】
もみじ ガンは手術後に漢方薬を活用すれば高い確率で克服できる

もみじ ガンが小さいうちに除去するのが最善
  ここ何年も、日本人の死因のトップを走り続けているのは、ガン(悪性腫瘍)です。年間死亡数は、1991年のデータで約25万人、現在では約30万人と推測され、全死亡数の27%を占めています。
  ガンというのは、簡単にいえば、細胞の一部が無制限に増殖していく病気です。ガンによく似た生理現象に妊娠がありますが、これにたとえるとわかりやすいでしょう。
  体の中にできた新しい生命体は、母体から栄養を吸収して細胞の増殖をくり返し、大きくなっていきます。妊娠では、やがて出産を迎え、母体が開放されるのでことなきを得ますが、胎児がずっと体内にとどまって成長を続けたとしたら、母体は栄養を吸い取られ、疲弊して、いずれは死に至ります。
  ガンは出産されない胎児のようなものです。そのうえ、転移する性質があるため、最初は1人だった胎児が、2人、3人と体の中でふえていき、母体の消耗が加速度的に進むように、人の体をむしばんでいくのです。
  それでは、ガンはどのようにして発生するのでしょうか。ウイルスや化学物質などにより、正常な細胞がなんらかの刺激を受けると、突然変異を起こします。それでもなお刺激が与えられ続けると、ガン細胞に変化して増殖し、飛び火のように転移していくのです。
  ですから、ガンはできるだけ早い段階で発見し、病巣が小さいうちに開腹手術や、内視鏡下手術(体内を直接見る医療用器械による手術)で取り除くのが、いちばんの治療法であるといえます。ガンが大きくなるほど、手術も大がかりになり、患者さんの体力も消耗し、回復に時間がかかってしまうのです。また、病巣が広がると取りきれなくなったり、転移や再発のおそれが大きくなったりします。
  昨今、早期に発見されるガンは本物のガンではないから手術は不要、抗ガン剤による治療は苦しみを増して命を縮めるだけだ、という意見が発表され、そうした内容の本が書店に並んで話題を呼んでいます。
  しかし、現実にガンを放置すれば、増殖・転移をへて、死に至るのは目に見えています。早期、つまりガンが小さいうちに発見すれば、縮小手術(早期ガンに行われる小範囲の手術)、内視鏡下手術や放射線、レーザー光線などでも完全に除去できますし、体が受けるダメージも最小限ですむのです。
  あとは、手術で及ばなかった部分の状態をよく見て、放射線、抗ガン剤や免疫療法(人間の体に本来備わっている病気を治す力を増強してガンを治療する方法)を併用することにより、再発を防ぐこともできます。早期ガンの場合、手術の治療成績は、胃・大腸ガンで90%以上、食道ガンで約80%という高い数字が出ています。
  治癒しなかったのは、発見が遅く、手遅れになったケースがほとんどです。

もみじ 漢方薬を用いる三つの意味
  このようなことから、現段階でガン治療に最も有効なのは、早期発見・早期手術である、と私は考えます。では、そこに漢方薬をどのように活用していったらよいかというと、大きく三つあげることができます。
  一つは、手術後の全身状態の回復にあります。手術の後は体力も気力もガクッと落ちるものです。東洋医学では、こうした状態を気、血、水の異常、とくに気虚(生命エネルギーの不足している状態)、血虚(血液が乏しい状態)の証(漢方的見方にみる体の状態)としてとらえられ、補剤(足りないものを補う働きのある漢方薬)の適用となります。
  これには、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)人参栄養湯(にんじんえいようとう) 四物湯(しもつとう) など、全身の衰弱や貧血傾向を補う働きがある漢方薬を用います。体力の回復や、愁訴(疲労・倦怠感、不快感、不眠、排尿、異常など、体や精神の違和感)の解消に役立ちます。
  二つめは、免疫力(体内に病原体が侵入しても発病を抑える力)を高めることです。免疫力は、全身状態の改善と密接なかかわりをもっていますが、やはり手術後に急激に低下します。免疫力が落ちたままでは、術後の回復にさしさわりますから、前述の補剤で補うのです。
  臨床試験でも、十全大補湯を服用すると、免疫力の回復が早まるほか、放射線や化学療法による白血球の減少を防ぐなどの結果が得られています。
  三つめは、抗ガン作用です。十全大補湯補中益気湯には、ガンの発生を防ぎ、できたガンを小さくする効果のあることが動物実験で確かめられています。臨床においても、胃を全部取っても再発するだろうと予測されていた進行ガンだったにもかかわらず、手術後に漢方薬を服用した結果、再発することなく元気に社会生活を送っているなどの例があります。

もみじ 20年以上たっても転移・再発はなし
  ここで、私の臨床例を紹介しましょう。
  49歳のとき、ガンのために胃と脾臓を全部、膵臓の半分と大腸の一部も摘出するという大手術を受けたAさん(男性)は、手術後に体力と食欲がめっきり落ち、下痢が続いたため、十全大補湯を中心に補中益気湯八味地黄丸(はちみぢおうがん) 小柴胡湯(しょうさいことう)などを処方しながら、定期的に様子をみることにしました。その結果、71歳になる今日まで、20年以上も転移・再発をすることなく元気に暮らしています。
  ほかにも、転移・再発が心配される進行ガンの手術後、漢方薬を服用し、2〜5年、経過が良好な患者さんが何人かいます。
  くり返しますが、ガンは早く見つけるほど高い確率で治すことができます。ですから、職場や地域などで定期的に健康診断を受けることは、非常に重要なことです。
  また、日常的に自分の体や排泄物の変化を観察することも重要です。たとえば、体にしこりができた、ホクロが大きくなった、食べ物が飲み込みにくい、便の色が黒くコールタール状だ、タンに血がまじる、などの変化があったら、放置せず医師に相談することをおすすめします。
  発ガン性があるといわれる化学物質や、タバコ、刺激の強い食品などの過剰な摂取をさけ、暴飲暴食をつつしむことも忘れてはいけません。ガンを起こす原因は種々雑多ですが、一つでも取り除けばガンが発生せずにすむこともあるのです。
  こういった目新しさのない、ごくあたりまえな心がけが、実はガンにならない、ガンで死なない、いちばんの方法である、と私は考えています。

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