漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1996年11月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド7】
もみじ 更年期の女性の体調を根本から整え不快症状をきれいに消す東洋医学療法

もみじ 発症の原因はホルモン分泌の減少
  程度の差はあれ、女性の多くは、生理が停止する前後(45〜55歳ごろ)に、さまざまな不快症状に悩まされるようです。これは、加齢に伴って卵巣の機能が低下し、エストロゲンという卵巣ホルモンの分泌が減少することによるもので、一般に更年期障害と呼ばれています。
  その症状の現れ方は実に多種多様ですが、大きく4つに分けることができます。
(1)血管運動神経障害症状=血流に関係した症状で、のぼせ、発汗、冷え、動悸など。
(2)精神神経障害症状=頭痛、めまい、イライラ、沈うつ、不眠など。
(3)運動器障害症状=肩こり、腰痛、関節痛など。
(4)知覚神経障害症状=皮膚のかゆみ、手足のしびれなど。
  このような肉体的、精神的な変調は不定愁訴と呼ばれ、1969年には、病名自体が、“婦人の不定愁訴症候群”とされていたくらい、更年期障害の大きな特徴となっています。
  ところで、この不定愁訴という呼び方には異論もあるので、ふれておくことにしましょう。
  本来、不定愁訴というのは、いろいろな不快感の訴えがあるのに、それに見合う体の変化のない症状をさします。つまり、頭痛やめまいなどの自覚症状があっても、体に異常がないといった状態のことです。
  しかし、更年期障害の場合、卵巣ホルモンの分泌量の減少という愁訴に見合う体の変化はあるわけで、不定愁訴とは呼べないのではないか、という説もあるのです。
  また、不定愁訴には、たくさん愁訴があって、そのなかのどれが出てくるか一定しない、といった意味合いもあります。しかし、この場合でも、更年期障害の愁訴は幅こそ広いものの、だいたい出てくる症状は一定しているので、必ずしも不定とはいえません。ただ、症状の出る時期や程度には個人差がありますし、日によって症状の出方が変わるなど、不定と呼べる部分もあります。

もみじ 一つの処方で多くの症状を消す
  更年期障害の治療にさいしては、いくつかの重要なポイントがあります。ひとつは、症状が確かに更年期障害によるものなのかどうかを見きわめることです。頭痛やめまい、動悸などは、心臓疾患や高血圧症、甲状腺疾患など、ほかの病気が原因となって起こることもあるので、検査で確かめることが必要です。
  また、更年期障害の精神的変調と症状が似ている病気に、うつ病があります。気分がすぐれず、理由のない不安が続くのは更年期のせいだろうと放っておかず、一度は専門医の診断を受けるようにしてください。そして、症状を助長するものに心理的な要因もあるので、自分のおかれている家庭や社会の環境についても、診察時に医師に話すとよいでしょう。
  しかし、更年期の不定愁訴というのはやっかいで、それぞれの症状に対して薬を出しても、なかなかうまくおさまるものではありません。不眠は睡眠薬で解消しますが、眠れるようになっても冷えやのぼせは取れませんし、それではと別の薬を飲んで睡眠薬が飲めなくなれば、また不眠がぶり返すといった具合です。
  こんなとき、漢方薬の持つ、一つの処方で多くの症状を改善できるという特徴が、大いに力を発揮します。不調の根本的な原因となっている愁訴を取り除くと、それに伴ってほかの愁訴も自然に消えていくのです。
  体全体をみて、いろいろな機能を調節し、全体的なバランスをとっていく東洋医学療法でなら、これは可能なことです。また、そもそも漢方薬というのは、そういう治療薬なのです。

もみじ 決して無理をせずゆったりと過ごす
  更年期障害に対する漢方薬の処方としては、まず加味逍遥散(かみしょうようさん) があげられます。これは体を温め冷えを取り、血のめぐりをよくし、さらに精神を安定させる作用もあります。ヘソの上下、みずおちの下に動悸があって、めまい、イライラ、不眠、不安感のある、やや体力が落ちた人にピッタリの処方です。
  また、もっと体力が落ちている人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)、逆に体力のある人には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)がおすすめですし、精神症状が強いときには女神散(にょしんさん) を用います。
  ここで、実際の症例を紹介しましょう。
  主婦のTさんは、48歳を迎えたころから、生理が3ヵ月に1回くらいしかこなくなりました。それにつれて、のぼせ、耳鳴り、突然の発汗、夜間頻尿、冷えなどの症状が出始め、血圧も安定せず、上がったり下がったりしていました。
  数件の病院で診てもらっても悪いところはなく、自律神経失調症(意志とは無関係に内臓や血管などの働きを支配している神経のバランスが狂って起こる体の不調)ではないか、と思っていたそうです。問診してみると舌がむくみぎみで、下腹部ははれぼったくフニャフニャしています。
  そこで加味逍遥散に加え、夜間頻尿の対策として牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を処方したところ、約2ヵ月で食欲が出て、疲れが取れ、すべての症状が解消しました。
  また、57歳の主婦Sさんは、2年前に生理が停止してから、下半身の冷えと不眠に悩まされるようになりました。さらに、数年前に座骨神経痛になったこともあり、体のあちこちが痛むともいいます。上半身の発汗、耳鳴り、便秘などの症状もかかえ、来院されたときには、ヘソの上下に動悸があり、気・血・水のめぐりの悪いことが一目瞭然でした。
  Sさんには、いろいろな漢方薬を試しましたが、加味逍遥散当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)が最もよく効きました。まず、耳鳴り、便秘、不眠が解消し、半年後には冷えと発汗もかなり改善したのです。
  更年期障害の悩みの一つに、本人は非常に苦痛を感じているのに、他人に理解してもらいにくいという点もあります。ときに、なにごともなく更年期をのりきってしまう人もいるので、そういう人と比較して不調をおおげさに訴えているようにとられたり、加齢に伴う自然な現象なのだから病気ではないと思われたりするのです。
  ですから、医師は患者さんの立場になって訴えを聞き、周囲の人々は病気に理解を示し、温かい目で見守ることが大切です。患者さん本人は、無理をせず、腹の立つようなことはさけて、ゆったりした気持ちで過ごせば、すみやかに治療効果が現れるはずです。

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