漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1996年12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド8】
もみじ 原因不明のめまいを血液と水分の流れを改善して治す東洋医学療法

もみじ 血虚と水毒がめまいを引き起こす
  私たちの体には、現在、自分がどんな姿勢でいるかを感じ、それを脳に伝えて、体のつり合いを保つ働き(平衡感覚)が備わっています。この平衡感覚に障害が起こったとき、めまいが生じます。
  めまいにはいろいろな種類のものがありますが、症状からみると、回転性めまいと非回転性めまいに大別されます。
  回転性めまいとは、自分の体や周囲がグルグルと回っているように感じるめまいのことをさします。耳や目などの知覚器官の障害によって起こり、その多くは末梢性の原因によるめまいです。
  非回転性のめまいとは、中枢性または全身性の原因によるめまいのことで、さらに、浮動性めまいと起立性めまいに分けられます。
  浮動性めまいは、体が宙に浮いたように感じ、体がフラフラとするめまいです。平衡感覚をつかさどる脳そのものの障害のほか、心身症やうつ病などによっても起こります。
  起立性めまいは、いわゆる立ちくらみのことで、立ち上がったときに、一時的に目の前が暗くなるものです。起立性低血圧、自律神経失調症、脳底動脈不全症などによって起こります。
  また、めまいを伴う病気として有名なものに、メニエル病があります。この場合、周囲がグルグル回る発作性のめまいがくり返し起こり、耳鳴りや難聴を伴います。メニエル病では、内耳に内リンパ水腫と呼ばれる水ぶくれが見られるので、検査すれば、たいていわかります。
  めまいがあるときは、その原因を確かめる検査が大切なことはいうまでもありません。しかし、患者さんとしては、一刻も早くめまいがおさまるようにしてほしい、と考えるのが当然です。そこで医療の現場では、抹消知覚器官または脳の機能の改善をはかる、血圧を安定させる、十分な睡眠をとらせるなどの対症療法(症状の改善のみを目的とした療法)が行われています。
  さて、最近になって、血小板凝固能の亢進による微小循環障害、つまり血液が固まりやすくなって、抹消の細い血管の流れが悪くなったり、つまったりするのが、めまいの起こる大きな原因ではないか、という説が有力になってきました。
  事実、一般のめまいでも、メニエル病でも、患者さんの80%以上に、血小板凝固能の亢進がみられることが報告されています。そこで、最近のめまいの治療のさいには血液の凝固能と脂質を検査し、まずこれを改善することを指針としています。
  しかし、東洋医学では、この説が出てくるずっと以前から、めまいの原因の一つは血虚(血液の循環障害)であると、経験的にとらえていました。
  そして、めまいのもう一つの原因を水毒(水滞ともいう)、つまり、水分代謝(体内での物質の変化や入れ替わり)の障害と、さらに心身症的な気(生命エネルギー)の異常も考慮して、じょうずにめまいの治療をしてきたのです。
  めまいの原因は、検査技術が進歩した今日でもわかりにくいものです。したがって、くずれた体のバランスを整えることにより症状を取る東洋医学の手法が、めまいの治療にはたいへん適しているといえるでしょう。

もみじ 1ヵ月でめまいが完全に消えた
  めまいに対して効果的な漢方薬はたくさんあります。いずれも血虚、水毒を散らして循環をよくするものですが、めまいの状態をよく診て、きめこまやかな処方を選ぶことが大切です。
  静かにしているとなんともないのに、動くとクラクラするめまいや、立ちくらみがして、胃内停水(胃の中でピチャピチャと水音がする)があるときは、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)が適します。苓桂朮甘湯は、メニエル病に処方する漢方薬の第一選択としてもおすすめです。
  激しいめまいで、頭痛や不安感などの神経症状もある場合は、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)が効果的です。
  冷えがあれば、体を温めながら水毒を散らす真武湯(しんぶとう)が適し、頭が重く、胃内停水が目立つなら、沢瀉湯(たくしゃとう) がよいでしょう。
  実際にめまいが解消した例もたくさんあります。
  Mさん(男性・54歳)は41歳のとき、頭を動かすとめまいがするようになりました。大学病院でメニエル病ではないかといわれ、治療を受けてもいっこうによくならないため、当クリニックに来院されたのです。
  このときは沢瀉湯苓桂朮甘湯を1年間ほど飲み、めまいのほかに不眠も解消しました。1年間も飲んだのは、体調を整えるためで、めまいの症状は2〜3週間で改善しています。
  ところが、50歳のとき再び来院し、毎朝ひどいめまいがするようになったというのです。2年ほど前、C型肝炎になってからのことのようです。
  Mさんの上腹部にはつっぱり感があり、全身は固くこわばった感じがします。そこで、今度は、小柴胡湯(しょうさいことう)苓桂朮甘湯を飲んでもらうことにしました。
  結果は良好で、めまいは日を追って消えていき、2ヵ月後には「先月は、めまいが一度しか起こらなかった」と、うれしそうに話してくれました。5ヵ月後には、めまいは完全になくなり、全身のこわばりも消えました。現在は、肝炎の治療に小柴胡湯などの漢方薬を飲み、4年ほど経過を見ていますが、めまいの再発はありません。
  また、Aさん(女性・48歳)は、めまいと同時に耳鳴りにも見舞われました。そこで、沢瀉湯苓桂朮甘湯を2週間飲んでもらったところ、めまいは軽快したものの、耳鳴りが残っているといいます。
  舌を見ると、ふちがギザギザ(歯痕という)で、水滞が強く、気力がなくて疲れるということだったので、真武湯五苓散(ごれいさん) に処方を変えたところ、1ヵ月もしないうちに、めまいも耳鳴りも解消しました。状態をよく見て使えば、漢方薬は予想以上に早く効果を現すのです。
  めまいを防ぐために日常生活で注意したいのは、ストレスをためない、精神的に緊張した状態を長く続けない、睡眠は十分にとるという3点です。
  また、血液中に脂肪がふえると、当然、血液が固まりやすくなります。これもめまいの原因となりますから、過剰な脂肪の摂取はさけましょう。
  そして、めまいが起こったときには、(1)グルグル回るめまいか、フワフワするめまいか、立ちくらみか、(2)めまいの起こった時間帯はいつか、(3)めまいのほかに症状はないか、の3点を、きちんと医師に伝えると適切な治療が受けられます。

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