漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1996年5月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

もみじ【東洋医学ガイド1】 司馬遼太郎さんの死因<腹部大動脈瘤>と東洋医学療法

保険薬の活用がとても大切
  平成8年2月12日、作家の司馬遼太郎さんが腹部大動脈瘤破裂のため亡くなられました。彼のすばらしい著作が生み出されなくなったのはもとより、独自の哲学に貫かれた見解がもはや聞けないのは非常に残念なことです。
  司馬さんの死因である腹部大動脈瘤というのは、壮年期以降、とくに男性に発生しやすい病気であり、その破裂は決して他人事ではありません。
  腹部大動脈瘤とは、腹部の大動脈(心臓からでている動脈の大もと)にできた動脈の壁の瘤で、大動脈瘤の4分の3がこの部位に発生します。普通は動脈硬化が原因で起こります。痛みなどはありませんから、これができているだけでは、とくに体の不調を感じない限り、日常生活に不都合はないといえます。
  ところが、動脈瘤の大きさが6センチ以上になると、破裂の危険が出てくるのです。破裂した場合、大出血を起こしてショック状態に陥ります。さらに、心臓の停止を起こして生命にかかわることになります。
  破裂後、早期に手術すれば救命できますが、手術が遅れて全身の状態が悪くなると、助かる率が非常に低くなります。
  ですから、普段からの健康管理で動脈瘤を発生させない、発生してしまった場合でも破裂させないという予防策を講じることが非常に重要です。
  では、どのようなことに気をつかったらよいのでしょうか。
  一つは食事です。動脈瘤が発生するいちばんの原因は、動物の体内でできるコレステロールが動脈壁にくっついてアテローム性硬化症を起こすことにあります。ですから、高コレステロール食、高脂肪食は避けるのが賢明です。
  バランスのとれた食事ということもあげられます。そのためには、数種の食品に偏ることなく、数多くの食品を組み合わせ、季節の品なども取り入れたバラエティに富んだ献立を用意することが理想といえます。
  二つめは、運動です。激しいスポーツやトレーニングをすすめるわけではありません。自分の体重、体調に応じて、できるだけ自分の手足を使って動く、つまり、散歩や家事労働などを日常的にこまめに行うことが大切です。
  三つめは保健薬の活用です。東洋医学の考え方に「未病」というのがあります。これは簡単にいうと、日ごろの養生によって病気をしないよう注意するということです。
  そこで、肥満した人、高脂血症(コレステロール、中性脂肪など血清脂質が異常に増加した病態)といわれた人、血圧の高い人など、動脈硬化、ひいては大動脈瘤が発生する危険性の高い人たちに、保健薬、つまり予防策としての漢方薬の服用をおすすめしたいのです。漢方薬の原料は薬理作用のある自然の植物ですから、人間の体に受け入れられやすく、正しく使えば副作用もありません。
  大動脈瘤を予防したい人におすすめの漢方薬としては、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)大柴胡湯(だいさいことう)柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)七物降下湯(しちもつこうかとう)などがあります。いずれも便通をよくして腸管内の不要物を排出する働きがあり、血液の中のコレステロールや脂肪がふえるのを防いでくれます。ほかにものぼせ、ほてりを取り、体調を整える働きもあります。
  しかし、これはあくまで一般的な処方です。東洋医学の一つの分野である漢方薬は、専門の知識をもつ医師に相談し、個々の体質・体調を把握してもらったうえで処方してもらうのが望ましいし、もっとも効果があがります。
  また、東洋医学では患者さんの訴えを聞き、実際に幹部に手をふれてみます。そして、訴えのあった部分だけでなく、全身の状態をも診るので、病気の総合的な変調を探りあてることができるのです。

急な腹部の激痛が重要なサイン
  西洋医学では、ややもすると病気のある臓器だけに焦点をあて、原因を追究することにのみ力をそそぎがちです。また、具合の悪さを訴えても、検査結果に異常がなければ気のせい、年齢のせいと片づけられてしまうこともあります。
  少しでも体の不調を感じたとき早めになんらかの手段を講じれば、発病したり、症状を重くしないですむのです。こういった観点からも、東洋医学の漢方薬をじょうずに利用してほしいと思います。
  ここで再び、腹部大動脈瘤が原因でなくなった司馬遼太郎さんについて話を戻しましょう。新聞報道によると、司馬さんは2月10日の明け方に気分が悪くなり吐血、おなかの痛みを感じたそうです。
  ところが、普段から身体頑健であり、また忙しかったため、そのまま症状を放置して仕事を続けてしまいました。そして翌11日、腹痛ががまんできなくなってようやく病院に行き、すぐに手術を受けましたが、不幸な結果となってしまったのです。
  私はこの記事を読んで、同じく腹部大動脈瘤破裂のために亡くなった先輩の医師のことを思い出しました。いまから20年前、インドネシアでの国際学会にいっしょに出席したとき、先輩が食事中に腹痛を起こしたのです。
  しかし、医師の不養生とはよくいったもので、外国でもあり、急性胃炎かななどといいながら放置し、結局、2日後に腹部大動脈瘤破裂のため急死したのでした。
  ここで注目したいのは、腹部の痛みに関してです。いろいろな書物に書かれているにもかかわらず、医師も本人も見落としがちなこの腹痛が、腹部大動脈瘤破裂の前兆であることもあります。
  おへそのまわりあたりに、ちょうど胃炎や胃潰瘍のようなキリキリとした痛みがあるといわれ、そのとき腹部にさわると拍動(心臓の収縮のリズム)する腫瘤があるのがわかります。
  腹部大動脈瘤は破裂すると死亡率が高い病気ですが、前兆となる異常をキャッチしたさいに、医師の手による適切な処置を受ければ心配ありません。破裂前の腹部大動脈瘤の手術は危険率も低く、経過も良好です。
  しかし、少しでも異常を感じたら、すみやかに医師に診てもらうことをおすすめします。


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   必ず専門の医師にご相談ください。

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