漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1996年7月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド3】
脳の細胞を活賦して<脳梗塞>の後遺症をみごとに改善する東洋医学療法

血管の老化が脳梗塞を起こす
  脳梗塞とは、脳の血管がつまって、そこから先に血液が流れなくなる病気です。血液の流れが止まると、その部分の脳細胞は酸素不足に陥って壊死し、顔面や手足のマヒ、言語障害などの後遺症が残ります。
  脳梗塞には、脳の血管が血栓(血液のかたまり)によってつまる脳血栓と、脳以外のところ、たとえば、心臓などで発生した血栓や脂肪、腫瘍などが血液中を流れて来て脳の血管にひっかかる脳塞栓とがあります。
  脳血栓の場合、これを引き起こす最大の危険因子となるのは高血圧です。血管に強い圧力がかかり続けると、動脈硬化が進んで血管はもろくなり、血栓ができやすくなるのです。高血圧に次ぐ危険因子としては、糖尿病があげられます。糖尿病も動脈硬化を引き起こして血管をもろくし、血栓をできやすくします。
  脳塞栓では、心臓の血管にできた血栓が流れてきて脳の血管にひっかかり、つまることが多いようです。コレステロールや中性脂肪が心臓の血管にたまると、動脈硬化が起こって血栓が生じます。そのため、脳の血管に問題がなくても、心臓にトラブルがあれば、脳梗塞が起こる可能性は十分にあるのです。
  そのほかに、細菌のかたまりやガンなどの腫瘍が流れてきてつまるケースなどもあります。
  また脳梗塞には、自覚症状が出ないほど小さな微小脳梗塞と呼ばれるものもあります。微小脳梗塞で症状が現れることはありませんが、いずれ大きな脳梗塞を起こす前兆なので、予防に努める必要があります。微小脳梗塞は、CT(X線断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴断層撮影装置)を用いれば、簡単に発見することができます。
  また、一時的に脳の血管がつまり、脳細胞が壊死する前に、再び血液が流れ始めて症状が消える一過性脳虚血発作もあります。これも、くり返すと本格的な脳梗塞を起こすことになるので、注意が必要です。
  では、高血圧、糖尿病、高脂血症(血液中の脂質が多すぎる状態)といった脳梗塞になりやすい要素を持つ人、または、微小脳梗塞や一過性虚血発作の経験を持つ人は、脳梗塞に対してどのような予防策を講じればいいのでしょうか。
  ここで、漢方薬の出番となります。単に症状を消すだけでなく、全身状態の改善を目的とする漢方薬は、病気の素因を持つ人を発病させない(未病)というすぐれた特性をもっています。未病という視点は、東洋医学の持つ最も重要なポイントの一つなのです。
  まず、高血圧、高脂血症で体力の充実した人には三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)大柴胡湯(だいさいことう)柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう) などがおすすめです。同じ症状を持っていて体力の虚弱な人には、八味地黄丸(はちみぢおうがん)七物降下湯(しちもつこうかとう)釣藤散(ちょうとうさん)などがおすすめです。いずれも血圧を安定させるとともに、脳梗塞の予防にも役立つ処方です。
  糖尿病の人には、前述の八味地黄丸がおすすめです。これは、血糖値を下げるほか、老化に伴うさまざまな不快症状を改善させる妙薬として有名です。

劇的な効果を現した釣藤散
  以上の漢方薬は、脳梗塞に関して予防薬的な役割を果たしますが、実際に脳梗塞が起こってしまった場合でも、症状に応じて、これらの漢方薬が選択されます。
  最近、当クリニックを訪れた患者さんのなかから、脳の血流をよくし、脳細胞を賦活する(元気づける)働きのある釣藤散が非常に効果を現した症例をご紹介しましょう。
  75歳の男性Kさんは、昨年の11月に奥多摩へ釣りに行ったさい、頭痛とめまいにおそわれ、フラフラになって帰宅しました。他の病院で検査を受けた結果、脳梗塞と診断され治療を受けましたが、依然として千鳥足でしか歩けないような状態でした。
  血圧はやや高めで、舌と腹部を診ると、血液と水分のとどこおりが強く現れています。そこで釣藤散八味地黄丸を処方したところ、わずか4週間でまっすぐ歩けるようになったのです。
  Kさんはそれでもまだ、めまいが残っているというので、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)も処方に加えました。これが昨年の12月のことです。その結果、今年の1月に入った最初の診察時には、めまいが消え、半夏白朮天麻湯は中止しました。
  このとき驚いたのは、Kさんが自分一人で電車を乗り継ぎ、歩いてクリニックに来たことでした。1ヵ月ほど前には足どりがフラフラし、娘さんに同伴してもらわなければまっすぐ歩けないような状態だったのです。以来、Kさんはずっと一人で通院し経過はきわめて良好です。
  脳梗塞は、できる部位によって命にかかわる場合もありますので、脳および全身の血液の流れをよくしておくことが重要です。そのためには、前述の漢方薬を服用すると同時に、過度の飲食や喫煙は控え、動物性脂肪や刺激性食品の摂取もほどほどにして、栄養バランスのとれた食事を心がけてください。


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