漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1996年9月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド5】
もみじ 原因不明で治療も困難な<慢性疲労症候群>に劇的に効いた漢方薬

もみじ 放置すれば死にも至るおそろしい病気
  4〜5年前、私の友人の大学教授が、突然倒れて亡くなったことがあります。亡くなった後いろいろ調べてみましたが、けっきょく、原因はわかりませんでした。
  思い当たることといえば、疲れてしようがなく、会議に出るのもつらいといっていたこと、顔がむくみ、首のリンパ腺が腫れたり、微熱が出たりしていたことくらいでした。
  これらは、当時ようやく注目され始めていた、慢性疲労症候群という病気の症状に当てはまります。私が、慢性疲労症候群を放置すると危険であると深く認識したのは、この一件がきっかけでした。
  慢性疲労症候群は、いままで健康に生活していた人が、突然、寝込んでしまうほど激しい疲労感におそわれ、それが半年以上続いたり、再発をくり返したりする病気です。
  この病気にかかると、いろいろな検査をしても、特別な異常は認められません。内科的な病気が原因で、異常な疲れが起こるわけではないのです。といって、精神的な疾患でもありません。そのため、慢性疲労症候群という病名が知られるまでは、気のせい、怠け病と誤解されることもあったようです。
  しかし、4〜5年前から、日本でも慢性疲労症候群の存在が注目され始め、現在では、厚生省の研究班による診断基準も作成されています。それによると、以下の自覚症状および所見の組み合わせがあり、ほかの疾患がないと認められたとき、慢性疲労症候群と診断されることになっています。
  慢性疲労症候群の診断基準とは、(1)激しい疲労感、(2)微熱、(3)咽頭痛、(4)リンパ節腫張、(5)筋力低下、(6)筋肉痛、(7)頭痛、(8)移動性関節痛、(9)精神神経症状(極度に光をまぶしがる、視界に暗転が生じる、健忘、興奮、ぼんやりする、思考力・集中力の低下、うつ状態)、睡眠障害(過眠、不眠)などです。
  疲労感のようなあいまいな症状については、PS(生活状態)に0〜9まで10段階の定量性を持たせ、そのうちのPS3以上を慢性疲労症候群に該当すると定めています。
  しかし、血液などの各種の検査では、まったく異常が見られないので、病気と気づかないことも多いようです。調べて悪いところはないのだから、過労で調子が悪いだけだと思い込んでしまうのです。
  ときには、自律神経失調症(意志とは無関係に内臓や血管などの働きを支配している神経のバランスが狂って起こる体の不調)や更年期障害(更年期に起こるさまざまな不快症状)と診断され、適切な治療が受けられないこともあります。このように、検査で異常を発見できず、原因も不明である慢性疲労症候群のような病気を診断・治療するのは、現代医学にとってむずかしいことなのかもしれません。
  実際、治療法も、痛み止めや精神安定剤の投薬など、対症療法(症状のみの改善を目的とした療法)しかありません。そのため、西洋医学の専門書に、慢性疲労症候群の有効な治療法として漢方薬が紹介されているほどです。

もみじ 半年で会社に復帰できた
  東洋医学では、検査では見つからない体の異常も、経験的にとらえることができます。患者さんの状態をよく観察し、症状の訴えを聞き、脈やおなかの状態などを診れば、悪い部分がおのずと浮かび上がってきて、必要な処方が決まるのです。
  慢性疲労症候群の治療に用いる代表的な漢方薬としては、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)があげられます。補中益気湯は、柴胡人参黄耆を中心に10種類の生薬(漢方薬の原材料)を配合した漢方薬で、体力と疲労の回復に効果があり、とくに気力のおとろえた人には最適の処方です。
  また、顔色が悪く、貧血傾向が認められる場合には、当帰地黄といった補血作用のある生薬が加わった十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) を、神経症的な症状や睡眠障害が強い場合には、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう) のような精神の安定をもたらす漢方薬を処方することもあります。なお、これらの漢方薬は体力と気力を補うので、「補剤」とも呼ばれています。
  私のクリニックにも、慢性疲労症候群とおぼしき患者さんが何人か訪れているので、治療の実例を紹介しましょう。
  50歳の会社員Oさん(男性)は、疲れが激しく病気を疑って病院で検査を受けましたが、異常なしでした。ところが、全身の倦怠感はつのるばかりで、とうとう会社を休み、そのまま出勤できなくなって、平成7年の4月、当クリニックに来院されました。
  Oさんの症状は実にさまさまで、口のまわりの湿疹、体のだるさ・重さ、動悸、息切れ、めまい、立ちくらみ、目のかすみ、のどの渇き、寝つきや寝起きの悪さなどを訴えました。
  おなかにさわってみると、胸脇苦満と呼ばれるみずおちの緊張があり、普通、男性にはみられないヘソまわりの動悸が感じられました。体重も以前より3キロほどへったそうです。
  そこで、補中益気湯に加え、虚弱な胃腸を回復させる人参栄養湯(にんじんえいようとう)と、生命の源である「腎」を強化する八味地黄丸(はちみじおうがん) を処方しました。すると、2ヵ月後に疲れが取れた、というのです。
  さらにもう2ヵ月たつと、動悸も取れ、おなかの状態もよくなったので、補中益気湯はそのまま服用してもらい、ほかの2つの処方を変えながら様子をみました。
  その結果、10月にはすべての症状が軽快し、年末には完全に回復したのです。いまでは、仕事をする意欲ももどり、毎日、元気に出勤しています。
  また、61歳の自営業Mさん(女性)は、やはり疲れがひどく、関節や腰の痛み、口内炎、頭痛などで寝込むほどなのに、検査の結果は異常なしといわれて、当クリニックへ来院されました。
  Mさんには、補中益気湯と、頭痛に効果のある苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう) を処方しました。こちらも、約2ヵ月の服用で体力と気力が回復し、その後も一つずつ不快症状が取れていって、8ヵ月たったころには、顔の色ツヤもよくなって、若返ったといわれるくらいまで回復しました。
  体になにか不調があって、それが半年以上続いた場合、健康診断の結果が異常なしであっても安心だとは限りません。慢性疲労症候群のような、検査の結果に出ない病気もあるのです。いつまでも体調が悪い、非常に疲れる、しかし、検査してもどこにも悪いところはないという人は、一度、漢方専門の医師の診断を受けてみてはいかがでしょうか。


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