漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1997年10月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド18】
もみじ 大人のアトピーをステロイド剤をへらしながら免疫力を高めて治す漢方治療

もみじ いまやステロイドは決め手にはならない
  アトピー性皮膚炎といえば、従来は乳幼児期に発症し、慢性化したり再発をくり返したりしても、思春期までには大部分が軽快する疾患でした。しかし、ここ10数年ほどは、成人してから発症する、成人型アトピー性皮膚炎が増加する傾向を見せています。
  アトピー性皮膚炎の症状は、年齢によって異なり、乳幼児期では顔や頭のじくじくした湿疹が特徴ですが、小児期では皮膚の乾燥が目立つようになります。そして成人期では皮膚炎が広範囲に分布するようになり、とくに顔、首、ひじやひざなど関節屈曲部の内側などの皮膚が、赤みを帯びて厚く固くなってきます。そして、なによりもかゆみが非常に強いのが特徴です。
  アトピー患者の血液を調べるとIgE(免疫グロブリン)と呼ばれる抗体(病原体などの異物が体内に侵入したときにこれを撃退する物質)がふえていることから、発症には免疫(体の抵抗力を支える機構)がかかわっていると推測されていますが、ハッキリした原因はまだ解明されていません。
  また、家族にアトピー性皮膚炎のほか、ぜんそく、鼻炎といったアレルギー性の疾患を持つ患者が多いこと、本人に合併症(1つの病気に伴って起こる他の病気)としてぜんそく、鼻炎があることが少なくないのも、アトピー性皮膚炎の特徴です。このことから、アトピーは皮膚だけでなく、全身に関係する疾患であることがわかります。
  現代医学では、かゆみを止める薬の内服と各種の軟膏の外用を中心に、ダニやホコリ、ある種の食品やストレスといったアトピー性皮膚炎の症状を悪化させるような要因(憎悪因子)を身のまわりから取り除くなどして、さまざまな治療に努めています。
  しかし、以前は多少の副作用の問題はあっても、アトピー性皮膚炎の治療薬として切り札的な存在であった副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)すらも、現在の重症化、難治化する一方のアトピー性皮膚炎に対しては、決め手になる治療となりえなくなってきています。

もみじ 熱を冷まして血流を促す
  現代医学の治療で治らないからと、東洋医学の門をたたくアトピー性皮膚炎の患者は少なくありません。漢方薬がアトピー性皮膚炎に万能というわけではありませんが、以下のような観点からアトピー性皮膚炎の治療に適しているといえます。
  1つは、アトピー性皮膚炎は単に皮膚だけの疾患ではなく、全身的な免疫の低下が招く疾患であること。2つめは、アトピー性皮膚炎の症状が悪化する要因は人によりさまざまで、症状の現れ方にも違いがあることから、画一的な処方ではなく、個々に対応したきめ細かな処方が求められることです。
  また、長期にわたって治療が必要な場合でも、医師の指導のもとに正しく用いていれば、副作用の心配がないことも漢方薬の利点といえます。
  では、どんな漢方薬を用いるのでしょうか。アトピー性皮膚炎の患者は、おおむね体に熱を帯びているか、皮膚がどす黒く、見るからにお血(血液のとどこおり)があるとわかるかのどちらかです。そこで、清熱剤(熱を冷ます薬)と駆お血剤(お血を改善する薬)をおもに用いるのです。
  具体的な処方名としては、消風散(しょうふうさん)黄連解毒湯(おうれんげどくとう) 治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)桂枝加黄耆湯(けいしかおうぎとう)白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)温清飲(うんせいいん) 加味逍遥散(かみしょうようさん) などがあげられます。これらを症状や体の状態、合併症のあるなしによって、使い分けるのです。

もみじ 3ヵ月でかゆみも赤みも取れた
  それでは、いくつか症例をあげてみましょう。
  28歳の男性Sさんは、子供のころから軽いアトピー性皮膚炎でした。悪化したのは20歳を過ぎたころのことで、ステロイド剤をぬっても飲んでもいっこうによくなりません。顔と上半身は真っ赤で、乾燥した皮膚がはがれてポロポロ落ちているような状態でした。また、かゆみも想像を絶する激しさだということでした。さらに、汗をかく、のどが渇くといった訴えもありました。
  そこで、温清飲治頭瘡一方を3ヵ月飲んでもらったところ、これでかなりかゆみが取れたので、皮膚保湿のための軟膏をステロイド入りのものからワセリンに変えることにしました。内服していたステロイド剤のほうも、徐々に量をへらして、この時点で中止しています。
  いまは温清飲の代わりに白虎加人参湯を飲んでいますが、お風呂上りや寝る前以外はかゆみもなく、皮膚の赤みも取れて、だいぶきれいになっています。
  21歳の女性Hさんは、子供のころに気管支ぜんそくがあり、20歳のときにアトピー性皮膚炎が出ました。全身がかゆく、とくに顔と首は赤くほてって痛々しいほどでした。
  汗をかきやすい、舌苔がまだらになっているといった症状から、水毒(水分の代謝が悪い状態)があり、なおかつお血もあると見られたので、桂枝加黄耆湯荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)治頭瘡一方を飲んでもらったところ、2ヵ月ほどでよくなりました。
  治頭瘡一方は、一般に顔の症状がひどい成人によく効く処方ですが、これも人によりけりです。治頭瘡一方でよくならない患者に、白虎加人参湯を処方してよくなった例もあります。
  ほかにも、3歳からずっと一進一退のアトピー性皮膚炎に悩まされ続け、20歳で一気に症状が悪くなった人が、4ヵ月ほどで外見的には正常な皮膚と変わりないぐらいまでに回復した例。30歳を過ぎてから発症し、20年近く治らず皮膚がデコボコになってしまった人が、2ヵ月で快方に向かい、1年でなめらかな皮膚に戻った例などもあります。
  アトピー性皮膚炎の場合、スキンケアに気をつけることも大切です。汗をかいたらすぐふき取り、入浴時には刺激の少ない石けんを用いて、入浴後は水分や油分を補ってください。衣類や寝具なども清潔で刺激の少ない素材を選びましょう。
  食事では、食べると明らかに症状が悪化するものは食べない、肉や赤身の魚は食べ過ぎないようにする、野菜を多く取るなどがあげられます。
  なお、アトピー性皮膚炎では、患者と医師がよく話し合うだけでなく、触診などのスキンシップをも密にして信頼関係を築きあげると、治療効果がよりすみやかに出るように感じます。
  患者と医師双方の、病気を治そうという意志がガッチリかみ合えば、症状は必ず快方に向かうはずです。病歴が長い人でも治らないとあきらめず、古来から伝わる東洋医学の叡智にかけてみてください。


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