漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1997年11月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド19】
もみじ 下痢と便秘をくり返す過敏性腸症候群を腸の働きを正常にして治す名漢方薬

もみじ 精神的な原因で腸の機能が低下
  ここ数年、急増している腸の病気に、過敏性腸症候群があります。厳密にいえば、神経性胃炎と合わせて、胃腸神経症と呼ばれる疾患ですが、ここでは過敏性腸症候群にしぼって、お話することにします。
  過敏性腸症候群は、下痢と便秘が交互に起こりますが、調べてみても腫瘍やコブのような病変はありません。ただ、腸の働きが悪くなっているだけなのです。近年、過敏性腸症候群は、国際的にも患者数がふえていることから重要視され、必ず腹痛を伴う腸の機能的疾患と定義されています。下痢と便秘をくり返しても、痛みがなければ、おそらく慢性の腸炎でしょう。
  腸が機能の低下を起こす原因としては、精神的なものが大きいようです。会社が休みの土曜日や日曜日はなんともないのに、平日の出勤前になると、下痢で何度もトイレにかけ込むという人も少なくありません。
  試験前になると下痢をしたり、旅行をすると便秘になったりする人もいますが、過敏性腸症候群はその状態が病的に激しくなったもので、ささいな緊張にも過敏に腸が反応して、伸びたり縮んだりして痛むのです。
  西洋医学では、精神安定剤を中心に、痛み止め、下痢止め、便秘薬などを使って、症状を一つ一つ抑え込んでいく治療法をとっています。しかし、このような精神的な要素が発病にからんでくる複雑な疾患は、治療がむずかしいものです。
  便秘と下痢をくり返す症状だけをとってみても、いちいち薬を変えなければなりません。西洋医学の薬では、下痢止めと便秘薬は相反する働きを持つものだからです。
  ところが漢方薬には、便秘と下痢の両方に効く便利なものがあります。さらに、精神を明るくする働きのある「気剤」という薬もあります。これには習慣性がないので、安心して長く飲むことができます。
  また、過敏性腸症候群のように、発病に精神的な要因が大きくかかわっている疾患では、同時に自律神経(意志とは無関係に内臓や血管などの働きを支配している神経)の失調を起こして、のぼせ、動悸、立ちくらみなどを訴える人も多いものです。
  漢方薬による治療なら、こういった自律神経の失調に関する症状も、便秘や下痢、ストレスを解消しながら改善していける利点があります。

もみじ 腸だけでなく全身の血流も促す
  さて、私は先ほど、下痢と便秘の両方に効く薬があるといいましたが、要するにそれは、腸の機能を正常に戻す薬です。
  腸が弱って刺激に耐えられず下痢をするのなら、腸の働きを強め、腸がけいれんして便が出ないのなら、けいれんを止めてやる。腸の機能を元に戻すとはそういうことです。その結果、下痢も便秘もおさまるのです。
  また、全身の血液のめぐりをよくすることも大切です。腸の血流をふやし、腸の働きを高めるからです。さらに、このような漢方薬は単純に腸のみに働きかけるのではなく、全身に作用して、体調を整えてくれます。
  では、そういった働きのある漢方薬には、どんなものがあるのでしょうか。
  まず、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)があげられます。冷えがあり、下痢、腹痛がするタイプの過敏性腸症候群に有効です。便秘傾向が強い人には、これにゆるやかな下剤である大黄を加えた桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)をおすすめします。
  中健中湯(ちゅうけんちゅうとう)も、下痢と便秘をくり返し腹痛のある人によく効く薬です。これは、オナラの出にくい腹満、腹痛のある腸症候群に向く大建中湯(だいけんちゅうとう)と、おなかの緊張が強く、腹痛を訴える腸症候群に向く小建中湯(しょうけんちゅうとう)を合わせた薬です。
  神経症的な傾向の強い過敏性腸症候群の場合は、加味逍遥散(かみしょうようさん)もよいでしょう。下痢が止まりにくい、出血もあるという場合には、当帰健中湯(とうきけんちゅうとう)啓脾湯(けいひとう)が効果を発揮することもあります。

もみじ 13年間悩まされたしぶり腹が治った
  具体的には、過敏性腸症候群で長く下腹部の不快感に悩まされていた60歳の女性K・Sさんが、当帰健中湯加味逍遥散桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の3種類の漢方薬を飲んで、3ヵ月ほどで症状が軽快した例があります。
  K・Sさんは下腹部に痛みと不快感があり、血便が出たり、便秘をしたり、おなかがゴロゴロ鳴ったりして、いつもつらかったそうです。検査では腸に異常はなく、いろいろな薬を試しましたが、どれも思うような効果は得られませんでした。自分で腸が動くのがわかるといっていましたが、下腹に力がなく、お血(血液の流れが停滞した状態)の所見もありました。
  3種類もの漢方薬を飲むのは少々たいへんだったと思いますが、飲んで比較的早く便通が一定し、おなかがスッキリしたので飲み続けることができたそうです。
  49歳の男性M・Tさんは、昭和60年に過敏性腸症候群と診断されて以来、13年もの間、いわゆる“しぶり腹”に悩まされていました。おなかの調子は下痢と便秘が交互にくるが、やや下痢傾向が強いといったふうで、ほかに、めまい、精神不安定、高血圧など自律神経失調症の症状も見られました。
  そこで、啓脾湯を処方したところ、わずか1ヵ月でしぶり腹が治り、血圧も基準値内に戻ったのです。
  過敏性腸症候群の人が日常生活で注意したいのは、生活のリズムを整えるよう努力することです。腸が弱いなら弱いで、下痢や便秘を防ぐ方法はいくらでも考えられます。
  極端に熱いもの、冷たいものの摂取はさけます。暴飲暴食もやめ、腹八分めを守りましょう。脂っこいもの、刺激物もひかえたほうがよいでしょう。
  気持ちの持ち方を変えようとする努力も必要です。気が弱かったり、神経質だったりするところは認めたうえで、開き直るのです。悟りを開くくらいの気持ちを持つのもよいでしょう。
  また、過敏性腸症候群の人でも、四六時中おなかがピーピーゴロゴロしているわけではありません。出勤前や就業中は調子が悪くても、退社時刻を告げるベルが鳴ったとたん、スッキリするという人もいます。そのように調子がよいときもあるのですから、くよくよと気に病まなくても大丈夫なんだと、自分にいい聞かせましょう。
  過敏性腸症候群は精神的なものが原因で起こる病気ではありますが、原因がなんでも病気は病気です。きちんと治療し、症状の管理をおこなえば治りますから安心してください。


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