漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1997年12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド20】
もみじ 膀胱炎の人の冷えを取り除き再発しにくい体質を作る漢方の妙薬

もみじ 抵抗力の落ちたときかかりやすい膀胱炎
  膀胱炎には細菌感染によって起こるものと、そうでないものとがあります。尿検査をすればすぐわかりますが、一般に多いのは、細菌感染によって起こる膀胱炎です。
  急性膀胱炎は、「膀胱のカゼ」と表現する人もいるくらいポピュラーな疾患で、主な症状は頻尿(頻繁に排尿したくなること)、排尿痛、残尿感(尿が全部出きらない感じ)などです。男性よりも女性に多く見受けられ、原因となる菌のほとんどは大腸菌です。
  膀胱には、たまった尿を排泄するときの洗浄効果による感染防止機構と、膀胱粘膜自体の持つ細菌に対する抵抗力とがあるため、普通は多少の細菌が入ってきても、心配はありません。
  しかし、冷えや過労、長時間排尿をがまんするなどの原因によって、細菌に対する抵抗力がおとろえているときに大量に菌が入ってくると、膀胱炎になってしまいます。
  抗生物質(細菌の成育・繁殖を抑える薬)を飲めば、3日ぐらいで主な症状は消えますが、再発防止のため、さらに4〜10日ぐらい薬を飲み続けます。
  急性膀胱炎に対して、慢性膀胱炎というものもあります。
  これは、糖尿病や前立腺肥大などによる下部尿路通過障害、神経因性膀胱(膀胱および尿道を支配している知覚・運動神経がおかされ、正常な排尿機能を保持できない状態)、尿路結石などの基礎疾患を有する複雑性膀胱炎が主で、高齢の男性に多く見られます。薬を飲むだけでは完治しないので、原因となっている疾患を治す必要があります。
  また、膀胱炎とまぎらわしいものに、冷えによる頻尿と、神経性の頻尿があります。誰しも、寒くなると膀胱が拡張しにくくなって、頻繁に尿意を感じやすくなるものです。
  神経性の頻尿は、精神的な緊張や感情的な興奮によって、膀胱の緊張が高まるために起こります。大事な試合や試験の直前にトイレに行きたくなるのは、典型的な例です。
  この2つのタイプの頻尿が合わさるときもあります。体が冷えて頻尿傾向にあるとき、講演会や観劇などにでかけ、トイレをがまんしようと思えば思うほど、尿意を感じてしまう場合などがそうです。

もみじ 多用すると効果が薄れる抗生物質
  東洋医学の治療は、急性・慢性、いずれの膀胱炎の治療にも効果を発揮します。
  細菌感染による急性の膀胱炎では、漢方薬と抗生物質を併用すれば、治療効果が早く出るうえ、再発を防ぐこともできます。慢性の膀胱炎では、原因となる疾患を治療するまでの間、症状を緩和するために漢方薬を使います。
  しかし、漢方薬が最も有効なのは、くり返しかかる一過性の単純な膀胱炎に対してです。膀胱炎は抗生物質で治療できる疾患ですが、やっかいなのは何度もくり返しかかる人が少なくない点です。
  抗生物質は、最初のうちこそ切れ味鋭く効きますが、多用すると、だんだん効かなくなってくることがあります。それに対して漢方薬は、何回用いようとも、変わらず効果を発揮するのです。
  したがって、疲れたりカゼをひいたりして体力が落ちたときなどに、習慣のように膀胱炎になってしまう人にとって、漢方薬は強い味方となります。
  膀胱炎の治療に最も多く使われる漢方薬は、猪苓湯 (ちょれいとう)です。利尿作用(尿の出をよくする働き)のある5つの生薬(漢方薬の原材料)から構成されており、頻尿、排尿痛、残尿感、ときに血尿が見られる人に用います。
  高齢者など、体力が低下していて冷えのある人には、五淋散(ごりんさん)を使います。こちらは11種類の生薬から構成されており、利尿作用のほか、体力を補ったり、体を温めたりする作用もあります。胃腸が弱い、神経質、冷え性という人には、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)もよいでしょう。
  なお、膀胱炎に限らず、冷えや神経的な原因による頻尿を改善するのも、東洋医学の得意分野です。当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)四物湯(しもつとう)真武湯(しんぶとう)など、たくさんの処方があります。

もみじ 足腰を温め体を疲れさせない
  それでは、膀胱炎に漢方薬が効果的だった症例をあげてみましょう。
  42歳の女性A・Uさんは、私のクリニックへ来院する2年前にも膀胱炎を経験していました。そのときは抗生物質で治りましたが、胃腸が弱いので、薬による胃もたれや不快感に苦しい思いをしたそうです。
  排尿回数は、昼間が最低10回以上、夜が1〜2回で尿が出るまでに時間がかかる、1回に出る尿の量が少ない、残尿感があるという訴えもありました。また、背中がスースーするぐらい体が冷えるかと思えば、のぼせて、めまいがすることもあったそうです。
  そこで、猪苓湯に加え、冷えとめまいを取るための真武湯、あるいはめまいと水毒(水分の循環が悪いこと)に有効な苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を飲んでもらったところ、1ヵ月で頻尿が解決し、3ヵ月後にはほかの不快症状もすべて取れました。
  また、70歳の女性E・Sさんは、たえず膀胱炎をくり返していました。血圧も高く、舌のふちはギザギザで、水毒の兆候が見られます。E・Sさんには、五淋散を3ヵ月飲んでもらったところ、すぐに膀胱炎がおさまり、いまだに再発もありません。
  そのほかにも、膀胱ガンの手術後に、血尿の出る膀胱炎に悩まされるようになった男性が、猪苓湯きゅう帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)でよくなった例。1日15回もの頻尿で仕事も手につかなかった男性が、八味地黄丸(はちみぢおうがん)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)でよくなった例などがあります。
  膀胱炎になりやすい人が注意したいのは、足腰を冷やさないことと、体を疲れさせないことです。長時間排尿をがまんしたり、寒いところにいたりするのもさけましょう。
  冬場は防寒をしっかり行います。冷えは体の末端部から始まるので、厚手の靴下や手袋を使うことをおすすめします。腰に使い捨てカイロを当てておくのもよいでしょう。
  ニンニクやショウガなど体を温める食品を適度にとり、アルコール類や香辛料などの刺激物の摂取は控えましょう。手足のマッサージやツボ押しで血液の循環を促すのも膀胱炎の予防に役立ちます。また、足を洗面器にはったお湯につける「足浴」も、全身の血行をよくするのでおすすめです。
  なお、トイレが近くなるからと、水分の摂取を控えるのは逆効果になります。急性膀胱炎の場合、むしろたっぷり水を飲んで尿をたくさん出し、膀胱の細菌を洗い流したほうがよいのです。


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必ず専門の医師にご相談ください。

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