漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1997年4月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド12】
もみじ パーキンソン病患者の体力を増強し病気の進行を止める漢方薬

もみじ 薬の使用を最小限にとどめることが大切
  高度に医学が発達した今日でも、発病の原因が不明で、かつ決定的な治療法も確立されていない、いわゆる難病と呼ばれる病気があります。
  パーキンソン病もその1つです。パーキンソン病は、1817年にイギリスの病理学者であるパーキンソン氏が病状報告をくわしくまとめたことが、病名の由来になっています。
  症状の特徴としては、手足のふるえ(振戦)、筋肉のこわばり(筋固縮)、動作の緩慢(寡動・無動)、姿勢反応の障害などがあり、その現れ方は病気の進行度によってまちまちです。(表参照)

  ふるえやこわばりは、まず体の左右どちらかから起こり、徐々に反対側にも起こってきます。その後、日常の動作に遅れなどが見られるようになり、もっと病気が進行すると、顔から表情がなくなったり、姿勢が前かがみになったりしてきます。そのほかの症状としては、狭い歩幅でしか歩けなくなる(小きざみ歩行)、歩き出すと勢いがついて止まれない(突進現象)、などもあります。
パーキンソン病の重症度分類
ステージ
症  状
I
体の片側だけの振戦、固縮
II
体の両側の振戦、固縮、寡動、無動
III
不安定な方向転換、突進現象
IV
起立や歩行など日常動作の著しい低下
V
介助による車イス移動または寝たきり
  日本では、人口10万人あたり50〜80人の患者がいると報告されています。しかし、パーキンソン病は、おもに中高年期に発病し、ゆるやかに進行していくので、中高年層に限った患者数の割合はもっと高いはずです。
  パーキンソン病は、中脳の黒質と呼ばれる部分にあるドーパミン神経細胞が変性・脱落して、神経と神経の間に情報を伝える物質(ドーパミン)が少なくなると発病します。
  なぜドーパミン神経細胞が変性・脱落を起こすのかは、よくわかっていません。しかし最近の研究では、遺伝や加齢といった要因のほかに、体内に発生したり対外から持ち込まれたりする毒素が、原因として注目されています。
  なお、パーキンソン病によく似た症状を持つ病気に、本態性振戦と呼ばれる手のふるえがあります。また、動脈硬化や、脳炎、薬の副作用などで手がふるえることもありますので、きちんと検査を受けましょう。
  現在、パーキンソン病の治療は、低下したドーパミンを補充する薬物療法を中心に行われています。しかし、これは根本的な治療ではなく、対症療法(症状のみの改善を目的とした療法)でしかありません。
  しかも、長期にわたって使用すると、さまざまな副作用が出たり、しだいに薬が効かなくなってきたりします。パーキンソン病は、発病したら一生付き合わなければならない病気ですから、初期のころからしっかりと治療計画を立て、薬の使用を必要最小限にとどめるよう努力することが大切です。そのために、私は漢方薬を大いに活用してもらいたいと考えます。

もみじ 手足のふるえが1ヵ月で止まった
  東洋医学では、パーキンソン病には厚朴がよいとされています。厚朴はホオノキの樹皮で、けいれんを抑える作用と筋肉の緊張をゆるめる作用があります。厚朴だけでパーキンソン病の進行を止めた例も報告されていますが、通常は単独ではなく、緩下作用(ゆるやかなお通じをつける働き)を持つ大黄、鎮痛作用がある枳実と合わせた小承気湯(しょうじょうきとう)を処方します。
  また、これに筋肉の緊張と弛緩を調整する作用のある芍薬、鎮痛・解毒作用があり、味を整える役割も持つ甘草を加えることもあります。さらに、落ち着きがなく、不安、不眠があるようなら、抑肝散(よくかんさん) を合わせることもあります。
  もちろん、この「さじ加減」は個々の患者さんの症状、体質によって違います。症例から具体的な処方を紹介しましょう。
  56歳の女性・Hさんは、2年前に右の手足がふるえ始め、いくつかの病院を回ってパーキンソン病の初期と診断されました。しかし、薬を飲んでもふるえが取れない、といいます。
  Hさんには口の渇きとめまいもあり、おなかを診ると、軽いみずおちのつかえと、下腹部の軟弱感がありました。これは腎虚(生命力の衰え)を表す証(漢方的見方による体の状態)です。
  そこで、まず柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)五苓散(ごれいさん)八味丸(はちみがん)を2週間飲んで基礎体力をつけてから、小承気湯芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を飲んでもらうことにしました。すると、2週間の服用で手足のふるえが減少したため、小承気湯厚朴の量をふやして1ヵ月飲んでもらったところ、手足のふるえがほとんど消えました。
  現在、小承気湯芍薬甘草湯を服用して3ヵ月になります。まだ、わずかに手がふるえることがありますが、Hさん自身は、気になっていたふるえがなくなってよかった、今後も漢方薬を飲み続けたい、といっています。
  65歳の女性・Kさんも、2年前、大学病院でパーキンソン病と診断されて、治療を受けていました。しかし、手足のふるえ、声のかすれ、疲れ、動作の緩慢がどうしても取れない、といいます。少々血圧が高く、便秘傾向もあり、さらに、ふるえが始まった2年前に比べると10キロもやせていました。
  ヘソの上には動悸があり、下腹部の軟弱感も非常に強い状態です。Kさんには、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)八味丸で体力をつけ、加味逍遥散(かみしょうようさん)烏薬順気散(うやくじゅんきさん)で高い血圧を下げてから、小承気湯芍薬甘草湯に切り替えました。
  その結果、1ヵ月で食欲および片づけものなどをする気力が戻って体重がふえ、便秘が解消し、2ヵ月で手足のふるえがほとんど消えました。まだ動作が緩慢で、左手に少しふるえが残っていますが、Kさん本人はだいぶよくなった実感がある、と喜んでいます。

もみじ 現代医学との併用が功を奏す
  パーキンソン病の治療の主眼は、完治ではないものの、日常生活に不都合がない程度に病気の進行を止めることにあります。そのためには、現代医学の治療をするとともに、いろいろな方法を活用して症状の軽減をはかるべきです。
  Hさんのように症状が軽いうちに漢方薬を併用すれば、病気の進行は十分に止められますし、KさんのようにステージIIIくらいまで重症化した場合でも、改善する例はあるのです。
  パーキンソン病は治らないとあきらめず、最新の知識を備えた現代医学と、古くからの経験に裏打ちされた知識を持つ東洋医学の両方を駆使して、病気の進行をくい止めてください。
  日常生活の注意点としては、バランスよくなんでも食べ、適度な運動をかかさないことがあげられます。そして、手のふるえに気がついたら、こんなことくらいと放置せずに、早急に検査を受けることをおすすめします。

line

漢方治療は、その時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
当クリニックでは、経験豊富な漢方医があなたに合った治療を提案します。お気軽にご相談ください。



Copyright(C)昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます