漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1997年7月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド15】
中高年の深刻な悩み精力減退を男女を問わず解決する漢方の回春薬

生活全般にかかわる深刻な問題
  疲れやすく根気がない、肩や首がこる、尿の出が悪く、夜中に何度もトイレに立つ、目が疲れて小さな文字が読みにくい――40〜50代の人に現れるこんな症状は、残念ながら老化の始まりを示す現象にほかなりません。そして、これらの症状に加え、精力の減退を感じるという人も少なくないのではないでしょうか。
  精力減退は20〜30代なら明らかに問題ですが、40代もなかばを過ぎると、性腺の機能低下として、ある程度自然なことでもあり、現代医学においては治療の対象になるかどうかさえむずかしいところです。。
  治療法も確立されておらず、糖尿病などの病気によるインポテンスを、原因となる病気の治療によって改善させるくらいしかありません。カウンセリングで精神的に問題解決をはかることに重点が置かれ、医学的にはあまり関与されていないのが現状です。
  しかし実際には、精力の減退は多くの中高年にとって深刻な問題です。とくに男性の場合、性的な欲求や勃起のあるなしといったことを自らの男らしさの証明のように思っている人も多く、その能力が衰えてきたことで、精神的に落ち込むこともあるようです。
  また、性的な欲求は生き物としての人間の、ごく基本的な欲求です。性欲が衰えてくると、仕事や知的探究心など、生活全般にかかわる欲求もまた衰えてくる場合が多いので、これも問題となります。

八味地黄丸は若返りの秘薬
  一般に、精力の減退を訴える人が目立つのは50代ですが、現代の50代は働き盛りで、精神的にも肉体的にもまだまだ充実している時期といえます。それにもかかわらずすでに精力の減退があるといった場合、東洋医学では、体のどこかにバランスをくずしたところがあるのではないか、と考えます。
  そして、冒頭で述べたいくつかの老化症状があり、なおかつ臍下不仁という下腹部(ヘソの下)に力のない状態があるようなら八味地黄丸(はちみぢおうがん)八味丸(はちみがん)を処方します。
  自分でヘソの周辺をさわってみて、下腹部の感覚が鈍いようなら、東洋医学の門をたたくのも一つの方法でしょう。
  八味地黄丸は「若返りの秘薬」ともいわれ、古くから伝わる漢方の妙薬です。精力減退のほか、前立腺肥大や糖尿病、更年期障害、腰痛、老眼などにも効果があります。
  江戸時代の川柳に「八味地黄丸飲んでるそばにいい女房」とありますが、ここでいう女房とは奥さんのことではなく女性一般のことです。八味地黄丸を飲んでいれば精力絶倫になり、顔の色ツヤもよくなるので、女性にもてるという意味で、八味地黄丸が回春剤、強精剤として使われていたことがわかります。
  なお、女性でも閉経を迎えて女性ホルモンの分泌が低下すると、性欲の減退や、膣のうるおい不足による性交痛が原因のセックス忌避などが起こってきます。八味地黄丸は、このような女性のセックスの悩み解消にも役立ちます。
  ただし、漢方薬は体質に合ったものを選ばなければ危険な場合もあるので、注意してください。天雄(トリカブトの老根)を含む天雄散(てんゆうさん)も、古くから使われている強精剤ですが、白井光太郎という有名な植物学者がこれを飲んで若返り、高齢で子供をもうけたものの、その後、中毒死するという事件がありました。漢方薬を使用するさいは、必ず専門家に相談しましょう。

「あちらのほうも元気になりました」
  ここで、男女それぞれの症例を紹介しましょう。
  50歳の男性Sさんは全身に倦怠感があり、足腰が重くて会社を休んだこともあるということでした。口が渇き、夜も数回トイレに起きます。性欲はなくなり、たまに欲求があっても体が思うようになりません。
  そこで八味丸人参養栄湯(にんじんようえいとう) を処方したところ、約3ヵ月で各症状が軽快し、精力も回復したのです。「あちらのほうも元気になりました」とニコニコしておられたといえば、容易に想像がつくでしょう。
  なお、人参養栄湯と同じく滋養強壮効果のある補中益気湯(ほちゅうえっきとう)には、精子の運動を活発にする働きがあるという研究データが出され、男性不妊症に有効とされています。
  45歳の女性Oさんは冷え症でした。加えて、いくら寝ても寝足りないほどの疲れがあり、全身が固く突っぱる、目が乾くといい、目の下にはくまができていました。精力も減退しているとのことでしたが、疲れと体の状態がよくないのとで、セックスが苦痛だったのではないかと思われます。
  Oさんには八味地黄丸補中益気湯を処方しました。すると、1ヵ月で「この薬は非常に私に合っている」と自分でいうほど、各症状が改善され、3ヵ月後には生理痛や生理不順も治り、疲れもあまり感じなくなったそうです。
  いまでは目の下のくまも消え、表情もいきいきしています。日常生活で不都合なことはなくなったといいますから、セックスの問題も解消したのだと思われます。
  このほかに、東洋医学では、海馬(タツノオトシゴ)、海狗腎(オットセイの陰茎・睾丸)、竜骨(古代哺乳動物の化石)、鹿茸(シカの角)、枸杞子(クコの実)などを含んでいる海馬補腎丸(かいばほじんがん)も強精疲労回復剤として知られています。また、精神的コンプレックスが強い場合には、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう) によって効果を得ています。もちろん、生活の規律を守り、過度の飲酒をつつしむのは当然です。
  洋の東西を問わず、精力を補うことは、昔から常に人々の強い関心をひいてきました。マムシ酒や人の胎盤をすりつぶしたものを飲んだり、サソリを食べると精力が強くなるなどの民間伝承も数多くあります。
  性生活の心がまえとしては、江戸時代の儒学者・貝原益軒の『養生訓』でも、その弟子・香月牛山の『長命養生訓』でも、年齢に応じて節制すべきことを述べていますが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」のいましめが大切です。
  これは、セックスに関することが生活上、非常に重要であることの証明のようなものです。専門家に相談することで思いがけない回復を示す例も多々ありますので、一人で悩まず、ぜひご相談ください。

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もみじ 漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
   必ず専門の医師にご相談ください。

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