漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1997年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド16】
潰瘍性大腸炎をおだやかな作用で治しステロイド剤の量もへらす東洋医学療法

最近増加している原因不明の難病
  血便や粘血便(粘液や血液のまざった便)を伴う下痢が続き、腹痛に悩まされる潰瘍性大腸炎は、厚生省の難病に指定されています。過去にはまれな病気でしたが、環境や食生活の変化が影響してか、現在、患者数が増加しています。
  症状がよく似た病気に、細菌による下痢やクローン病(消化管、とくに大腸や小腸に潰瘍ができる肉芽腫性炎症性の病気。病名の由来は発見者の名前で、最近話題になっている生物を複製するクローンとは無関係)、腸結核などがあるため、診断のさいには必ず大腸の粘膜を直接観察する内視鏡調査を行います。
  内視鏡で腸の粘膜を見ると、健康な腸の粘膜が透明なのに対し、びらん(ただれ)や潰瘍ができているため、粘膜が真っ赤に炎症を起こしていることがよくわかります。
  潰瘍は、肛門に近い直腸からS状結腸の上方までにできるケースが多いようですが、進行すると大腸全体に及ぶこともあります。残念ながら、原因はまだ解明されていません。
  発症数に男女の差はなく、年齢的に若い人の発症率がやや高いものの、お年寄りが発症することもあります。症状の経過も一定ではなく、症状が悪化したりおさまったりするのをくり返す人、なかなか治らず長く下痢や腹痛に悩まされる人など、さまざまです。
  西洋医学の治療では肉体的・精神的な安定を確保し、抗生剤の一種であるサラゾピリンや、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)などを投与します。
  重症になると入院が必要ですが、軽・中等症では外来治療ですみます。まれに出血が止まらない、腸に孔が開くといった激症例もあり、その場合は手術が必要になります。

気血水のバランスを整えることで治す
  このように潰瘍性大腸炎は、西洋医学では原因不明の病気とされていますが、東洋医学では病気はすべて、本来、人間の肉体において調和を保っているはずの気(一種の生命エネルギー)・血(血液)、水(リンパ液などの体液)のバランスがくずれたためにかかる、と考えるのです。
  そして、体力が落ちているときに作用の強い薬を使うのは望ましくないので、作用のおだやかな薬を用いて少しずつバランスのくずれを元に戻していきます。こういった東洋医学の治療は、ときに予想外のすばらしい効果をもたらしてくれるのです。
  潰瘍性大腸炎では、一般に胃風湯(いふうとう)のほか、症状によって生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)柴苓湯(さいれいとう)などが用いられますが、私は桃花湯(とうかとう)大桃花湯(だいとうかとう)もよく使います。
  桃花湯は、赤石脂(酸化鉄を含む上質な陶土)、硬米(もち米)、乾姜(ショウガ)を組み合わせた処方で、赤石脂には収斂作用(体の一部の血管を収縮させて組織の乾燥を促し、痛みや腐敗を防ぐ働き)や止血作用があり、乾姜には体を温めて冷えを取る作用があります。
  大桃花湯は、桃花湯から硬米を取って、当帰(トウキの根)、竜骨(古代哺乳動物の化石)、牡蠣(カキの殻)、附子(トリカブトの根)、白朮(オオバナオケラの根)、人参(オタネニンジンの根)、甘草(カンゾウの根)、芍薬(シャクヤクの根)を組み合わせた処方です。
  桃花湯と同じく止血・収斂作用にすぐれ、体を温めるうえに、胃への刺激も弱いのが特徴です。

3ヵ月で大腸の炎症が引いた
  それでは、症例を見てみることにしましょう。
  45歳の男性Kさんは、1日5〜8回もの粘血便を伴う下痢と排便前の腹痛があり、各種の検査で潰瘍性大腸炎と診断されました。内視鏡検査を受けたところ、横行結腸から直腸までの粘膜がむくんで赤くなり、血液のかたまりによる斑点や白苔も見られたそうです。潰瘍性大腸炎の特効薬的存在であるサラゾピリンを服用していましたが、なかなか症状が改善しません。
  東洋医学的に見ると、ポッチャリした太りぎみのKさんは典型的な水滞(体内の水分がとどこおっている状態)でした。舌の縁がギザギザしている、胸脇苦満という季肋部(肋骨の下)のつっぱり感があるなどの所見があったからです。
  そこで、Kさんには大桃花湯柴苓湯を飲んでもらいました。すると2ヵ月ほどで、便に血液や粘液がまざらなくなったのです。さらに1ヵ月後には下痢便が軟便になり、排便回数も1日4回ほどにへり、腹痛も消えました。
  再び内視鏡検査を受けたところ、S状結腸より上の部分は異常なし、そのほかの部分もむくみはあるが炎症は引いたとのことで、サラゾピリンの量が半分でよくなったのです。
  半年後には柴苓湯だけを飲むようになりましたが、経過は良好で、サラゾピリンはほとんど必要なくなりました。
  40歳の女性Mさんは、一度はサラゾピリンで潰瘍性大腸炎が治りました。ところが約1年後に再発し、今度はステロイド剤を使いましょうといわれ、それがいやで漢方薬治療の相談にみえたのです。Mさんは血便を伴う下痢が1日10回ぐらいあり、腹痛がするほか、微熱にも悩まされていました。
  そこで、Mさんにも大桃花湯を飲んでもらったところ、1〜2ヵ月で腹痛と微熱が消え、半年ほどで血便や下痢が改善されたのです。排便回数も1日4〜5回になり、現在も経過を観察中です。
  16歳の女性Eさんは粘血便があり、内視鏡検査で潰瘍性大腸炎と診断され、サラゾピリンとステロイド剤で治療を続けていました。しかし、成長期にステロイド剤を長く使用することの害をおそれて、漢方薬による治療を希望して来院されました。
  Eさんには胸脇苦満とお血(血液がとどこおっている状態)があったので、柴苓湯桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を飲んでもらったところ、2ヵ月で下痢がおさまり、サラゾピリン、ステロイド剤とも半分にへらすことができたのです。さらに2ヵ月後には、サラゾピリンもステロイド剤も飲まなくてよくなりました。検査だけはその後も受けていますが、毎回異常なしだそうです。
 潰瘍性大腸炎のような治りにくく再発しやすい病気には、漢方薬による治療が大いに効果的である場合があります。また、長期間服用すると深刻な服作用に悩まされるおそれのある、ステロイド剤のような薬の量を抑えるために漢方薬を使うのもいい方法です。
  また、潰瘍性大腸炎のような原因不明の病気にならないためには、体力をつけ抵抗力を養うことが大切です。不摂生はつつしみ、日常生活にストレスをためないように心がけましょう。
  さらに、下痢が長く続いたり、血便が出たりしたときには、軽く考えないで医師の診断を受けるようにしてください。潰瘍性大腸炎のほか、O157のような細菌性の食中毒や、年齢によってはガンも考えられますから、たかが下痢とあなどらないようにしましょう。

line

もみじ 漢方治療は、その時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
当クリニックでは、経験豊富な漢方医があなたに合った治療を提案します。お気軽にご相談ください。

潰瘍性大腸炎相談コーナーへ

Copyright(C)昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます