漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年1月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド21】
もみじ バセドウ病の動悸や多汗ふるえなどをホルモンのバランスを整えて治す漢方治療

もみじ 甲状腺ホルモンが過剰になって発症
  バセドウ病(またはグレーブス病)は、のどの下にある内分泌器官である甲状腺の働きが活発になりすぎ、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。女性に多く発病する傾向がありますが、男性も発病します。
  甲状腺ホルモンは、糖質やたんぱく質の代謝(体内での物質の変化や入れ替わり)、骨や内臓の発育、体温の調節などに関与しています。したがって、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、代謝も上がるため、食欲が旺盛になってたくさん食べるのにもかかわらずやせたり、脈拍や体温の上昇、手足のふるえなど、さまざまな症状が現れます。
  また、これらに加えて甲状腺の腫れや、眼球突出(目玉がとび出す)、まぶたの腫れ、まばたきがへるなどの目の症状も見られます。血液検査をして、血中の甲状腺ホルモン量の増加が確認されれば、バセドウ病であると診断されます。
  なお、バセドウ病も含めて、甲状腺の働きが活発になりすぎて、血中の甲状腺ホルモンの濃度が上がった状態を、甲状腺機能亢進症といいます。バセドウ病は、この甲状腺機能亢進症の90%以上を占める代表的な病気です。
  バセドウ病の治療には、甲状腺ホルモンの産生・分泌を抑制する抗甲状腺薬を内服する薬物療法、甲状腺そのものを切除する手術治療、放射性ヨードを内服して甲状腺機能を破壊する放射線療法の3つがあります。
  どの治療法を選ぶかは、病気の状態や患者の年齢、性別などによりますが、放射線療法は、原則として若年者には行いません。40歳以上の、薬で効果が出なかった人、心臓その他の合併症(ある病気に伴って起こる症状)のために手術ができない人などに限って行います。

もみじ 少ない薬で多くの症状を取る
  東洋医学では、甲状腺の機能が亢進するバセドウ病を「陽」の病気としてとらえています。機能が衰える「陰」の病気の逆だからです。ちなみに、甲状腺の働きが衰える甲状腺機能低下症(橋本病など)もあり、こちらも亢進症と同様にホルモンのバランスがくずれたことによって起こる病気と考えて治療します。
  東洋医学の長い治療の積み重ねから見ると、バセドウ病に大きく関係しているのは、水毒(体内の水分代謝の異常)とお血(血液がとどこおっている状態)です。
  来院する患者を診ていても、胃内滞水(胃のあたりでポチャポチャと振水音がする)など、水毒の兆候が見られる人が多く、ヘソのまわりにあるお血点という場所に圧痛(押したときに感じる痛み)があるなどの兆候も、ほとんどの人に見られます。
  そこで、水分の代謝をよくする利水剤と、血液の循環をよくする駆お血剤が、主に治療に用いられます。あとは、個々の症状を取る漢方薬を適宜使用していきます。
  バセドウ病に効果的な漢方薬としては、体力のある人向きには、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)などが、体力のない人向きには、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)炙甘草湯(しゃかんぞうとう) などが多く用いられます。
  バセドウ病の人は、これらの漢方薬を、まずは西洋医学とともに用いることをおすすめします。症状をより早く改善することができるうえに、薬の副作用を軽減するなど、上手に薬物治療を行っていくことが可能になります。
  また、バセドウ病には、さまざまな随伴症状が出やすいものです。疲れる、だるい、不安、不眠、イライラ、頻尿(頻繁に排尿したくなること)、下痢、月経異常など、あげていけばきりがありません。これらの症状をいちいち西洋医学で抑えようとすれば、膨大な量の薬を飲まなければならなくなるので、この点でも漢方薬を治療に取り入れる価値があります。
  また、バセドウ病の逆の機能異常である甲状腺機能低下症の随伴症状の軽減にも、漢方薬は役立ちます。こちらは「陰」の病気なので、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)加味逍遥散(かみしょうようさん)真武湯(しんぶとう)、これらに附子(トリカブトの根)を加えた処方など、血液の循環を促し、体を温めて体力を補う漢方薬を用います。

もみじ シミの増加やのどの腫れに注意
  では、バセドウ病の症例をあげてみましょう。
  55歳の女性S・Sさんは、動悸と多汗に加え、やせてきたこと、眼球がとび出してきたことから病院へ行き、バセドウ病と診断されました。漢方治療を希望したのは、体の症状以上に、気力が衰えて仕事が手につかなくなったことがつらかったからです。
  S・Sさんには、ホルモン疾患の治療に使う十六味流気飲(じゅうろくみりゅうきいん)補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲んでもらいました。すると3ヵ月後には疲れが取れて、働く気力がよみがえったのです。さらに7ヵ月ほど続けて飲んでもらうと、動悸や多汗などの随伴症状もすべて改善されました。
  治療期間が長いと感じる人もいるかもしれませんが、バセドウ病の場合、西洋医学の薬物療法でも、1〜2年はかかるのが普通です。
  男性のバセドウ病では、64歳のT・Oさんの例があります。T・Oさんは、まぶたが腫れて眼球がとび出してきたので、最初は目の病気を疑いました。しかし、眼科医的には異常なしといわれて検査を受け、バセドウ病と診断されたのです。
  T・Oさんの場合、頻尿もあり、日中に15回、夜中に3回、トイレに行っていたそうです。体のほてりと、のどの渇きを訴え、ヘソのまわりのお血点に圧痛もありました。
  T・Oさんには、柴胡加竜骨牡蠣湯桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を主体に、漢方薬を処方しました。その結果、排尿の回数は約2週間ごとに少しずつへっていき、ときどき苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)を加えて4ヵ月もすると、日常生活に支障がないくらいの排尿回数に落ち着いたのです。このころには、ほてりや、のどの渇きなどほかのさまざまな症状も軽快していました。
  T・Oさんもそうですが、バセドウ病は女性の病気のように思われていて、男性がバセドウ病を疑うことは少ないようです。しかし、男性でも思い当たるふしがあったら、きちんと検査を受けることが必要です。
  また、顔にシミが浮いてくることもあります。日焼けもしないのに、急にシミがふえ、のどが腫れるようなときにも、バセドウ病を疑ってみてください。
  甲状腺の病気では、ほかにも甲状腺機能低下症、甲状腺の腫れ・炎症、甲状腺切除手術のあとの体調の調整・回復などにも東洋医学が役立ちます。


line
もみじ 漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
   必ず専門の医師にご相談ください。

このページのトップへ
Copyright(C)昌平クリニック. 記事の無断転載を禁じます