漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年11月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド31】
もみじ 慢性腎炎を漢方薬を使って根本から治し人工透析を未然に防ぐ東洋医学療法

もみじ 診断の基準はたんぱく尿と血尿
  腎臓は、心臓から送られてきた血液を糸球体という毛細血管のかたまりでろ過し、不必要な成分は尿として排泄、必要な成分は再吸収することによって、血液を正常化する働きをしています。
  この腎臓の中の糸球体に炎症が起こる病気が腎炎ですが、慢性腎炎では、糸球体にほとんど変化が見られないのに、たんぱく尿や血尿が続くケースもあります。慢性腎炎の診断の基準としては、たんぱく尿、血尿が1年以上続く、あるいはくり返す、といったことがあげられます。また、しばしば高血圧をも伴います。
  なお、慢性腎炎によく似た病気にネフローゼがあります。慢性腎炎では1日の尿たんぱく量が1グラム程度なのに対して、ネフローゼでは3.5グラム以上と多く、それに伴って低たんぱく血症、高脂血症(血液中の脂肪が異常に多くなる病気)、むくみなどの症状が現れます。
  しかし、慢性腎炎のなかにネフローゼ型といわれるものがあったり、慢性腎炎からネフローゼに移行することなどもあり、これらの腎臓疾患を総称して、慢性腎炎・ネフローゼ症候群と呼ぶこともあります。
  初期では自覚症状がないことが多く、健康診断で発見されることの多い病気です。発病の原因については、急性腎炎から慢性化に至るもの、遺伝的なものもありますが、原因不明のケースのほうが多いようです。
  また、慢性腎炎には潜在型と進行型の2タイプがあります。潜在型では、ほとんどの場合、入院や安静は必要ありません。食事も過剰な塩分やたんぱく質の摂取をさける程度の規制ですみ、軽いスポーツや妊娠・出産も可能で、健康な人とほぼ変わりない日常生活を送れます。経過観察のための通院は必要ですが、症状が軽度なら投薬治療は行われません。
  進行型になると、症状の程度にもよりますが、過労をさける、塩分やたんぱく質の摂取量を抑える、妊娠・出産は医師と相談が必要になる、などの生活規制が加えられることがあります。それでも、入院や人工透析(体内の水や老廃物の蓄積を是正する治療法)に至るケースは、そう多くありません。用いられる薬には利尿剤(尿の出をよくする薬)やステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)、免疫抑制剤、抗血小板薬などがあります。

もみじ 副作用が少ないから長期の服用でも安心
  投薬治療の感触は悪くはありませんが、慢性病の場合、薬を長期間服用することになります。となると、なるべく安全性の高い薬が求められることになり、この点で、副作用の心配が少ないという、漢方薬のすぐれた特性が生かされることになります。
  また、慢性腎炎の軽度から中等度のたんぱく尿、血尿に対して、西洋医学には決め手になる薬がありません。薬が投与されず、経過観察のみなのは、そのためなのです。この時期に漢方薬で積極的な治療を試み、全身症状の改善を図れば病態が悪化せずに治癒する可能性もあります。
  さて、慢性腎炎に用いられる漢方薬には、利尿作用のある柴苓湯(さいれいとう)五苓散(ごれいさん)猪苓湯(ちょれいとう)八味地黄丸(はちみじおうがん)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などがあげられます。また、患者の多くに胸脇苦満といわれるみずおちのつかえがあることから、しばしば柴胡剤(ミシマサイコの根を処方した漢方薬)も併用されます。処方名でいえば小柴胡湯(しょうさいことう)柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)などです。
  なかでも小柴胡湯五苓散の合方(合わせた処方)である柴苓湯(さいれいとう)は使用頻度の高い漢方薬で、ステロイド剤の副作用や使用量の軽減などにも役立っています。高齢者や経過の長いケース、糖尿病性腎炎では、牛車腎気丸八味地黄丸がよく効く場合もあります。
  また、血尿に対しては猪苓湯が、貧血があれば十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、高血圧があれば七物降下湯(しちもつこうかとう)なども使われます。

もみじ 糖尿病性腎症にも東洋医学は効果大

  それでは、実際に漢方薬を用いて慢性腎炎がよくなった人の例をみてみましょう。
  21歳の女性T・Nさんは、9歳のときに慢性腎炎と診断されました。自覚症状はなく、たんぱく尿や血尿の程度も軽度で、診断先の病院では薬も出されませんでしたが、先々のことを心配したご両親が東洋医学の治療を選択したのです。
  T・Nさんには猪苓湯小柴胡湯を4年ほど併用したところ、尿中にたんぱくも血液もまったく出ないようになりました。その後も年に1度、尿検査を続けていたところ、19歳のときに再びたんぱく尿がわずかに出ました。このときは柴苓湯を服用することにし、2年ほどでたんぱく尿を一掃しました。
  このように、慢性腎炎では、自覚症状がないままにたんぱく尿が出ていることがありますから、治癒後も年に1度くらいの経過観察を続けることが大切です。
  65歳の男性S・Nさんは16歳のときに急性腎炎を発病し、腎臓の炎症が引いて所見が正常になったあとも、ずっとたんぱく尿が続きました。むくみが出たり、ひどく疲れたりすることもあったそうです。
  そこで、柴苓湯を飲んでもらったところ、約1年で尿たんぱくが出なくなりました。もちろん、むくみや疲れも消えています。なお、最近、血圧が高めだというので、そちらの対策に三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)の処方を始めました。
  慢性腎炎は、きちんと対処さえすれば、命にかかわることの少ない病気です。しかし、自覚症状がないからと放置したり、病状が進行しているのに医師からの生活指導を守らなかったりすると、腎機能の低下を招くこともありますから、軽く考えてはいけません。
  腎機能が低下して慢性腎不全になると、人工透析を受けることになります。血液を透析器に導き、血液をろ過・洗浄してから再び体内に戻すのですが、1日平均4〜5時間、週に2〜3回受けることが必要とされ、時間的に大きく拘束されることになります。
  なお、慢性腎炎による人工透析患者は年々減少する傾向にあるにもかかわらず、この10年で人工透析を受ける患者の数が2倍になったそうです。理由は糖尿病性腎症によるものですが、これに対しても、その原因である糖尿病の治療も含め、東洋医学が力になれる部分は大きいと考えられます。
  慢性腎炎でたんぱく尿や血尿に悩む人だけでなく、糖尿病性腎症の人も、人工透析を受けざるを得なくなる前に、ぜひ東洋医学の門をたたいてみてください。


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