漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年2月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド22】
もみじ ぜんそく患者の体質を変え発作を起こさせない体にする漢方の名薬

もみじ 気道の粘膜が過敏になり発症
  ぜんそく(気管支ぜんそく)とは、呼吸するたびにヒューヒュー、ゼイゼイという音(喘鳴)がして、急に息が苦しくなり、努力しなければ息を吸ったり吐いたりできなくなる病気です。ゼイゼイいったり、呼吸困難を起こす病気はほかにもありますが、喘鳴と呼吸困難がいっしょに起こるのが、ぜんそくの特徴です。
  ぜんそくの発作は夜中や明け方に起こることが多く、何時間か続いたあと、ケロリとおさまります。しかし、適切な治療をしないで発作をくり返すと気道(呼吸のための空気の通路)の過敏性がしだいに高くなり、命を落とすこともあります。
  ぜんそくの人の気道の粘膜は、とても敏感で、ささいな刺激が加わっても過敏に反応します。収縮したり、むくんだり、粘液を分泌したりして、気道の内腔がせまくなってしまうのです。その結果、気管支内の空気の通りが悪くなって、呼吸困難が起こり、せまい気管支内を空気が無理に出入りするため、ヒューヒュー、ゼイゼイという音がします。
  一般に、ぜんそくの原因はアレルギーである、といわれています。アレルギー反応の結果、ぜんそくが起こる場合、アレルゲン(アレルギーの元となる原因物質)は室内のダニやホコリ、カビ、花粉、動物の毛などが主なようです。子供のぜんそくでは、卵や牛乳などの食品が、アレルゲンとなる場合もあります。
  また、アレルゲンの吸入以外に、カゼや気管支炎などの呼吸器感染症、大気汚染、気象の変化、ストレス、運動なども発作を起こすきっかけとなります。

もみじ 気副作用が少なく体力もつく
  ぜんそくの治療には、発作を止めるために気管支拡張剤や抗アレルギー剤、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)などが使われますが、薬によっては副作用の起こることがあります。
  また、アレルゲンと接触しないように生活することは大切ですが、室内のダニやホコリをゼロにすることは不可能ですし、外出すれば排気ガスを吸わざるをえません。空気のきれいな場所に移る転地療養も、簡単にできるものではないでしょう。
  となると、ふだんから副作用の少ない薬で病気をコントロールしながら、体力をつけて発作の起こるのを未然に防ぐことが、現時点では最もよいぜんそくの治療法だといえます。これは、まさに東洋医学の治療概念とピッタリ重なります。
  また、漢方薬のぜんそくに対する効果は以前から認められており、気管支のけいれんをやわらげるエフェドリンという成分を含む麻黄剤柴胡剤などは、西洋医学の現場においてもしばしば使われています。ただし、麻黄剤の長期連用と西洋薬との併用には十分な注意が必要で、急激な大発作には西洋医学的治療を優先します。
  具体的な漢方薬としては、のどがカサカサして粘りけのあるタンが出るなら、体をうるおす働きを持つ麦門冬湯(ばくもんどうとう)麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)清肺湯(せいはいとう)が、水のようにサラサラしたタンが出るなら、水分の代謝(体内での物質の変化や入れ替わり)を整える作用のある小青竜湯(しょうせいりゅうとう)越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)がよいでしょう。体の弱い人には、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)神秘湯(しんぴとう)、サラサラしたタンと粘りけのあるタンとがまじっているようなら、小青竜湯加杏仁石膏(しょうせいりゅうとうかきょうにんせっこう)を使います。さらに、ぜんそくの長期治療には、小柴胡湯(しょうさいことう)柴朴湯(さいぼくとう)などを前述の漢方薬と合わせて使います。
  これらの漢方薬には、発作をしずめるだけでなく、飲み続けると発作が起こりにくい体質になるという効果もあります。

もみじ 小児ぜんそくにも劇的に効いた
  それでは、実際に漢方薬でぜんそくがよくなった症例を見てみましょう。
  38歳の男性T・Sさんは、30歳のときからぜんそくの発作を起こすようになり、しばしば救急車で病院に運ばれていました。34歳のときには大発作を起こして、40日間の入院生活を送ったそうです。
  診察すると胸脇苦満と呼ばれるみずおちのつかえがあり、両肺からはタンのたまったピチャピチャという音(小水泡音)がしました。汗をかき、のどが渇くという訴えもあったので、麻杏甘石湯半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を基本に、発作の起こったときは甘草麻黄湯(かんぞうまおうとう)を飲んでもらうようにしました。
  すると、毎日起こっていた発作が2週間に1回になり、3ヵ月たつと少々ゼイゼイするものの、ずっと休んでいた農作業ができるようになったのです。5ヵ月後には、ぜんそくになる前とまったく変わらない生活ができるようになりました。
  しかしぜんそくの場合、しばらく発作が途絶えても、1年後に再び起こると言うことも多々ありますので、予防のためにもう少し漢方薬を飲み続けてもらうつもりです。
  また、T・Sさんの9歳の息子さんも、1歳のときから小児ぜんそくで発作と入院をくり返し、しばしば鼻炎や中耳炎も起こしていたそうです。しかし、お父さんに続けとばかり神秘湯を飲み始めたら、1ヵ月で発作を起こさなくなりました。鼻炎や中耳炎にもならず、4ヵ月後には念願だった運動部に入り、毎日練習に励んでいます。
  小児ぜんそくでは、2歳ごろから発作に苦しみ、何度か肺炎まで起こしていた3歳の男児N・Rちゃんが、麦門冬湯を飲んで3週間後に日中のセキ込みが消え、発作を起こさなくなったという例もあります。その後も体力をつけるために補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲みながら、元気に幼稚園に通っています。
  また、49歳の女性T・Yさんはセキとタンが出て苦しく、階段も昇れないほどだったのに、小青竜湯半夏厚朴湯を1ヵ月服用して、セキ、タン、喘鳴が取れました。その後も予防薬的に小柴胡湯半夏厚朴湯を飲んで、快適な日常生活を送っています。
  ぜんそくは苦しいだけでなく、命を落とす可能性もある病気です。決して甘く見ず、日常的に予防措置をとらなくてはいけません。アレルゲンの除去に努め、環境を整えることはもちろん、気管支拡張剤などの薬を常備しておき、発作に備えることが大切です。
  環境が整い、体力が充実していると発作は起こらないものですが、これで治ったと油断して、生活を乱したとたんに再発することがあります。過労やカゼにも気をつけて、発作を起こす条件をそろえないようにしたいものです。


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