漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年3月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド23】
もみじ 老人性白内障の進行を止め視力も回復させる東洋医学療法

もみじ 水晶体のにごりで視力が低下する病気
  白内障は目の中の水晶体と呼ばれる、カメラでいえばレンズに相当する部分が白くにごる病気で、俗に「白そこひ」ともいわれます。外国名の「カタラクト」は滝の意味で、滝が落下するときに白く見えるため、そう呼ばれています。
  原因は加齢(老人性)、遺伝(先天性)、外傷などさまざまで、症状としては視力の低下があげられます。人によっては、まぶしさを感じるようになったり、水晶体のにごる場所によっては、目の前に虫が飛んでいるように見える飛蚊症が出たりすることもあります。
  現代医学では、いずれの原因によるものであれ、白内障が薬物治療でよくなることはないため、メガネなどで矯正しても視力が0.4以下しか得られなくなったら、手術したほうがいいとしています。
  白内障の手術は、にごった水晶体を取り除いて、代わりに眼内レンズを入れる方法が一般的です。手術の方法も眼内レンズの品質も近年飛躍的に進歩したため、きわめて安全性の高い手術といわれています。
  しかし、状態によっては手術を受けられないケースもあります。たとえば、視神経や、像を結ぶスクリーンに当たる網膜に障害がある場合は、水晶体摘出手術をしても視力の回復が得られないので、手術の適応外となります。また、活動性の糖尿病、網膜色素変性症の場合も、病気そのものが悪化するおそれがあるので手術できません。
  さて、西洋医学では薬物治療では治らないとされている白内障ですが、東洋医学には数多くの白内障を漢方薬で治療してきた実績があります。そうした経験の積み重ねのなかから、初期の老人性白内障で、水晶体の皮質が周辺部からにごってくる皮質性のものであれば、漢方薬で進行を止めることができるという手ごたえを得ているのです。
  日常生活に不自由がない程度の視力が残っている状態で、白内障の進行が止まれば、手術しなくてすみますし、進行してしまった老人性白内障でも、ある程度の改善を図ることができます。

もみじ 半数近くの視力が向上した八味地黄丸
  老人性白内障の治療に用いる漢方薬の代表格は、八味地黄丸(はちみじおうがん)です。これは白内障の原因である老化の防止に役立つ薬で、古くなって汚れた血液や体内の水分をすみやかに循環させて、新しいものと入れ替わらせ、細胞の働きを活性させる働きがあります。

  八味地黄丸が老人性白内障の改善に役立つという研究は、故藤平健先生がなさっていて、昭和63年に386人の老人性白内障の患者を対象にして、漢方治療によって視力の向上した例が42.7%、現状維持が26.2%、効果なしが31.1%という調査結果を得ています。右に昭和42年のデータとともに示しておきますので、参考にしてください。
八味地黄丸による白内障治療成績

藤平健『漢方臨床ノート・治験篇』創元社p.432の表2を改編
  なお、体質によっては、八味地黄丸の成分の一つである附子(トリカブトの根)を使うとよくない人もいます。その場合、八味地黄丸の8種類の成分である地黄(カイケイジオウの根)、山茱萸(サンシュユの果肉)、山薬(ヤマイモ)、沢瀉(サジオモダカの塊茎)、茯苓(マツホド)、牡丹皮(ボタンの根の皮)、桂枝(ケイの樹皮)、附子から桂枝附子を抜いた六味丸(ろくみがん)を使います。尿の出にくい人には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)を使うこともあります。

もみじ 0.3の視力が0.6まで回復した

  それでは、実際の治療例を紹介していきましょう。
  58歳の女性A・Sさんは老人性の皮質性白内障の初期で、視力は左右とも0.3まで低下し、目がショボショボするということでした。おなかを診察するとフニャフニャと力がなく(臍下不全)なっています。
  そこで、八味地黄丸を処方したところ、1年後には視力が右0.6、左0.5まで回復しました。飲み続けて3年たった現在、視力は右0.6〜0.8、左0.6〜0.7といったところで安定しています。
  八味地黄丸は体質にあっていれば、服用が長期間にわたっても害はありません。なかには、10年以上飲み続けて健康を保っている人もいます。ただし、前述のように附子を使えない体質の人もいますので、必ず医師や薬剤師に相談したうえで飲むようにしてください。
  72歳の女性M・Kさんは、白内障とわかって3年めに視力が右0.6、左0.4まで下がってから八味地黄丸を飲み始めました。慢性の胃炎や足の冷え、立ちくらみもあったので、その対策に四逆散(しぎゃくさん)真武湯(しんぶとう)も処方しました。
 すると、ほどなく胃炎がおさまり、足の冷えや立ちくらみが消えてからも、八味地黄丸を飲み続けてもらったところ、約1年後には左が0.5に上がりました。右は0.6のままですが、これなら手術をしなくても日常生活に支障はありません。M・Kさんは、その後も白内障が進行しないようにと八味地黄丸を飲み続けており、視力の低下もなく体調も良好です。
  このように八味地黄丸による老人性白内障の治療は、高い成果をあげています。八味地黄丸は、にごった水晶体そのものだけでなく、周囲の目の筋肉や調節機能といったものにも働きかけますから、水晶体が少々にごったままだとしても、視力の回復が望めるのです。八味地黄丸を飲んで3ヵ月で、視力が0.3から0.7に上がった人もいます。
  とはいえ、白内障は現代西洋医学のなかでも治療法(手術法)の進んでいる病気です。むやみに手術をいやがる必要はありません。目にメスをいれられたくないばかりに老人性白内障を放置し、視力が左右とも0.1あるかないかまで低下していた人が、80歳を過ぎてから手術を受け、右0.5、左0.6の視力を得ることができたケースもあります。
  目は人間の五感のなかでも、とくに重要な役割を果たしている器官です。西洋医学とか東洋医学といった分野にこだわらず、すべての治療法のなかから最善の治療法を選んでほしいものです。
  老人性白内障の予防法というのは、残念ながらこれといってありませんが、前述の八味地黄丸は古くから老化防止の効果が認められています。また、ときに網膜や角膜などの病気が、白内障に伴って起こることもあります。これを放置すると、簡単な手術では回復が望めなくなりますから、成人病の検診などで「白内障があります」といわれた人は、ふだんから物の見え方に注意して、少しでも変化を感じたら検査を受けたほうがよいでしょう。

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