漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年4月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド24】
もみじ 花粉症のくしゃみ、鼻水、目のかゆみなどを素早く止め体質も変える東洋医学療法

もみじ 体の防衛機能が過剰に働いて発症
  2〜3月は、季候が少しずつ暖かくなり、草や木の芽がふくらんで、春の訪れを感じる季節です。しかし最近、花粉症であるために、春が来るのをうっとうしく思う人も多くなりました。花粉症は花粉の中のアレルゲン(アレルギーの元になる原因物質)によって起こります。アレルゲンとなる植物の花粉は、スギ、カモガヤ、ブタクサなど50種類を超えますが、日本で多く見られるのは、スギ花粉症です。
  ある特定の物質(この場合は花粉)に多くさらされると、人によってはIgE(免疫グロブリンE)抗体という、その物質に過敏に反応する物質が体内にできます。このIgE抗体が、ある一定の量よりふえると、再び同じ物質にさらされたときに体の防衛機能が過剰に働いて、いろいろな症状が出るようになるのです。
  花粉症の症状は、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、鼻のまわりがかゆくなるなどの鼻の症状と、目のかゆみ、涙目、充血、まぶしさを感じるなどの目の症状が主なものです。ほかに、のどが痛がゆくなる、セキが出る、耳の中がかゆくなるといった人もいます。全身倦怠、発熱、悪寒など、カゼのような症状が見られることもあります。
  発症の原因は花粉ですが、花粉に多くさらされる人すべてが花粉症になるわけではありません。体質的なものなども関係しており、花粉症発症のメカニズムは多岐にわたっています。
  現代西洋医学では、ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤を点鼻、点眼、内服して症状を抑えます。また、予防治療として、花粉が飛び始める少し前から抗アレルギー剤を飲んでおき、症状の軽減を図ることもあります。ほかに、薄めた花粉のエキスを少しずつ注射して、体の過敏性を弱めていく減感作療法があります。

もみじ 花粉の季節が終わっても飲むべき
  東洋医学の治療現場にも花粉症の人が多く訪れます。西洋医薬を飲んでも効かないと感じている人、眠くなるなど西洋医薬の副作用がいやな人、ステロイド治療に抵抗のある人などですが、花粉症の場合、漢方薬による治療だけにこだわらないほうが、花粉の季節をらくに乗り切れる、と私は考えています。
  たとえば、急場しのぎにステロイド剤を使い、次にひどい症状がおさまってきたら対症療法(症状のみの改善を目的とした療法)的な漢方薬を、そして花粉の季節が終わったら体質改善を目的とした漢方薬を用いる、といった三段がまえの治療は、非常に効果的です。医師の指導のもとに適正な量を適正な期間使用するぶんには、ステロイド剤の副作用はそれほど心配しなくてもよいでしょう。
  さて、東洋医学における花粉症の治療の代表的な処方は小青竜湯(しょうせいりゅうとう)です。体力が中等度程度で、くしゃみや鼻水が止まらない人に適した漢方薬で、症状を取るとともに、水けを含んでブヨブヨになった粘膜を正常な状態に近づける働きを持ちます。効果は早ければ1〜2日で現れてきます。
  体力が充実している頑健な人(実証)には、葛根湯(かっこんとう)がおすすめです。体が冷える、虚弱といった人(虚証)には、桂枝湯(けいしとう)麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)麦門冬湯(ばくもんどうとう)などがよいでしょう。いずれも、鼻汁の状態、タンのあるなしなど、細かい症状の特徴や、首がこる、冷えが強いなど、その人固有の体調に合わせて薬を選びます。
  また、たいていの花粉症は、花粉の飛散の終わりとともに、症状も自然におさまります。しかし、そこで治療をやめてしまわずに、体質改善と体力づくりのための漢方薬をしばらく飲み続けると、次の季節の症状がかなり軽減されてきます。
  これには、主として柴胡という生薬(漢方薬の原材料)の入った処方である小柴胡湯(しょうさいことう)柴胡桂枝湯 (さいこけいしとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などが用いられます。柴胡には体の中でステロイド剤に似た物質を分泌させる働きがあり、免疫力(体内に病原体が侵入しても発病を抑える力)を高めて、炎症(熱、腫れ、痛みなどを伴う症状)をしずめるためで、これによりステロイド剤の使用から解放された人もたくさんいます。ほかに荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)も使います。これらを予防薬として、花粉の飛び始める前に飲んでおくのもよい方法です。

もみじ 20年来の花粉症もすっかり治った
  症例として、2〜3年前に花粉症が発症した37歳の男性M・Mさんから紹介していきましょう。M・Mさんは身長が180センチ近くもあり、体格もがっちりして、いかのも健康そうでした。しかし、花粉に対する感受性は体格の立派さとは別です。2月のなかばごろから、鼻水が止まらなくなる、のどが渇く、汗をかくなどの症状に悩まされ、仕事も手につかないほどでした。
  診察すると、ヘソのまわりのお血点(血行がよいか悪いかの判断基準になるポイント)に反応があり、血液循環がとどこおっている様子でした。そこで、小青竜湯桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を加えて飲んでもらったところ、数日で鼻水が出っ放しの状態から脱することができました。鼻がグズグズする程度の症状は残ったものの、のどの渇きや汗も止まり、安心して仕事に取り組めるようになったのです。
  M・Mさんは、花粉の季節が終わってからは、荊芥連翹湯をずっと飲んでいたため、次の年は花粉症の症状が軽くてすみました。また、毎年できていたアカギレもできなくなった、といって喜んでいます。
  次は、20年以上も前から花粉症という57歳の女性A・Oさんです。やはり鼻水がひどく、毎年春になるとテッシュペーパーの箱が手放せないという状態でしたが、花粉の飛ぶ季節にずっと小青竜湯を飲むことで、症状がとてもらくになったそうです。タンがからむときは麦門冬湯も使ったところ、春の訪れを素直に喜ぶことができるようになった、と話してくれました。
  そのほかに、柴胡桂枝乾姜湯を1年間飲んで体質改善に成功し、20年間苦しんだ花粉症の症状から解放された例もあります。体の中のなにかが異常を起こしているため、花粉症という過剰反応が起こるのです。体を丈夫にすれば異常が解消することも考えられるので、体力をつけるために、花粉の飛ぶ季節以外にも漢方薬を飲んでみる価値はあると思います。
  また、花粉を寄せつけないようにする工夫も大切です。外出時にはマスクやメガネで花粉が鼻や目に入るのを防ぎ、帰宅したら顔や手を洗って花粉を落としましょう。テレビや新聞の花粉情報にも注意します。うがいや目や鼻の洗浄も役に立ちますが、人によっては、鼻の中に水を通すと、においがわからなくなる場合もあるので、花の洗浄は控えめにされたほうがよいでしょう。


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