漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年5月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド25】
もみじ 子宮筋腫の痛みや出血が止まり小さくなって再発も防げる東洋医学療法

もみじ エストロゲンが腫瘍の発生に関与
  子宮筋腫は、子宮の筋肉にできる良性の腫瘍(できもの)です。ガンのような悪性の腫瘍と違って、生命をおびやかすようなことはありません。比較的発生しやすい腫瘍で30歳以上の女性の2〜3割に、子宮筋腫があるともいわれています。必ず治療が必要なものでもなく、症状がなければ普通の生活を送ってかまいません。
  子宮筋腫は発生する部位により粘膜下筋腫、筋層内筋腫、漿膜下筋腫の3つに分類されます。粘膜下筋腫は子宮内膜の下に、筋層内筋腫は厚みのある子宮筋の中に、漿膜下筋腫は子宮の外側にある外膜の下に発生します。一つだけではなく、複数の子宮筋腫が同時に発生することもあります。
  発生の原因はわかっていませんが、女性をつくるホルモンといわれるエストロゲンの働きが活発な20〜40歳にかけて筋腫が大きくなり、エストロゲンの働きが低下する閉経(月経の終了)期になると自然に小さくなることから、エストロゲンが発生に関与していると考えられています。
  子宮筋腫は、小さいうちは症状がありません。大きくなって初めて、月経過多や不正出血、頻尿(頻繁に排尿したくなること)、便秘、腰痛などの症状が現れ、婦人科を受診して発見されるというケースが多いようです。しかし、腹部にふれるとわかるくらい大きい子宮筋腫があっても、まったく症状のない人もいます。
  治療は手術で腫瘍を摘出する方法と、薬物でコントロールしながら閉経・自然縮小を待つ方法があります。手術が行われるのは、子宮筋腫がにぎりこぶしよりも大きくて、貧血や痛みなどの症状が強い、子宮筋腫が不妊の原因とみられる、などの場合です。
  子宮筋腫の成育速度が遅く、症状もなく、遠からず閉経を迎えるなどの条件が揃っていれば、エストロゲンと逆の働きをするホルモンを使うなどして筋腫の成育を抑制しながら、自然縮小を待つこともできます。

もみじ 血の道症には駆お血剤が活躍
  手術を要するのではない子宮筋腫の治療には、漢方薬が役に立ちます。また、、筋腫ができやすい人では、2度3度と手術をくり返す場合がありますが、筋腫の再発を防ぐために漢方薬を利用するのもよい方法です。
  東洋医学では、子宮筋腫、子宮内膜症、月経困難、更年期障害(更年期に起こるさまざまな不快症状)などの婦人科系の疾患を「血の道症」と総称して治療してきました。古い文献には、漢方薬で子宮筋腫が消失した例も掲載されています。
  私自身は、漢方薬で子宮筋腫を消失させるのはむずかしいと考えていますが、成育を止めたり、縮小させたりした例は、ずいぶん手がけています。
  漢方薬には、ホルモンのバランスの乱れを整える働きもあります。ホルモンの影響で子宮筋腫が発生するのであれば、漢方薬によってホルモンの分泌を正常にすることで、筋腫の状態を改善することは可能です。そしてそれは、全身を本来あるべき健康な姿に戻すことでもあります。
  子宮筋腫に用いられる漢方薬は、お血(血流のとどこおり)を解消し、血液のめぐりをよくする駆お血剤です。駆お血剤は子宮筋腫に限らず、婦人科系疾患の多くに用いられます。東洋医学では、血の道症は多分に、血液の循環の悪さ、水分の代謝(体内での物質の変化や入れ替わり)の悪さに起因していると考えるからです。
  しかし、ひとくちに駆お血剤といっても、その種類は多く、選ぶのは簡単ではありません。お血の圧痛点(押すと痛みを感じる場所)がどこにあるか、症状はどんなふうか、体質はどうであるか、などを総合的に診察して選択することが必要になります。
  体質の強弱でいえば、実証(体力の充実している人)には、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)、虚証(体力が虚弱な人)には、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)がおすすめです。このほか私は、桂枝茯苓丸四物湯(しもつとう)を合わせた折衝飲(せっしょういん)という処方も、よく用います。
  また、不正出血が多い場合には、止血効果のあるきゅう帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)が適しています。貧血が強ければ、鉄剤を併用することもあります。

こぶし大の筋腫も小さくなった
  それでは、子宮筋腫の症状が漢方薬で改善した例を紹介しましょう。
  50歳の主婦S・Iさんは、38歳のとき、子宮筋腫の手術を受けました。これは筋腫だけを摘出する手術でしたが、48歳で月経不順や不正出血、腰痛などの症状が出てきたため、病院で検査を受けたところ、再び握りこぶし大の子宮筋腫ができていることがわかりました。
  このくらいの大きさになると、ヘソのあたりに手を当てると、コリコリした筋腫にふれることができるほどです。S・Iさんは手術が2度めになることと、もうすぐ閉経を迎える年齢であることから、なんとか手術をしないですませたい、と相談に見えました。
  S・Iさんは肥満ぎみで、汗の量が多く、血圧も高かったので、折衝飲七物降下湯(しちもつこうかとう)を合わせて処方したところ、2〜3ヵ月で不正出血がなくなり、だらだらと何日も続いていた月経が1週間前後で終わるようになって、血圧も基準値に近づきました。折衝飲を中心に漢方薬の服用を続けて2年ほど経過した現在、筋腫が大きくなることもなく、いずれ閉経、筋腫縮小の道をたどることができそうです。
  48歳の会社員K・Yさんは、45歳のときに子宮筋腫とわかりましたが、放置していたため、こぶし大と鶏卵大の2つの筋腫をかかえる身となってしまいました。しかし、仕事の都合で手術を受けられないため、漢方薬治療を選んだのです。
  K・Yさんは疲れやすく動悸がするほか、貧血ぎみだったので、当帰芍薬散十全大補湯(じゅうぜんたいほとう) のほか、鉄剤とビタミンCも処方しました。すると、やはり2〜3ヵ月で疲れや動悸が取れ、貧血も改善したのです。1年が経過した現在、当帰芍薬散を中心に服用を続けており、おなかにふれた感じでは筋腫が小さくなってきています。
  ほかに、アレルギー体質なので手術がこわいという人が、桂枝茯苓丸を服用していて良好な例もあります。子宮筋腫は更年期の始まりに発生することも多いので、症状を抑えつつ、閉経を待つというのも、治療法の一つの選択といえるでしょう。
  ただし、不正出血や月経異常が、すべて子宮筋腫によるものとは限りません。悪性の病気がかくれていることもあるので、必ず検査を受けてください。そのうえで、子宮筋腫と診断されたのであれば、漢方薬によるコントロールは十分に可能です。


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   必ず専門の医師にご相談ください。

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