漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年6月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド26】
もみじ 高脂血症のコレステロールと中性脂肪をへらし動脈硬化を未然に防ぐ漢方薬治療

もみじ 放置すると深刻な病気を招く
  血液中のコレステロールおよび中性脂肪が異常に増加した状態を、高脂血症といいます。コレステロールと中性脂肪の両方が多い場合はもちろん、どちらか一方が多いという場合でも高脂血症に該当します。高脂血症を放置すると動脈硬化を招いて、心臓病、糖尿病、脳梗塞などの深刻な病気を起こす危険が高まります。したがって、治療も高脂血症自体の治療というより、高脂血症によって引き起こされる病気の予防をめざして行われることになります。
  では、血液中の脂質がどの程度多いと、高脂血症とされるのでしょうか。一般的には、血液中のコレステロール値が220mg/dl以上、中性脂肪値が150mg/dl以上だと、高脂血症と診断されます。ちなみに適正値は、コレステロール値が200mg/dl未満、中性脂肪値が150mg/dl未満です。前述したように、コレステロール値と中性脂肪値の両方が高ければ間違いなく高脂血症ですし、とちらか一方だけ高い場合でも高脂血症とされます。

  近年、食生活の欧米化に伴って、日本人の血液中の脂質はふえる一方です。そこで、1997年に、日本動脈硬化学会によって、日本人向けの高脂血症診断基準(ガイドライン)が作成されました。それによると、従来の診断基準では、基準値内とはいえないにもかかわらず高脂血症とは診断されなかった、コレステロール値200〜219mg/dlを境界域と定めて、食事の改善や運動でコレステロール値を下げる努力を促す、としています。
日本動脈硬化学会による高脂血症の
診断基準 (抜粋して改編)
コレステロール値 220mg/dl 以上
  境界域 200〜219mg/dl
  適正値 200mg/dl 未満
中性脂肪値 150mg/dl 以上
  ちなみに、ガイドライン作成時に実施した調査によると、コレステロール値が240mg/dlの人が心臓の冠動脈疾患を起こす危険率は、200mg/dlの人の2倍になるそうです。コレステロール値が高いと動脈硬化が起こりやすくなって、狭心症や心筋梗塞などを、中性脂肪値が高いと急性膵炎などを招きやすくなります。
  高脂血症の原因は、原発性のものと、二次性のものとに分けられます。原発性のうち主なものは、家族性の体質的な高脂血症で、幼児・小児のうちから高い血中脂肪値を示すのが特徴です。一般的に高脂血症の治療は20歳を過ぎてからとされていますが、家族性のものの場合は早いうちからの治療が必要なケースもあります。
  二次性のものには、アルコール多飲、糖尿病、甲状腺機能低下症、降圧剤(血圧を下げる薬)などの副作用によるところが多いようです。
  治療の原則は食事療法です。コレステロールや脂質を多く含む食品や、エネルギー、糖質の摂取を制限し、食物繊維を多くとるように心がけます。継続的な運動も必要です。そのうえで、医師が必要と判断した場合には、コレステロール値や中性脂肪を下げる薬が用いられます。ただし、これらの薬には、肝機能障害や胃腸障害を起こすなどの副作用のおそれがあります。
  東洋医学では、肥満や高血圧、糖尿病などで訪れる人に多く見られる体の異常な状態として、高脂血症の治療にあたってきました。
  高脂血症の治療に用いられる漢方薬には、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)大柴胡湯(だいさいことう)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)通導散(つうどうさん)などがあります。いずれも実証(体力が充実している)の人向きですが、高脂血症の場合、実証の人が多い傾向があります。
  虚証(体力が虚弱)の人向けには防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などを用います。また、子供の家族性高脂血症には、大柴胡湯の代わりに小柴胡湯(しょうさいことう)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)などを用います。

もみじ 脂質の減少とともに血圧や血糖値も低下
  それでは、症例を見てみることにしましょう。
56歳の男性M・O さんは、コレステロール値が260mg/dlある高脂血症で頭が重い感じがするからと来院し、血液検査の結果、高脂血症であることがわかったのです。
  がっちりした体格で、見るからに実証といったM・Oさんには、大柴胡湯に加えて、高血圧への対策として七物降下湯(しちもつこうかとう)を処方しました。2週間ごとに経過を観察したところ、コレステロール値はゆっくりと下がっていき、2ヵ月ほどたったころには220mg/dlになりました。
  血圧のほうも基準値の範囲内におさまり、将来、深刻な病気を引き起こす心配が、だいぶ軽減されました。
  58歳の男性K・Aさんは、コレステロール値が267mg/dl、中性脂肪値が266mg/dlの高脂血症でした。来院の直接のきっかけは、高血糖と白内障(目のレンズの役割を果たす水晶体が白くにごって視力が落ちてくる病気)でした。体質はといえば、これまた見るからに実証といった感じの肥満体です。K・Aさんには、防風通聖散と白内障対策に八味丸(はちみがん)を処方しました。なお、防風通聖散は肥満の治療に用いられることもある漢方薬です。
  K・Aさんの場合も、漢方薬を飲み始めてからじわりじわりと数値がへっていき、3ヵ月後にはコレステロール値が253mg/dl、中性脂肪値が187mg/dlになりました。同時に血糖値も下がり、白内障の進行も止まり、さらに体重も5キロへりました。引き続き生活指導と漢方治療を続け、もう少しコレステロールや中性脂肪の値をへらしたいと思っています。

もみじ 食物繊維を積極的に摂取せよ

  高脂血症の場合、だいたい3ヵ月から1年くらいの漢方薬の服用で、コレステロールや中性脂肪の値が下がってきます。高脂血症は治療の効果が比較的出やすい疾患ではありますが、だからといって基本の食事療法をおろそかにしてはいけません。
  ちなみに、鶏卵、スジコ、タラコ、レバー、霜降り牛肉、ウナギ、ウニ、バター、マヨネーズなどはコレステロールの多い食品なので、とる量を控えましょう。また、体の中で中性脂肪に変わる糖質も控えたいものです。清涼飲料水や菓子などの糖分はもとより、果物、穀類、アルコールも同様です。
  逆に、野菜、豆類、イモ類、キノコ、海藻など、食物繊維を多く含む食品は積極的にとるようにしましょう。食物繊維はコレステロールを体外へ排出する働きがあるからです。
  高脂血症は一見重い病気に見えないものの、症状もなく忍び寄る深刻な病気の前兆状態です。放置するか、きちんと対処するかで、その後の健康状態が大きく左右されるので、健康診断で高脂血症と診断されたら、放置せずに早めの治療を心がけてください。

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もみじ 漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
   必ず専門の医師にご相談ください。

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