漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年7月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド27】
もみじ 前立腺肥大による残尿 排尿困難 頻尿を素早く解消し肥大も止める東洋医学療法

もみじ 手術の判断基準は排尿障害の進行度
  前立腺は精液を分泌する男性固有の器官です。膀胱の出口にあり、大きさはクリの実ぐらいです。中心を尿道(尿を膀胱から対外に排出する通り道の管)が通っているため、加齢に伴って前立腺が肥大すると尿道が圧迫され、尿の出が悪くなるなどの排尿障害が起こってきます。これが前立腺肥大症です。
  50歳以上の男性が排尿障害を訴えたら、まず前立腺肥大の可能性を考えるくらい、よく見られる疾患で、症状は三期に分けて考えられています。
  第一期は会陰部(性器と肛門の間の部分)の不快感や、頻尿(頻繁に排尿したくなること)、尿が出始めるまで時間がかかる、排尿の勢いがなくなるなどの症状がみられます。いずれも、肥大してきた前立腺が、膀胱や尿道を圧迫・刺激するために起こる症状です。
  第二期は前立腺の肥大の進行に伴い、排尿の困難度が高まってきます。おなかに力を入れないと尿が出ないといった症状がそうです。また、尿が出きらず膀胱に残り、残尿感のためにさらに頻繁に尿意が起こるようにもなります。飲酒や冷えなどがきっかけで、急性尿閉(まったく尿が出なくなる状態)になることもあります。
  第三期では排尿がさらに困難になり、いつも大量の尿が膀胱に残るようになります。放置すると、腎臓の機能障害を起こすに至ります。
  こうなると手術しなくてはならなくなりますが、第一期ならびに第二期の初期ぐらいならば、ほとんどの場合、薬による治療で症状の改善を図ることができます。
  一方、前立腺肥大の手術は、近年、飛躍的に技術が進歩し、患者にとって負担の少ないものが主流になっています。TURP(経尿道的前立腺切除術)といって、尿道から内視鏡(体内を直接見ることのできる医療器械)を入れ、高周波電流によって肥大部分を取り除く方法で、痛みも少なく、出血もわずかになってきています。昔のようにおなかを切ることは、まずないので、むやみに手術をいやがる必要はありません。
  前立腺の手術で性的な能力が損なわれる心配はまったくありません。前立腺はセックスの機能とは直接関係がないからです。まれに、手術をしたことによる精神的なショックで、一時的にインポテンスになる人もいますが、前立腺とセックスの関係をきちんと理解すれば解消するようです。
  幸い、前立腺肥大は基本的に良性の疾患です。排尿障害が起こらないのであれば、前立腺が肥大していること自体に問題はありません。現代医学の治療現場でも、手術の適応になるか否かの判断の決め手になるのは、前立腺の大きさではなく、排尿障害の進行度です。

もみじ 症状に応じた的確な処方
  さて、漢方では、尿が出にくい、頻尿など、老化による尿路系統の障害を腎虚(生命力の衰えた状態)ととらえ、治療の対象としています。水毒、つまり体内の水分のとどこおりをなくす利水剤を中心に、血液の循環をよくする駆お血剤、気分を明るくして免疫力(体内に病原体が侵入しても発病を抑える力)を高める気剤を配した八味丸(はちみがん)などの漢方薬が使われて、治療効果をあげているのです。
  さらに利尿効果(尿の出をよくする働き)を求めるなら牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)がよいですし、尿量が少なく、排尿痛や血尿など、膀胱炎の症状があるなら猪苓湯 (ちょれいとう)がよいでしょう。また、胃腸の弱い人には、八味丸から桂枝(ケイの樹皮)と附子(トリカブトの根)を取り除いて胃腸への刺激を弱くした六味丸(ろくみがん)がおすすめです。
  いずれの漢方薬も、むくみを取って、炎症を抑え、筋肉の収縮効果を高めて、尿の排出をスムーズにする効果があります。そのため、すでに肥大した前立腺を縮小させることはできないにしても、肥大の進行を止め、尿の出をよくし、頻尿を改善することができるのです。
  漢方薬だけを用いても治療成績はよいのですが、現代医学の薬と併用することで、よりすみやかな効果が得られるという報告もあります。現代医学の補助的療法として東洋医学を利用するのも賢い方法です。
  しかし、尿が出にくい、頻尿などの排尿障害が、すべて前立腺肥大によるものとは限りません。前立腺炎、前立腺ガンなどの可能性もあります。まずは、医師の診察を受けるようにしてください。前立腺炎には痛みと発熱があり、抗菌剤がよく効きます。前立腺ガンは現在ふえつつありますが、血液検査などで早期発見が可能で、比較的、克服しやすいといえるガンです。
  検査の結果、悪性ではなく前立腺肥大症と確認されたら、安心して東洋医学の叡智を活用してください。

もみじ 尿の出がよくなり夜間頻尿も改善した

  J・Sさんは76歳。日中、夜間を問わず、2時間おきに尿意を催していました。夜中に4回、トイレに起きる計算です。病院で前立腺肥大症と診断され、薬も服用していましたが、あまり改善が見られず、東洋医学の門をたたいたのでした。
  ひざから下にむくみがあり、舌の縁はギザギザして、ヘソの下には力がなくフニャフニャッとしているなど、水毒と腎虚の状態が見られます。また白内障(目のレンズの役割を果たす水晶体が白くにごって視力が落ちてくる病気)もありました。
  そこで、八味丸を2ヵ月飲んでもらったところ、尿意を感じるのが4時間おきぐらいになったのです。夜中も2回起きるだけですみ、むくみも取れ、舌も腹も正常な状態に戻りました。
  白内障を併発し、舌の縁がギザギザになる、足がむくんで靴下のゴムのあとがクッキリ残る、というような場合には、八味丸が功を奏するものです。
  H・Nさんは69歳。トイレに行く回数は、日中10回、夜間3回ほどでした。軽い脳梗塞を起こしたときに前立腺肥大症とわかり、八味丸を薬局で買って飲んでいたのだが効かないと相談にみえたので、八味丸の利水効果を高めた牛車腎気丸を処方しました。
  すると、2ヵ月で、2時間おきに行っていたトイレが4時間おきですむようになり、さらに2ヵ月後には、日中4〜5回、夜間1〜2回と、ほぼ正常な排尿の回数に戻ったのです。1回あたりの尿量もふえ、以前はチョロチョロとしか出なかった尿が現在ではたっぷり出るので気持ちがよいそうです。
  なお、八味丸は前立腺肥大症のみならず、精力減退、糖尿病、白内障などの改善にも役立ちます。排尿障害の治療をしながら、総合的な体の若返りも図れるというのは、東洋医学ならではの醍醐味でしょう。


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