漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド28】
もみじ 網膜色素変性症の進行を止め おとろえた視力を回復させた例もある漢方薬治療

もみじ 現代医学では治療の決め手がない
  網膜色素変性症は、遺伝子の異常などにより、網膜(眼球の内壁をおおう膜)の裏にあるはずの色素が網膜の表面に入り込み、夜盲(暗いところで物が見えにくくなる)、視野狭窄(見える範囲がせまくなる)、視力の低下などを引き起こす病気です。耳慣れない病名ですが、意外と患者は多くいます。
  網膜色素変性症は進行性の病気で、早い人では小学校入学前から症状が現れ、50〜60歳までの間に、かなり高い確率で失明に至ります。網膜は、画像を映し出すスクリーンのような役目をしているので、ここが色素に侵されると、物が見えなくなってしまうのです。
  ちなみに、同じように目の一部分が変質し、物が見えなくなる病気に白内障があります。白内障では、レンズの役目を果たす水晶体が変質(白濁)するのです。
  しかし、白内障が、白くにごった水晶体を手術で眼内レンズと交換すれば、再び物が見えるようになるのに対し、網膜色素変性症では、いたんだ網膜を交換する技術は開発されていません。それどころか、網膜の変性の進行を止める方法すら、確立されていないのです。
  ですから、治療法がないまま、みすみす失明の悲劇に見舞われる場合も多いようです。網膜色素変性症に関しては、いまのところ現代医学には、決定的な治療法がない状態といってもよいでしょう。

もみじ 1000人以上の症例で失明は1人
  しかし、この病気を東洋医学的に見ると、ほどんどの患者に共通する2つの特徴があります。1つは、胸脇苦満と呼ばれる肋骨弓(みずおちの両わき)の下の抵抗感です。胸脇苦満は網膜色素変性症に限らず、目の病気の人にありがちな兆候ですが、これを改善するには柴胡剤(ミシマサイコの根を処方した漢方薬)が用いられます。
  もう1つの特徴は、お血(おけつ)と呼ばれる血液循環のとどこおりです。重症の人は、ヘソの周囲にある圧痛点(押したときに感じる痛みのある場所)を押すと、飛び上がるほど強烈な痛みを感じることもあります。お血の改善には、駆お血剤(血液のとどこおりを解消する漢方薬)を用います。
  以上のことから東洋医学では、網膜色素変性症の人には、柴胡剤と駆お血剤の両方を処方します。すると、現代西洋医学では止める手立てがないとされている網膜色素変性症の進行がみごとに食い止められるのです。さらに、視力を取り戻す人さえいるのですから、これは現代医学の観点から見れば、奇跡ともいうべきことでしょう。
  ちなみに、東洋医学的な立場から目の病気の治療に精力的に取り組んでこられた、私の恩師の故・藤平健先生は、1000人以上の網膜色素変性症の患者を診られたのですが、診断の時点で病気が進行していた1人を除いて、失明した人はいないという好成績を残しています。
  具体的に漢方薬の名前をあげると、柴胡剤では体力のある順に大柴胡湯(だいさいことう)四逆散(しぎゃくさん)小柴胡湯(しょうさいことう)が適応になります。さらに体力の弱い人には、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)を用います。
  駆お血剤では、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などが適応です。また、当クリニックではその名もズバリ、駆お血丸(くおけつがん)という、桂枝茯苓丸桃核承気湯を合わせたような漢方薬も使っています。

もみじ 視力が0.2上がり視野も広がった

  では、実際に治療成績をあげている例を紹介しましょう。
  19歳の男性T・Sさんは、4歳のときに大病院で網膜色素変性症と診断されました。T・Sさんの場合、両親や親族に同じ病気の人は見当たらなかったのですが、暗いところで見えにくそうにしているようすに両親が気づいて眼科を受診させ、病気を早期発見したのです。
  しかし、網膜細胞の代謝(体内での物質の変化や入れ替わり)をおとろえさせないために、ビタミンB12などを服用して網膜の細い血管の流れをよくする程度の治療しか受けられず、だんだん視野がせばまり、視力が落ちてきました。
  当クリニックで大柴胡湯駆お血丸を飲み始めたのは、T・Sさんの視力が両目ともに0.5まで下がった12歳のときのことでした。以来、視力低下の進行が止まり、19歳になった現在でも、視力は両目ともに0.5を維持しています。体調のよいときには0.6を記録することもあるくらい安定しています。
  さすがに夜は少々物が見えにくいようですが、視野狭窄はやや改善の傾向を認め、高校や大学の入試のときにも支障はなく、順調に学生生活を送っているそうです。なお、漢方薬の服用を開始して1年後には、お血の状態がだいぶ改善されたので、駆お血丸桂枝茯苓丸苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)に替え、大柴胡湯とともにずっと服用を続けています。
  29歳の女性S・Kさんは、母方の祖父が網膜色素変性症だったため、幼いときから病気のことがわかっていました。しかし、これといった治療法がないといわれて、そのまま成人し、20歳ごろから夜盲、視野狭窄、視力の低下を実感するようになったそうです。
  漢方薬による治療を始めたのは4年前、妊娠したことがきっかけでした。視力は0.6まで下がっていました。S・Kさんに処方したのは、柴胡桂枝乾姜湯桂枝茯苓丸です。産前産後を除き、妊娠中もずっと服用してもらったところ、視力が0.6から0.8に上がり、視野もやや広がるという良好な経過を得ています。
  網膜色素変性症の場合、なるべく早いうちから治療を開始したほうが、治療成績がよいようです。ですから、身内に網膜色素変性症の人がいる場合はもちろん、いない場合でも、子供が暗いところで物が見えにくいようなそぶりを見せたら、まず眼科できちんと診察してもらうことをおすすめします。
  単なる夜盲症だと勝手に判断して放置し、視力の低下や視野狭窄が進んでからでは、後悔することになります。東洋医学の治療でも、病気の進行を止めることは可能ですが、失われた視力や視野を回復させることは容易ではないからです。
  網膜色素変性症を防ぐ手立てとしては、いとこ同士の結婚など、近親婚をさけることがあげられます。身内にこの病気の人がいる場合、とくに心ががけてください。
  なお、網膜色素変性症では、経験を積んだ医師の指導のもとに、なるべく漢方薬の服用を続けたほうがよいでしょう。最低でも6年間は飲み続けることをおすすめします。


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   必ず専門の医師にご相談ください。

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