漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

以下は健康雑誌「安心」1998年9月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

   【東洋医学ガイド29】
もみじ 夜尿症の子供の体質を改善し1〜3ヵ月でおねしょを止める漢方薬治療

もみじ 3つの条件がそろえば治療が必要
  自分の意志に関係なく尿が出てしまうことを、遺尿、あるいは失禁といいます。これは昼間でも起こることですが、とくに夜中に起こる遺尿を、夜尿といいます。いわゆる「おねしょ」のことです。
  子供によく見られる現象ですが、5歳ぐらいまでなら心配するような病気ではなく、単に排尿機能が未熟なだけと考えられます。したがって、ほとんどが成長するにつれて解消する、問題のない夜尿といえます。
  治療が必要な夜尿症は、小学校入学後も(1)毎日続く、(2)尿の量がへらない、(3)一度治ったのに再び起こる、などの条件がそろった場合です。原因には、以下のようなことが考えられます。
  普通、夜は抗利尿(尿を出にくくする)ホルモンが分泌されるため、あまり多くの尿がつくられません。そのため、日中のように何回も排尿しなくてすむわけですが、抗利尿ホルモンの分泌が低下すると、昼間と同じペースで尿がつくられるので、夜尿が起こります。
  膀胱の容量が小さい、膀胱の広がり方が悪いなどの理由から尿をためておけない場合もあります。また、膀胱の浸透圧の関係で、尿がつくられすぎる場合もあります。ほかに、環境の変化や心配ごとなどのストレスも夜尿症にかかわりがあります。
  そのため、現代医学における夜尿症の治療には、薬物療法のほかに、生活指導やカウンセリングが欠かせないものになっています。薬物療法には自律神経(意志とは無関係に内臓や血管などの働きを支配している神経)に働きかける薬や、抗利尿ホルモンを鼻の中にスプレーするなどの方法があります。
  生活上の注意では、午後から夜にかけては水分の摂取を控える、寝る前に必ず排尿する、夜中に起こしてトイレに連れて行く、などがあります。しかし、こういった方法を実行しても夜尿症が治らず、小さな胸を痛めている子供も少なくありません。
  とくに、キャンプや合宿、修学旅行など泊りがけの行事があるとき、夜尿の悩みは深刻になります。そんなときはぜひ、東洋医学の治療を試してください。早ければ2〜3週間、通常で1〜3ヵ月、遅くとも半年後には、症状の改善が見られるでしょう。

もみじ 体力をつけながら症状を改善していく
  さて、夜尿症の子供には、虚弱で筋肉のしまりが弱いタイプが多く見られます。この場合、体を丈夫にすることが、夜尿症克服の第一歩となります。そこで、最も多く用いられるのが小建中湯(しょうけんちゅうとう)です。これは桂枝湯(けいしとう)に水あめを加えて甘くしたような処方で、体力をつけながら、さまざまな不快症状を改善していく働きがあります。
  夜尿症の子供は、往々にして夜泣き、ヘルニア、腹痛などを同時におこしているものですが、これらの諸症状にも小建中湯は効果的です。また、神経質なタイプには柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、のどが渇いて水を多く飲むようなタイプには白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)、手足や腰が冷えるタイプには苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)なども適応になります。
  また、体格がよく、見るからに丈夫そうな子供にも、夜尿症はあります。この場合、麻黄湯(まおうとう)葛根湯(かっこんとう)を用います。膀胱機能の未熟さを改善するために、六味丸(ろくみがん)を処方することもあります。東洋医学では、膀胱の機能障害は腎虚という言葉で表され、大人では八味丸(はちみがん)の適応症です。しかし、子供に八味丸は作用が強すぎるので、作用のおだやかな六味丸を出すのです。
  ちなみに、大人にも夜尿はあります。大人の夜尿症にも先に述べたような漢方薬が効果的ですが、泌尿器の機能障害の可能性も高いので、必ず検査を受けて原因を特定してから治療を受けるようにしてください。事故で脊髄(背骨の中にあって脳髄とともに中枢神経系を構成している器官)を損傷した人の遺尿が、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で回復のきざしを見せている例もあります。どんなケースでも、早々とあきらめてはいけません。

もみじ 毎日続いた夜尿が3ヵ月で完治した

  それでは、漢方薬を飲んで夜尿症が治った実際の症例をご紹介しましょう。
  7歳の男児M・S君は小学二年生です。おむつが取れてからもほぼ毎日夜尿が続き、昼間遊んでいて、おもらしをしてしまうこともありました。検査では泌尿器の異常はないとのことです。また、M・S君には、副鼻腔炎(いわゆる蓄膿症)と疹出性中耳炎もありました。東洋医学的に見れば、どれも同じ水毒(水分代謝のとどこおり)による病気です。
  そこで、小建中湯を処方したところ、2週間めくらいから夜尿のない日があるようになり、1ヵ月後には、その日数がさらにふえました。2ヵ月後にはうっかり寝る前に多量の水分をとってしまった日などを除いては、夜尿が起こらないようになったのです。
  また、副鼻腔炎や中耳炎の状態も改善されてきたせいか、怒りっぽかった性格がおだやかになった、とお母様が喜んでいました。もう少し体力をつけようと、さらに1ヵ月間、小建中湯を飲んでもらったところ、夜尿症は完治しました。
  10歳の男児Y・T君は小学4年生。4歳のころにおさまった夜尿が、小学校入学と同時に再び始まってしまいました。検査の結果は異常なしです。のどの渇きと、胸脇苦満という腹部の緊張感が見られ、気管支ぜんそくと副鼻腔炎もありました。
  そこで、柴胡桂枝湯のほか、ぜんそくに対応する漢方薬(桔梗石膏)も処方して飲んでもらったところ、約1ヵ月の間に夜尿のない日が7日間ほどあるようになりました。夜尿のある日でも、自分で尿意を感じて起き、トイレに行けるようになったので、とりあえずふとんをぬらす心配からは解放されたのです。
  朝まで起きずにすむようになるまでに、5ヵ月ほどかかりましたが、あきらめないで続けてよくなった好例といえます。
  なお、東洋医学の治療でも、夜尿症には両親の理解と協力が必要となります。夜尿のない日があったらほめて自信を持たせたり、「お父さんも昔はよくおねしょをしたもんだよ」などと話をしたりして、子供の気持ちをらくにしてやりましょう。
  夜中に起こしてトイレに連れていくのもよいことです。ただし、何度も起こすと睡眠不足などの害が出ますので、1〜2度にしておきましょう。
  夏は水分を多くとりがちなので、夜尿が目立つ季節でもあります。一方、夏休みという、じっくり治療に取り組むチャンスもあるので、家族だけで悩んでいないで、ぜひ相談にいらしてください。


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   必ず専門の医師にご相談ください。

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