漢方・掲載記事

以下は、「安心」2001年6月号の永久保存別冊付録[心の悩み解消大辞典]に掲載された記事です。

【自律神経失調症
 
自律神経失調症の人の全身の状態を整えながら無理なく改善に導く漢方療法

疲れた体と心をおだやかに癒す
 病気を思わせる症状があるのに、いくら検査しても悪いところがない。このようなときに用いられる病名が、自律神経失調症です。
 自律神経は植物神経ともいわれ、内臓や血管の働きや内分泌器官の機能を調節しています。自分の意志とは無関係に働き、呼吸や脈拍、血圧、体温、発汗などをコントロールしているのです。眠っていてもなんの不都合もなく生命が維持できるのは自律神経のおかげです。
 このように体の機能を調節する自律神経がうまく働かなくなると、あらゆる不調が起こってきます。疲れる、だるい、冷える、のぼせる、頭痛、めまい、動悸、息切れ、発汗、震え、不眠、不安、食欲不振、下痢、便秘などです。
 なお、こういった症状が半年以上続き、加えて発熱や筋肉痛、リンパ節の腫れが見られる場合は、慢性疲労症候群の可能性もあります。これも自律神経の失調が大きくかかわっている病気です。
 では、なぜ自律神経がうまく働かなくなるのでしょうか。強いストレスや免疫力(体内に病原体が侵入したときにそれに抵抗して発病を防ぐ体の中の働き)の低下が原因ではないかといわれていますが、確かなことはまだよくわかっていません。。
 治療もいきおい対症的にならざるを得なくなります。不安を訴えられれば精神安定剤を、不眠を訴えられれば睡眠薬を、疲れやだるさを訴えられればビタミン剤や栄養剤を出す、といったようにです。
 さて、漢方では病気や体の不調を気(き・一種の生命エネルギー)、血(けつ・血液)、水(すい・体液)のバランスがくずれて起こるものととらえていますが、なかでも気がすべての根源であると考えています。血も水も気によってコントロールされているので、気が衰えれば、血や水のバランスもくずれて、病気になるというわけです。
 自律神経失調症の場合も、気の衰え、またはめぐりの悪さによって体の調節がうまくできなくなった状態として考え、気を補ったり、気のめぐりをよくしたりする漢方薬を処方します。すると1〜2種類の薬で、さまざまな不快症状がすべて消えていき、気がつくとすっかり元気になっているというふうに、すばらしい効果を発揮します。
 気を補う漢方薬では補中益気湯(ほちゅうえっきとう)がよく使われます。体力を回復させつつ、気力を増して倦怠感を除く効果があり、疲れる、元気が出ないという人にはピッタリの薬です。
 同じ自律神経失調症でも、イライラや情緒不安定が強いようなら、気が逆上したり、気のめぐりが悪くなったりしていると考えられるので、気のめぐりをよくする甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)を使います。いずれも、高ぶった気を抑え、興奮や不安を落ち着かせて、体の不調を改善する漢方薬です。
 また、不眠が強い場合には、酸棗仁湯(さんそうにんとう)加味帰脾湯(かみきひとう)を処方する場合もあります。
 45歳の女性・Kさんの例を見てみましょう。Kさんはいつも体が疲れて重く、動悸や不眠に悩まされていました。病院にも行きましたが、検査でどこも悪くないといわれました。しかし、そういわれても症状がよくなるわけではなく、常に荷物を背負っているような背中の重さに気力までも衰えてしまいました。あまりのつらさに、死んだ方がましだと思ったこともあるそうです。
 疲れるという訴えが強いときは、補中益気湯が適しています。ほかに健康丸(けんこうがん)ともいわれる八味地黄丸(はちみじおうがん)も出して飲んでもらったところ、3ヶ月で体の疲れや背中の重さなどの症状が軽くなり、6ヶ月でほとんど軽快、10ヶ月ですっかりよくなって元気な笑顔を見せてくれました。
 また、28歳の女性・Mさんは産後、育児不安からイライラして眠れない夜が続きました。Mさんには甘麦大棗湯半夏厚朴湯を飲んでもらいましたが、こちらも3ヶ月でだいぶ気分が落ち着き、夜も眠れるようになりました。
 Mさんは半年ぐらいでほぼよくなったように見えましたが、本人が薬を飲んでいないと不安だというので、疲れたときには半夏厚朴湯補中益気湯に変えたりしながら続けて飲んでもらいました。2年後、Mさんは薬から離れても大丈夫という自信がつき、いまは忙しくも楽しく子育てに取り組んでいます。
 このように、長期間飲んでも問題がなく、安心して続けることができるのも漢方薬のよいところです。
 ストレス社会ともいわれる現代、自律神経失調症で悩む人は決して少なくありません。周囲に病気のことを理解してもらえず、そのことで二重に苦しむ人もいます。また、精神や神経に作用する向精神薬を飲むのに抵抗を感じる人もいるでしょう。そんなときは、疲れた体と心をおだやかに癒してくれる漢方治療を受けるとよいでしょう。



漢方治療は、その時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
当クリニックでは、経験豊富な漢方医があなたに合った治療を提案します。お気軽にご相談ください。



Copyright(C)昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます