漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

【 網膜色素変性症 】

以下は、「安心」2002年2月号の『あきらめてた視力が戻る最強の<視力回復法>』に掲載された記事です。


難治の網膜色素変性症や黄斑変性症の進行を抑制し視野も視力も改善する漢方薬
血流が悪く手足の冷えている人が多い
 目をカメラにたとえると、視細胞が並ぶ網膜は、画像を映し出すフィルムにあたります。網膜色素変性症は、この網膜の表面に褐色の色素がにじみ出てくる病気です。
  20歳前後で判明することが多く、症状としては暗いところで物が見えにくくなる夜盲に始まり、しだいに見える範囲が狭くなる視野狭窄や、視力の低下が起こってきます。
 見え方がどう変わってくるかは、変性のタイプによってまちまちです。周辺部の視野から欠けていって中心部だけ見える場合もあれば、ドーナツ状に視野が欠けて中心部と周辺部だけが見える場合もあります。
 また、黄斑変性といって、網膜のほぼ中心にある黄斑部に変性が起こると、中心部の視野が欠けてきます。周辺部は見えるので、けっこう日常の動作はできますが、見ようとするものが見えなくなるため、読み書きなどでは苦労します。
 くわしくは後述しますが、色素の変性が黄斑部に起こる黄斑変性の発生には、加齢が関係しているものもあり、老人性円板状黄斑変性症と呼ばれることもあります。
 網膜色素変性症の原因は、まだよくわかっていません。遺伝的な要因がかなり関係しているようですが、家系に発症者が見られない場合もあるので、遺伝性の病気ともいいきれないのです。発症者の3割程度に色盲や色弱がみられるので、それも関係しているのかもしれません。
 いまのところ、西洋医学には根本的な治療法はなく、血液循環をよくする薬やビタミン剤などを使って、病気の進行を遅らせるにとどまっています。最近の報告では、網膜色素変性症で完全失明にまで至るケースはそれほど多くないようですが、やはり難病であることには変わりありません。
 しかし、あきらめることはありません。東洋医学的な立場から精力的に眼病の治療に取り組んでこられた、故藤平健先生の実績があるため、網膜色素変性症で私のクリニックを訪れる人がいらっしゃいます。そのなかに、視野が広がり、視力が上がった例がいくつもあります。
 東洋医学的に網膜色素変性症の人を診ると、たいていの人に胸脇苦満と呼ばれる季肋部(肋骨の下端)あたりの抵抗感がみられます。また、血圧が低く、冷え性、とくに手足が冷えるという人も多くいます。これは末梢の血流が悪いということで、目の奥の血流も悪くなっていることが容易に想像できます。
 漢方でいうお血(おけつ・血液循環のとどこおり)の症状ですから、循環血液量をふやし、血流をよくすることが必要になります。
 そこで治療には、胸脇苦満を改善させる柴胡剤とお血を改善させる駆お血剤を使います。
  柴胡剤とは生薬(漢方薬の原材料)であるミシマサイコの根を配合した漢方薬の総称で、大柴胡湯(だいさいことう)小柴胡湯(しょうさいことう)柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)などがあります。駆お血剤は血液の循環をよくする働きのある漢方薬で桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)桃核承気湯(とうかくじょうきとう)などがあります。
 7〜8割の人には、体力が中等度の人向けの処方である、柴胡桂枝湯桂枝茯苓丸の組み合わせが効果的です。しかし、体力のない人には、柴胡桂枝乾姜湯当帰芍薬散の組み合わせを使いますし、便秘がある人には桃核承気湯を使います。
 すると、たいていの場合は、網膜の色素変性が止まるか、あるいは進行がきわめて遅くなるのです。血流がよくなると肌に浮き出ていたシミが消えるのと同じように、網膜にしみ出した色素も消えていくのではないかと予測できます。

10年以上も進行が止まっている
  では、網膜色素変性症の症例を、ご紹介しましょう。
  色盲と色弱があるAさんは、40歳の女性です。20歳ごろから網膜色素変性症とわかり、ビタミンB12を飲んでいました。けれども年々、視野の狭窄が進行するばかりだったので、平成12年6月から柴胡桂枝湯桂枝茯苓丸による漢方治療を始めました。
  するとほどなく視野の狭窄が止まり、半年後くらいから少しずつ見え方が回復していったのです。1年後には初診のときに左右の平均が15度ぐらいだった視野が、24度になっていました。1年間で10度近く、視野が広がった計算です。
  私の経験では、半年から2年ぐらいの漢方治療で視野が拡張する人が多く、平均すると5度ぐらい上がります。漢方でも病気によっては即効性を示しますが、網膜色素変性症の治療は、ある程度長期戦になります。まず進行を止め、少しずつよくしていこうと考えることが大切です。
  次は黄斑部の変性についてです。網膜のほぼ中心にある黄斑部に色素の変性が起こるものを黄斑変性症といいますが、高齢者や糖尿病患者など血管がもろくなっている人の場合、色素がにじみ出すだけでは終わらないことがあります。
  というのは、色素変性という異常事態を抑えようとして新しい血管ができ(新生血管)、これが黄斑部に入り込んでくるからです。新生血管は非常にもろく、出血しやすいので、すぐに出血します。出血した血がその場でどんどん固まり、やがて黄斑部は円盤状に隆起して、変性をきたしてくるのです。
  視野の中心が見えないという点が、黄斑変性症の症状で、最も不便な点です。けれども、それ以上に深刻な問題は、やはり決め手となる治療法がないことです。新生血管をレーザーで焼きつぶす光凝固などの治療法がありますが、再発することも少なくありません。
  このような黄斑変性症にも、漢方治療は有効です。
  85歳の男性・Bさんは、65歳のときに円板状黄斑変性症と診断されました。根治する治療法はないといわれ、ビタミン剤などを飲んでいましたが、じわじわと視野がせまくなっていくことに不安を覚えて、74歳のときに漢方治療を始めました。
  初診のときの視力は、右0.5、左0.8です。眼底写真を見ると、黄斑部が変性しているだけでなく、網膜全体に色素がにじみ出ていました。。
  そこで柴胡桂枝湯桂枝茯苓丸に加え、全身の若返りを図る目的で八味丸(はちみがん)もいっしょに飲んでもらったのです。
  経過は順調で、漢方治療を始めてから視野の欠損の進行が止まりました。10年以上たち、85歳になるいまも、視野は治療開始のときと比べてせまくなっていません。視力も左が0.6とやや下がりましたが、右は0.5のままです。
  日常生活に支障はなく、体調も良好、毎日水泳を楽しむほどお元気でいらっしゃいます。
  黄斑変性症を含めた網膜色素変性症では、血流をよくすることが大切です。漢方治療のみならず、手を握ったり開いたりするなどの運動も役に立ちます。

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