鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2002年10月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


釣藤散(ちょうとうさん) -ボケ-

西洋薬にはボケの薬はまだない
老年期痴呆(ボケ)には、アルツハイマー病と血管性痴呆の2種類があります。
アルツハイマー病は、大脳が萎縮して正常に機能しなくなる病気です。原因はまだよくわかっていません。
一方血管性のボケは、脳の動脈硬化によって大脳の血流が悪くなって起こるボケです。
もちろんそれぞれに特徴はありますが、実際にはなかなか鑑定が難しく、症状も共通する部分が少なくありません。
現在、アルツハイマー病にも血管性のボケにも、薬物治療では同じような対症療法が行なわれています。例えば、精神安定剤のような薬物を使い、症状を安定させることがあります。
しかし、いろいろな副作用もあり、特にこれといった薬物がまだないのが実情です。
そうした状況の中で、脳に対する確実な作用が期待できる漢方薬として注目されているのが釣藤散です。
この処方の主薬は、鎮痛、鎮静効果のある釣藤鈎(ちょうとうこう・アカネ科の落葉藤本カラカズラのトゲ)といわれる生薬(漢方薬を構成する草根木皮)です。
釣藤散には、やはり鎮痛作用のある菊花(きっか・キク科の多年草キクの花)、鎮痛、鎮痙作用のある防風(ぼうふう・セリ科の多年草ボウフウの根)という生薬も含まれています。
釣藤鈎菊花防風が組み合わされることによって、神経の異常興奮が鎮められます。
釣藤散の基本的な作用は、体の上に突き上げる(上衝)気(一種の生命エネルギー)を下に引き下げることです。気が全身をくまなく巡っていると健康は保たれますが、気が上衝すると、のぼせ、興奮、頭痛、赤ら顔、肩こりなどが起こります。釣藤散は、そのように上衝した気を下に下げて、さまざまな症状を改善します。

もの忘れの進行を止めてくれる
中でも釣藤散が効果を発揮するのは、脳動脈硬化、高血圧、肩こり、めまい、頭痛などです。以前は、朝方の頭痛は釣藤散の最大の使用目標とされましたが、必ずしもそうではなく、朝方以外の頭痛も使用目標になることがわかってきました。
釣藤散は、気の上衝による頭部を中心にした諸症状を改善する一方で、胃腸の働きも改善します。
つまり釣藤散には人参(にんじん・ウコギ科の宿根草チョウセンニンジンの根)、茯苓(ぶくりょう・アカマツまたはクロマツの切り株の根の周りに生えるサルノコシカケ科のマツボドの菌体)、半夏(はんげ・サトイモ科の多年草カラスビシャクの根茎)、陳皮(ちんぴ・ミカン科の常緑小高木ミカンの成熟した果実の果皮)、生姜(しょうきょう・ショウガ科の多年草ショウガの根茎)も含まれていて、これらが胃腸の働きを整え、人体の調和を図り、みずおちのつかえや胃弱、食欲不振などを改善するのです。
さらに、体の潤いをます麦門冬(ばくもんどう・ユリ科の多年草ジャノヒゲの塊根)や、口の渇きを止める作用のある石膏(せっこう・天然の軟石膏)も含まれています。
釣藤散は、これらの生薬の働きによって、頭部に上った気を下に引き下げ、精神を安定させるとともに動脈硬化のときの頭痛や、怒りっぽい、のぼせ、耳鳴り、不眠、めまいなどの治療に使用されているのです。
そして、最近はボケの治療に応用されるようになってきました。
日本東洋医学会が、ダブルブラインド(二重盲検法)と呼ばれる非常に厳密な方法で検討したところ、釣藤散が老年期のボケに有効であると証明されたのです。
その老年期ボケも、血管性のボケのみならず、アルツハイマー病にも一定の効果があると報告されています。
アルツハイマー病のボケは、初期の段階では「もの忘れ」が起こります。
もの忘れが進行して中期になると、計算ができなくなったり、言葉が出ない、言っていることのつじつまが合わない、といった失語が現れたりしてきます。
そして末期には、知能障害が現れ、徘徊などの異常行動が見られるようになります。
血管性のボケの場合も、初期にはイライラ感、うつ状態から始まり、次にもの忘れ、動作が鈍くなるといった症状が現れ、やがて妄想などの異常行動が起こるようになります。
釣藤散がボケに有効といっても、例えば異常行動を起こすようになった患者さんを、それ以前の状態に戻すというほどの効果は、残念ながら期待できません。
当初の、もの忘れや記憶障害などの段階で飲み続けると、基本的にはそれ以上の症状の進行をおさえ、ときには一定の症状の改善も期待できることがあります。
釣藤散は脳の血流を改善しますから、もの忘れや計算ができないなどの症状なら改善できることがあります。
そのようなボケの進行を遅らせる効果とともに、さきほど紹介した頭痛やめまいなどのさまざまな自覚症状も改善することができます。
ボケが心配なくらいの高齢者になると、さまざまな自覚症状がほかにも現れているものです。そうした症状に応じて、駆お血剤(血液の滞りを改善する漢方処方)や、老化防止の名薬といわれる八味丸(はちみがん)、利尿剤、といった漢方薬と釣藤散を併用すると、良好な結果が得られることがしばしばあります。
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