鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2002年11月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


五積散(ごしゃくさん) -腰痛-

五つの病毒を解消する薬
現在、我が国では腰痛症の患者さんが、1000万人以上いるだろうといわれています。
総人口のほぼ1割に当たる人が、腰痛に悩まされているわけです。
高齢者の半分以上は腰痛症といわれていますが、最近は20代、30代の若い人にも腰痛がふえているようです。
腰痛症とは、下肢の痛みなどの症状を伴わず、ほかに原因のない急性または慢性の腰痛を意味します。
現代医学では局所を安静にし、姿勢や日常生活動作に注意したうえで、運動療法、理学療法(マッサージや電気刺激、温熱刺激などの物理的手段を用いる治療法)、神経ブロック療法(麻酔薬などで痛みを感じる神経をブロックする治療法)、薬物療法などが行われるのが一般的です。
しかし、現代医学的な治療だけでは効果が現れにくいことも少なくありません。そんなときに漢方薬が活躍します。
腰痛が慢性化した場合、血液や水の流れが不調を起こし、腰痛が治りにくくなることがあります。漢方はそうした血液や水の流れを調整して、腰痛を改善していきます。
腰痛を改善する代表的な漢方薬が、五積散です。これは、中国の宋の時代の陳師文らによって著された『和剤局方』(1107〜1110年)という古典の処方集に掲載されている処方です。
おおまかないい方をすると、気(一種の生命エネルギー)の上衝によるのぼせとともに、下半身の冷えがあるような状態の腰痛を治す薬です。
五積散の五積とは、気(気力の滞り)、血(血の滞り)、痰(水分の滞り)、寒(冷え)、食(食毒)、の五つの病毒の塊という意味です。五つの病毒の塊が、体の中にとどまっているために、腰痛をはじめとする、いろいろな症状が現れているわけです。
言葉を換えると、これは体力がやや落ち込んで貧血ぎみな人が、寒さや湿気によってなんらかの症状を呈している、というような状態です。 五積散はその五つの病毒の塊を解消して症状を改善するのです。

腰痛以外にも幅広く効く薬
五積散は18種類の生薬(漢方薬の原材料となる草根木皮)から構成されています。構成生薬が18というと、かなり多いほうです。
18もの生薬があるくらいですから、その組み合わせによって、いろいろな漢方処方の意味があり、それらの作用を発揮します。
つまり五積散という処方でありながら、 二陳湯(にちんとう)平胃散(へいいさん)四物湯(しもつとう)桂枝湯(けいしとう)続命湯(ぞくめいとう)半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)麻黄湯(まおうとう)苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)などの働きも備えているのです。その幅広い働きによって、気、血、痰、寒、食の五つの病毒を散らしてしまうわけです。
一見、複雑と思われる処方ですが、江戸時代の著名な漢方医家である津田玄仙は、 五積散の使用目標を、腰冷痛、腰股攣急、上熱下冷、小腹痛の四つとしています。
腰冷痛とは、腰が冷えて痛むことです。
腰股攣急とは、腰や股の部分が突っ張ることです。
上熱下冷は、体の上のほうに熱がたまり、下のほうが冷えることです。
下腹痛は、下腹部の痛みです。
こうした使用目標とともに、腰痛や座骨神経痛、胃腸の不調、リウマチ、女性の月経不順などがあるときに用いると、卓効を現す処方です。特に女性にはよく適応します。
基本的には、頭ののぼせとともに寒気がある人の腰痛によく効く薬です。
とはいえ、さきほど申し上げたように、体の中にたまっていた五積を散じる働きがあるわけですから、さまざまな症状も同時に改善していくのが大きな特徴です。
五積散によって改善されることが多い病気は、腰痛のほかに、急性または慢性の胃腸炎、胃・十二指腸潰瘍、胃酸過多症、胃けいれん、腸神経痛、各種の神経痛、リウマチ、脚気、月経痛、月経不順、冷え症、半身不随、打撲傷、心臓弁膜症、気管支ぜんそく、などといわれています。

副作用の心配がほとんどない
五積散の大きな特徴の一つとして、副作用の心配がほとんどないことが挙げられます。
これは、構成生薬が多いことに由来しています。構成生薬が4種類ほどの処方は鋭い効き目を現しますが、それだけに予想外の打撃を体に与えることもまれにあります。
しかし、これほど多くの生薬で構成されていると、それぞれによって副作用の部分を互いに打ち消し合ってしまうので、副作用が起こりにくくなるのです。
したがって、しばらく飲み続けても副作用の心配は全くないといっていいほど、安全な薬でもあります。
腰痛が改善するまでには、しばらく時間がかかるもので、そのためには、薬も長い間飲み続ける必要があります。その点、副作用のほとんどない五積散は、非常に好都合な漢方薬でもあります。
18種類もの生薬で構成され、多くの漢方薬の意味と作用を発揮する処方ですから、応用範囲は非常に広くなっています。
さきほど、この処方の4つの使用目標を紹介しましたが、それに当てはまらない若い人たちの腰痛でも、一定以上の効果を示すことがしばしばあります。

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