鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2002年12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

● 酸棗仁湯(さんそうにんとう) -不眠症-

精神を安らかにし眠りを誘う
酸棗仁湯は、昔からよく使われている、漢方の睡眠薬です。酸棗仁湯は、『金匱要略』という漢方の古典に掲載されている処方ですから、かなり古くから使われていたことになります。
古い時代から、すでに眠れなくて悩んでいた人はいたのでしょう。
この薬は、体力が衰えているか、心身が疲労していて、眠れないという人に使用されます。特に最近では、高齢者がふえてきていますが、老化に伴って体力も衰え、なかなか眠れないというようなときに最適です。
漢方では、体力があるかないかで、実証(体力が充実していること)と虚証(体力が衰えていること)に分けて処方を替えますが、どちらかといえば虚証に使用される薬です。
酸棗仁湯は、
酸棗仁
(さんそうにん・クロウメモドキ科サネブトナツメの種子を日干しにしたもの)、
知母(ちも・ユリ科の多年草ハナスゲの根茎)、
川きゅう
(せんきゅう・セリ科の多年草センキュウの根茎)、
茯苓
(ぶくりょう・アカマツまたはクロマツの切り株の根の周りの土中に生えるサルノコシカケ科のマツホドの菌体の外層を除いたもの)、
甘草(かんぞう・マメ科の多年草カンゾウの根)、
の五種類の生薬から構成されています。
この中で、主薬として働いているのは酸棗仁です。本来、サネブトナツメは一般によく食用にするナツメの原種です。核太棗とも書かれるように、果実はやや小さく、果肉が少なくて、そのわりには核(種子のこと。仁ともいう)が大きいのです。果肉の味が、甘く酸っぱいことから、酸棗仁と呼ばれるのです。
これは、精神を安らかにして、疲れを取り、眠りを誘うとされています。滋養強壮効果を持った、精神安定剤のような働きをします。
知母も精神安定剤の役目を果たす生薬で、熱を冷まし、口の渇きを和らげます。川きゅうは、気(一種の生命エネルギー)のうつを開くとともに、血行をよくして、頭痛、のぼせを取り、精神を安定させます。
  茯苓川きゅうと協力して、気を巡らせるとともに、水も巡らせて、利尿作用を示します。また、酸棗仁と組み合わせると、鎮静作用を強め、さらに、胃腸を丈夫にする強壮作用もあります。
甘草知母と協力して、熱を冷まして乾燥を和らげ、全体の調和を保つように働きます。

睡眠の聖なる薬と呼ばれる
体力が衰えている人、心身が疲労している人、高齢者で、顔色があまりよくないような人で、寝つきが悪くて悩んでいるというタイプの不眠症に、第一選択されるのが酸棗仁湯です。寝汗をかいたり、口がぱさぱさして乾燥するような人にも向いています。
酸棗仁湯が向いている人は、体力は弱々しいほうなので、腹力も強くありません。おなかをさわると、ふわりとしているものです。それほど強くはありませんが、神経衰弱、動悸などの神経症状があるときにも用いられます。
酸棗仁湯によく似た薬に、帰脾湯(きひとう)、あるいは加味帰脾湯(かみきひとう)などがありますが、酸棗仁が使われている量が酸棗仁湯は15グラムもあるのに対して、帰脾湯加味帰脾湯では3〜5グラムしかありません。そこが大きな違いです。
使用目標の違いとしては、酸棗仁湯は、神経症状があまり強くない人に用いられます。しかし、帰脾湯加味帰脾湯は、感情不安、ヒステリー、ノイローゼなどの、精神神経症状がある程度強い人の不眠に適しています。
不眠にも、寝つきがよくない入眠障害、いったん寝ついても途中で何度も目が覚める熟眠障害(途中覚醒)、実際には眠っているのに眠れていないという思いこみの不眠の主に3タイプがあります。 酸棗仁湯は、基本的に1つ目の入眠障害タイプの不眠に効果を現します。
いろいろなタイプの不眠に対して、現代医学の睡眠剤も持続時間を長くするなどの工夫で対応しています。しかし、現代医学の睡眠薬は、最近は少なくなってきたとはいえ、使用しているうちに習慣性を持ってしまうことがあります。また、薬が効きすぎて、昼間も眠たい状態が続くことがしばしばあります。このような嗜眠状態のときにも、 酸棗仁湯は逆に正常に回復させるという効果があります。
酸棗仁湯は、睡眠の聖薬と呼ばれているほどで、きわめて安全に使用でき、習慣性も、効きすぎる心配もありません。薬が効くと、朝起きたときはさわやかな熟睡感とともに目覚めることができます。
酸棗仁湯の飲み方は、朝、夕方、寝る前の1日3回の服用が原則です。朝飲んだからといって眠くなる心配はありません。朝と夕方の服用で、全身の疲労を取り除き、そして寝る前の服用で心地よい入眠に導かれるわけです。
朝、夕方、寝る前の1日3回が原則ですが、寝る前だけに飲んでもかまいません。それでもじゅうぶんな効果が得られることがあります。
ただし、薬を飲んだからといって、現代薬のようにただちに眠けを催すとはかぎりません。中には、飲んで30分後か1時間後に眠れるという人もいます。しかし、これまで現代薬を飲んで、睡眠薬の習慣性がついているような人は、物取りなさを感じることがあります。
そんな人は、初めのうちは現代の睡眠薬と酸棗仁湯を併用し、そのうちに睡眠薬を1日おきにするというふうにへらしていき、最終的に酸棗仁湯だけにしていくのがいいでしょう。



● 漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

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