鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2002年3月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


三黄瀉心湯 (さんおうしゃしんとう)

脳卒中発作の予後と予防に効く名薬
 古代の中国で著されたといわれる漢方の古典『金匱要略』に「心気不足または不定(精神不安定のこと)で、血を吐いたり鼻血を出したりする人に効果を現す」と記されているのが三黄瀉心湯という処方です。
 これを現代的に解釈すると、赤ら顔でのぼせぎみで、気分が落ち着かず興奮状態にある人、となります。昔から脳卒中を起こした人、起こしそうな人にはこの処方が効果を示すといわれてきました。脳卒中の発作後の治療や、発作の予防に使用されていたのです。
 脳卒中とは、脳出血(脳の血管が破裂して起こる病気)や、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)のように、急激に脳の血管に病気が起こり、マヒやけいれんなど、舌のもつれ、手のしびれなどの神経症状や意識障害が伴ったものをいいます。脳出血や脳梗塞のほか、脳を取り囲んでいるクモ膜と脳の間に出血が起こるクモ膜下出血も含まれます。
 先ほど、脳卒中の発作のときに使用されたといいましたが、これは昔の使い方の話で、現代にこんなことをしてはいけません。もし、脳卒中の発作が起こったときは、ただちに現代医学の処置を受けてください。
   CT(コンピュータ断層撮影のことで、生体に種々の角度からX線を当て、輪切り状に三次元的に映像化する装置)やMRI(磁気共鳴映像法のことで、静磁場と変動磁場を用いて生体の断層撮影をする装置)などを使い、しっかりと検査してください。
 出血や梗塞が脳のどこで起こったのか、どのくらいの広がりで起こったのか、どんなタイプの発作なのかを見極め、迅速な処置を受ける必要があります。この段階では、まだ漢方の出番ではありません。。
 そうした処置をこうじて、呼吸管理や栄養管理を現代医学的に行い、症状がやや落ち着いたところで、漢方の出番となります。
 すなわち、発作後のアフターケアやリハビリテーション(機能回復訓練)などに、三黄瀉心湯が役立つのです。これが、脳卒中の発作後の使用法です。
 もう一つは、脳卒中を起こしそうな人が、予防的に使う方法です。三黄瀉心湯は脳卒中の予防にも確実な効果を発揮します。
 三黄瀉心湯は、
 大黄(だいおう・タデ科の多年草ダイオウの根茎)、
 黄連(おうれん・キンポウゲ科の多年草オウレンの根茎)、
 黄岑(おうごん・シソ科の多年草コガネバナの根)、
 という三つの生薬(漢方薬の原材料となる草根木皮)が二対一対一という割合で構成された処方です。処方名の「三黄瀉心湯」は、黄のつく三つの生薬から構成された、心熱を冷ます薬、という意味でしょう。。
    三つの生薬は、炎症をおさえる消炎作用、鎮静作用、充血をとる止血作用、便通をつける瀉下作用などがあります。

体力が充実した人の便秘にも効く
 この薬が的中するのは、基本的に体力の充実した実証タイプで、相撲取りのよう太った体格で、おなかにも力がある人です。また、みずおちの辺りを押すと膨らんでいて、つかえ感があって、顔やほお、鼻などに、細絡という細く赤い毛細血管が浮かび上がっているのが大きな特徴です。
 こういうタイプの人が脳卒中を起こした後、症状が落ち着いたとき、あるいは脳卒中を起こす心配があるときに、三黄瀉心湯を用います。すると、脳内での出血を止め、充血を取り去り、炎症をおさえる効果が期待できるというわけです。
 脳卒中の発作後の人は症状が安定し、症状や後遺症の改善などに効果が期待できます。予防的に使用した場合は、赤ら顔などもだんだんと改善し、発作を未然に予防する効果が期待できるでしょう。
 これが三黄瀉心湯の基本的な使用法ですが、それ以外にも非常に幅広い応用範囲を持っています。
 その主なものは、体力が充実した実証タイプの人の便秘です。そして、気分が落ち着かず、ノイローゼのような人、すぐに興奮しやすく、不安定、神経衰弱といった人にも用いられます。
 高血圧症で赤ら顔になっている人、めまい、耳鳴り、鼻血などよく出血する人にも使われます。打撲や二日酔い、歯痛の改善などに用いられることもあります。
 飲み続けていると、イライラや興奮が鎮められて落ち着いて、赤ら顔も解消し、高血圧も軽快していきます。さらに、三黄瀉心湯を長期間飲み続けても特に問題はありません。
 前述したように、この薬は実証タイプの人に合う薬で、体力が虚弱な虚証タイプの人は下痢をすることがあるので使わないほうがいいでしょう。
 それほど丈夫でなく、寒けがしたり、手がぶるぶると震えたりするような人には、体を温める作用のある附子(ぶし・キンポウゲ科の多年草トリカブトの塊根)を加えた附子瀉心湯(ぶししゃしんとう)がいいでしょう。
 中間証(実証と虚証の中間タイプ)から実証寄りであるけれども、それほど便秘が強くなく、似たような症状だけがあるという場合は、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が使用されることもあります。これは、大黄、黄連、黄岑から、下痢の原因になる大黄を取り除き、黄柏(おうばく・ミカン科の落葉高木キワダのコルク皮を除いた樹皮)と山梔子(さんしし・アカネ科の常緑低木クチナシの種)を加えた四種類の生薬からなります。
 中間証から虚証にかけての人には、釣藤散(ちょうとうさん)という手もあります。逆に、実証でひどい便秘の人は、三黄瀉心湯を用いても便秘が改善しにくい場合があります。そんなときは、大黄を増量して便通をつけます。三黄瀉心湯を錠剤にした三黄錠というタブレットもあります。

line

● 漢方治療は、その時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
当クリニックでは、経験豊富な漢方医があなたに合った治療を提案します。お気軽にご相談ください。



Copyright(C)昌平クリニック.記事の無断転載を禁じます