鍋谷院長のこの漢方薬が効く!

以下は健康雑誌「壮快」2002年6月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


猪苓湯(ちょれいとう) -尿路結石-

尿道の滑りをよくして口渇を解消
猪苓湯を構成する生薬(漢方薬を構成する草根木皮)は、次の五つです。
猪苓(ちょれい) ブナ、ナラ、モミジなどの根に寄生するサルノコシカケ科チョレイマイタケの菌核
茯苓(ぶくりょう) アカマツまたはクロマツの切り株の根の周りに生えるサルノコシカケ科のマツホドの菌体から外層を除いた菌核
沢瀉(たくしゃ) オモダカ科の多年草サジオモダカの根茎からヒゲ根を除いたもの
滑石(かっせき) ケイ酸塩を含んだ、白、淡緑、灰色などの絹糸状の光沢がある鉱物
阿膠(あきょう) 牛、馬、豚、羊などの動物の皮と骨からつくったニカワ質を加えたもの
これらのうち、なんといっても猪苓湯の主薬は、その名の示すとおり猪苓です。猪苓は下腹部の熱を冷まして、利尿効果を高め、さらにのぼせを解消する効果もあります。
滑石の主成分は含水ケイ酸アルミニウムで、名前のとおり、つるつるして滑りをよくする鉱物性の生薬です。尿道の滑りをよくし、尿の出の不調、尿量の減少、口の渇きを改善します。
阿膠は動物の皮や骨からつくられたニカワで、豊富なアミノ酸を含んでおり、出血を止め、造血作用(血液を増やす作用)があるなど、血に関する病気を改善する生薬です。阿膠はまた、精神不安定を解消する鎮静効果も併せ持っています。
実は猪苓湯は、先月号で紹介した五苓散(ごれいさん)と親せき、あるいは兄弟のような関係の漢方薬です。その関係は、何よりも処方を構成する生薬を見ると、よく理解できます。
五苓散は、猪苓茯苓沢瀉白朮(びゃくじゅつ・キク科の多年草オケラの根茎からヒゲ根を除いたもの。利尿作用を持つ)、桂枝(けいし・クスノキ科の常緑高木シナニッケイの枝の皮からコルク層を除いたもの。気を巡らす作用を持つ)という生薬から構成されていますが、先ほどの猪苓湯の生薬と見比べてみると、五苓散から白朮桂枝を抜き、滑石阿膠を加えたものが猪苓湯といえます。
つまり、利尿作用を持つ猪苓茯苓沢瀉は共通ですが、猪苓湯では、滑りをよくする滑石と、出血を止める阿膠を加えているのです。
五苓散猪苓湯も、水の流れが悪い水滞(水分の新陳代謝が悪い状態)を解消する有力な処方ですが、2つを比較すると、五苓散がむくみが強く、おう吐や頭痛がある症状に効くのに対し、猪苓湯は、阿膠が加えられているので止血作用が強く、血尿には非常に効果的です。さらに、滑石の働きで利尿作用がいちだんと強く、つるつると滑りがよくなるので、排尿時の痛みを解消する作用もあります。この漢方薬は尿路系のいろいろな病気、尿路結石などに卓効を示します。

痛むときだけ飲めばいい
尿路結石をくり返す患者さんには、猪苓湯を愛飲している人が少なくありません。腎臓でできた石がだんだんと大きくなり、その石が尿路を流れていくと、尿路の痛みが起こることがあります。血尿が出ることもあります。
そんなとき、猪苓湯を飲むと、尿の出がよくなり、阿膠の作用で血尿が止まり、滑石の作用でつるつると滑りがよくなるので痛みも解消して、石がスムーズに排出されることが多いのです。実際、排尿時にガーゼなどを使って尿をこすと、3〜4ミリ、ときには5ミリほどの石が出てきたという人もいます。
もちろん、猪苓湯が効果を現すのは尿路結石だけではありません。尿路系の痛みや炎症、血尿、発熱などの症状を伴う病気に応用されて効果を現します。膀胱炎、尿道炎で血尿や炎症、発熱、排尿時の不快感、残尿感などが伴うときです。それらの症状とともに、精神的に不安定で眠りにくいときにも効果を発揮します。膀胱炎でノイローゼぎみで、夜眠れないときにはとても適しています。
特に、尿路系に石ができているときは、猪苓湯だけを用いることもありますが、同時に体のけいれんを鎮める芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を併用することがあります。芍薬甘草湯は腹筋や腸などの緊張をほぐすので、特に結石の排出に役立ちます。猪苓湯だけで効果が思わしくないときは、芍薬甘草湯の併用も試してみてください。
結石が狭い尿路を通過するとき、痛みとともに出血が起こることもしばしばあります。その出血を補うために四物湯(しもつとう)という処方を併用することもあります。これは、貧血を改善する薬です。同じ目的で十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)を用いる場合もあります。
猪苓湯はなんの症状もないのに、いつまでも飲み続ける必要はありません。尿路系のなんらかの症状が現れたとき、頓服薬(鎮痛や解熱などのため、症状に応じて1回服用する分を1包してある薬剤)的に服用するだけでじゅうぶんな効果が期待できます。
例えば尿路結石に使う場合も、石が流れて出た後は、わざわざ飲み続けることはありません。再び症状が出てきたとき、飲み始めればいいでしょう。
私の友人の男性(74歳)は65歳ごろからときどき血尿と尿路の痛みに悩まされていましたが、腹部超音波で検査した結果、数個の小さい腎臓結石が発見され、1つは尿管に引っかかっていました。猪苓湯を服用すると症状が改善することがあると説明して、すぐに猪苓湯を飲み始めたところ、2週間ほどで痛みは解消したのです。超音波検査で見ると、腎臓結石はそのままでしたが、尿管の結石はまったく消えていました。石は流れ出ていったのでしょう。
その後は2年に1回くらいの割合で痛みが起こりますが、友人は猪苓湯が気に入って、そのたびに猪苓湯を飲んで、痛みを解消しています。
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