漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

【 潰瘍性大腸炎 】

以下は健康雑誌「安心」2002年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事です。


年血便を伴った下痢が続く潰瘍性大腸炎に抜群の効果を発揮した漢方治療

腸の炎症や粘血便に効く桃花湯と黄土
Nさん(40歳・女性)は、3年前の人間ドックで、潰瘍性大腸炎と診断を受けました。大腸内視鏡検査の結果、腸全体にびらん(ただれ)と浮腫(むくみ)が見られたそうです。
病院では、抗炎症剤のメサラジン(商品名『ペンタサ』、経口薬)と、ステロイド剤のプレドニゾロン(商品名『プレドニン』、経口薬)を処方してくれました。しかし、抗炎症剤を飲むと、吐きけや頭痛が起こるので、ステロイド剤だけを1日に40ミリグラム飲みました。
症状はよくなるどころか、少しずつ悪くなりました。当初は、下痢気味程度でしたが、しだいに1日5回の粘血便(粘液や血液のまじった便)が出るようになり、腹痛もひどくなったのです。真夜中でも便意を感じて目が覚めるので、熟睡することもできなくなりました。
体重も急激に3キロへりましたが、吐きけや頭痛が起こる抗炎症剤を飲む気にはなれません。そこで、昨年、漢方治療を希望して当クリニックを来院されたのです。
診察すると、みずおち部分がポチャポチャと振水音をたてる胃内停水という所見がありました。S状結腸のあたりには圧痛があり、潰瘍のひどい場所であることを示しています。
舌の縁はデコボコして歯痕という所見を示しており、白いコケ(舌苔)がついていました。これらは水滞という水分代謝(水はけ)の悪い状態を表しています。
Nさんには、桃花湯(とうかとう)黄土(おうど)啓脾湯(けいひとう)を飲んでもらうことにしました。収斂作用(患部の血管を収縮させて組織の乾燥を促し、痛みや腐敗を防ぐ働き)や止血作用を持つ桃花湯は、古典的な漢方の医学書である「傷寒論」に、下痢、便膿血のとき用いる薬として登場しています。
黄土(かまどの焼土)にも、出血やおう吐を止める作用があります。桃花湯黄土の組み合わせは、潰瘍性大腸炎にたいへんよく効くので、私は桃黄湯(とうおうとう)と名づけ、オリジナルの煎じ薬として処方しています。
啓脾湯は「脾を啓らく」という名前のとおり、消化器系の臓器に力をつける薬です。以上のような処方でNさんの排便回数はしだいにへり、便に形がつくようになりました。3週間後には1日1回、普通の便が出るまでに改善されたので、ステロイド剤を20グラムにへらしました。
さらに2週間後には、便に粘液や血がまじらなくなったので、1ヵ月強で止血に成功したことになります。下痢も完全に止まったので、は桃花湯とステロイド剤をやめ、は啓脾湯のみにしました。
その後も排便は朝1回、バナナ状のよい便で、3ヵ月後には体重も元に戻り、舌の状態もよくなりました。ただ、潰瘍性大腸炎は再発することが多いので、約半年から1年くらいはは啓脾湯は続けてもらっています。
桃花湯の服用の仕方にはコツがあります。朝起きたときと夜寝る前に飲むのです。は桃花湯に配合された赤石脂(しゃくせきし・酸化鉄を含む陶土)や黄土などの鉱物薬は、重みがあるので体内で下がっていき、潰瘍のあるところにへばりついて直接作用します。つまり、出血部分をコーティングするのですが、夜中など横になって腸が動いていないときに使用するのが効果的だからです。

漢方の専門医に相談すること
潰瘍性大腸炎は、血便や粘血便を伴う下痢が続き、よくなったり悪くなったりをくり返すことが多いものです。原因は免疫(病原体を打ち負かす働き)の異常ともいわれていますが、まだハッキリとしたことはわかっていません。若い人に比較的多く見られますが、中高年でも発症する人も少なくありません。患者数は近年増加しています。
私のクリニックにもこの1年間で、新しい患者さんが20人以上訪れました。いずれの患者さんも、西洋医学の治療でなかなかよくならない、再発をくり返している、薬の副作用に悩まされたという人たちばかりです。副作用というとステロイド剤を連想しがちですが、現在は必要がなくなったら投薬をやめることが徹底されており、ステロイド剤のトラブルは少なくなりました。
ではもう一例、潰瘍性大腸炎で長年苦しんできた人に漢方治療が著効だった例をご紹介しましょう。
Tさん(50歳・男性)は、37歳のときに潰瘍性大腸炎とわかり、10年間一進一退をくり返しつつ、腸のびらんと潰瘍、粘血便、腹痛といった症状に悩まされてきました。抗炎症剤とステロイド剤により治療を続けていましたが、下痢状の粘血便が1日5回も出るようになり、漢方治療を希望して来院されました。
診察すると、おなかの緊張、お血(血液の滞り)を示すヘソ回りの圧痛があり、水分と血液の循環が悪くなっていることがわかりました。舌のコケがところどころはがれて地図状を呈しているのも、水分代謝が悪い証拠です。
Tさんにはは桃花湯を処方しました。すると、3週間後に排便の回数が半減しました。抗炎症剤とステロイド剤はやめ、その後1ヵ月で便に形がつき、日に2回の排便、2ヵ月後には粘液や血のまじらない正常な便が、日に1〜2回だけ出るようになったのです。そこで桃花湯をやめ、啓脾湯に切り替えたところ、好調な状態を維持しています。
桃黄湯は一般に知られていませんが、温故知新の妙薬です。は桃黄湯を用いれば、通常2〜3ヵ月で潰瘍性大腸炎の出血や下痢を止めることができるという手ごたえは得ています。それでもむずかしい病気であることに違いはありません。一例だけ、症状の悪化をみた例もありました。
処方する漢方薬は、患者さんの体質や症状などによって異なるので、必ず漢方の専門医に相談してください。
なお、腸の病気の人は、下腹部や手足の冷えている人が少なくありません。おなかを冷やさないように注意し、手足の指先をもんだり、たたいたりして、血流をよくすることも心がけるとよいでしょう。

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