女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2003年11月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


骨粗鬆症 - 連載第7回 -
ホルモンの関係で男性より女性に多発
  骨粗鬆症(骨にスが入ったようになってもろくなる病気)は、閉経後の女性に多いことがよく知られています。。
  骨は体が成長した後も、形成と吸収を繰り返しています。一生を通して再生されているのです。しかし、閉経して女性ホルモンの分泌が低下すると、骨の吸収が進む一方、年を取ることによって骨の形成は低下します。
  骨の表面は、骨膜で覆われています。重要なのは、骨の外側の基質(緻密質)と呼ばれる部分で、支柱の役割をしています。基質の内側に骨髄があり、ここでは血液を作っています。
  基質部分は有機成分と無機成分から成っています。有機成分はコラーゲンなどのたんぱく質です。無機成分は骨塩で、健康な骨を保つために非常に重要です。
  ここでいう塩はミネラル類のことで、骨塩はカルシウムやリン酸、炭酸、クエン酸などから構成されています。中でもいちばん大事なものがカルシウムです。
  この骨塩の量が減少し、骨がもろくなるのが骨粗鬆症です。ですから、骨塩量(一般でいう骨密度)を測定すれば、骨粗鬆症がどの程度進んでいるかを調べられます。レントゲンでも測れますが、最近は超音波でも検査できるようになりました。
  骨塩量がへったからといって、すぐに症状が現れるわけではありませんが、進行すると骨折や腰痛を引き起こしやすくなったりします。それらの症状があって、骨塩量が一定レベル以下の場合に骨粗鬆症と診断されます。
  骨折や腰痛が起こりやすいのは、骨がもろくなって、変形するからです。全身には約200の骨がありますが、骨粗鬆症で最も骨折しやすいのは、またの付け根の骨である大腿骨の骨頭頸部です。また、腰骨も骨折しやすく、腰骨が骨折すると、腰や背中に痛みが起こります。
  先に、骨粗鬆症には閉経後のホルモン分泌の低下と加齢によるものがあると述べました。前者を閉経後骨粗鬆症(I型)、後者を老人性骨粗鬆症(II型)と呼んでいます。閉経後の女性はこの2つの原因がからみ合うため、同年代の男性に比べ骨粗鬆症になりやすいのです。
  このほか、骨粗鬆症には遺伝性のものもありますし、甲状腺の病気やリンパ腫、血液疾患、胃の切除、アルコール依存症などによって起こる2次性のものもあります。閉経と老化に、さらにこれら2次性の要因が加わると、いっそう骨粗鬆症になりやすくなります。

漢方薬で骨密度が上がった例も多い
  では、骨粗鬆症を予防・改善するにはどうすればいいのでしょうか。現代医学では骨粗鬆症の進行防止や改善に、女性ホルモン補充療法やカルシウム剤の摂取を勧めています。ただし、女性ホルモン補充療法には、副作用も指摘されています。
  そこで漢方の役割があります。漢方薬を服用すると、骨塩量の減少をくい止めるのに大いに役立ちます。
  漢方では、体質を実証と虚証に分けて考えます。一般的な解釈では、バイタリティがあり、がっしりした体つきの人が実証で、スタミナがなく、弱々しい体つきの人が虚証です。
  実証の人は骨組みも丈夫で、骨の形成も盛んです。一方、虚証の人は新陳代謝(体内での物質の入れ替わり現象)が活発でないため、骨の形成も盛んでないと考えられます。ですから、虚証の人ほど骨粗鬆症になりやすいといえます。
  骨粗鬆症に用いる代表的な漢方薬に八味丸(はちみがん)牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)があります。
  2つとも老化防止の漢方薬で、虚証の人に合っています。牛車腎気丸を服用して骨塩量が増加したという臨床データもあります。
  また、去勢したラット(実験用の大型ネズミ)の実験で、八味丸牛車腎気丸の投与で骨塩量の減少がおさえられたという報告もあります。
  虚証タイプで元気がない人には、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が適しています。骨塩量の減少を阻止したという臨床報告が、学会でたくさん発表されています。
  胃ガンなどが原因で胃を手術で全部取ると、胃を取っていない人に比べ圧倒的に骨粗鬆症になりやすくなります。そこで、胃を全部摘出したラットに補中益気湯を投与したところ、骨を形成する働きが強くなり、骨の吸収が抑制されて、骨粗鬆症になりにくくなったという報告もあります。
  虚証で足が冷える人には、温経湯(うんけいとう)当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)など血の巡りをよくする薬を用います。
  閉経前後に適しているのが、加味逍遥散(かみしょうようさん)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)です。2つともお血(血の滞った状態)に用いる薬で、骨粗鬆症の抑制に効果があったという臨床報告もあります。加味逍遥散は中間証(実証と虚証の中間)の人に、桂枝茯苓丸は実証の人に適した薬です。
  このほか、実際に骨折してしまった場合には、治打撲一方(じだぼくいっぽう)を用います。これは骨の形成を促し、痛みや腫れを引かせる働きがあります。

予防には日ごろの食事もたいせつ
  最後に、漢方薬で骨粗鬆症を改善させた例を紹介しましょう。72歳の女性のケースです。3年前に肺ガンで右の肺を切除し、その後、抗ガン剤を服用していました。私の治療を受けるようになり、虚証で冷え性があるので補中益気湯を服用してもらっていました。
  手術から2年後、背中の骨(脊髄)が痛むようになり、また、ぎっくり腰を起こしました。検査でガンの再発ではないことがわかったので、手術の影響による骨粗鬆症と考え、補中益気湯の服用量を以前の倍以上にふやしました。
  すると、間もなく、背中の痛みが取れ、ぎっくり腰も起こらなくなったのです。この女性の場合、もともと程度は軽く、骨塩量は年齢の平均よりもやや少ない程度で、骨粗鬆症の初期段階というレベルでした。
  現在も骨塩量はふえてはいないものの、へってきてもいません。補中益気湯の量をふやしてから現在まで1年以上たちますが、背中の痛みも腰痛も起こらなくなったことから、漢方薬が効いていると考えられます。
  前述したように、骨はたんぱく質とミネラル類で構成されています。骨粗鬆症を絶対に防げるという方法はありませんが、いろいろな食品を食べて、たんぱく質とミネラルをじゅうぶんに補給することが、予防の基本です。両方を豊富に含んでいる食品の代表が小魚です。
  また、女性は閉経期前後、そして2〜3年おきに、骨塩量を測定するとよいでしょう。もし骨塩量が急激に減少していたら、以上紹介した漢方薬の中から自分の証に合うものを選び、服用することをお勧めします。



漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

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