女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2003年12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


更年期障害 - 連載第8回 -
さまざまな症状が複合的に現れる
  女性の一生のうち、閉経をはさんだ数年間を更年期といいます。更年期には自律神経の失調に伴う不定愁訴が心身に現れることがあります。これを更年期障害と呼んでいます。
  自律神経とは、意志とは関係なく血管や内臓などを支配している神経をいいます。また、不定愁訴とは、器質的な病気(例えば、ガンや子宮筋腫、ポリープなど)がないのに現れる、機能上のさまざまな症状の総称です。
  器質的な変化はなく、機能的な異常で症状が現れるのが、更年期障害の特徴のひとつです。その原因については、主なものとして、閉経に伴って起こる、代表的な女性ホルモンであるエストロゲンの分泌の低下や欠乏が挙げられます。
  それに加えて、更年期という年代には、さまざまな事柄が要因として影響します。具体的には、肉体の老化、家族間の問題、社会での立場の変化、近隣との付き合いなどの人間関係(の悩み)、老後に対する不安などで、各人が持つ人生観や気質も関係します。
  更年期によるエストロゲンの低下は個人差があり、一挙に低下する人もいれば、徐々にへっていく人もいます。それによって症状の出方も当然変わってきます。また、女性ホルモン以外の要因の有無やその度合いも症状の発生や強さに影響します。
  症状は、およそ次の5つに分けられます。
  まず1つめが、血管運動神経の興奮によってもたらされる、ホットフラッシュ(ほてりやのぼせ)です。
  2つめは精神神経障害です。頭重感、頭痛、めまい、イライラ、不安感、不眠、うつ状態などです。
 3つめが知覚障害です。皮膚がカサカサしたり、蟻走感といって蟻が皮膚の上をはうような感じがしたり、手がしびれたりします。また、感覚が鈍くなって、暑さや寒さ、冷たさを感じにくくなります。
  4つめが運動神経障害です。肩こりや腰痛、関節痛などが起こります。
  5つめが泌尿器系の障害です。頻尿や膣の乾燥などが現れ、尿失禁が見られることもあります。
  以上のような症状がいくつも複合して起こるのが、更年期障害の特徴です。

ホルモンの補充だけで解決しない場合も
  前述したように、更年期障害はエストロゲンの分泌の低下や欠乏が主な原因で発症しますが、原因はそれだけではありません。西洋医学の治療のひとつにエストロゲンを補充する療法がありますが、これで治らない場合もあるのはそのためです。
  そこで漢方薬の出番です。漢方薬はホルモン分泌や自律神経の失調、精神的・心理的なことなど、更年期障害を総合的にカバーする作用があるからです。
  漢方では、更年期障害の症状を気(生命エネルギー)・血(血液)・水(水分)で説明できます。精神神経の障害は気の障害で、血管運動神経や知覚障害、運動神経の障害は血の障害、泌尿器系の障害は水の障害です。つまり、更年期障害は、気・血・水の不調和ととらえます。
  漢方の基本のひとつは、患者さんの証によって使用する薬を選択することにあります。実証(気・血・水が充実している状態)と虚証(気・血・水が不足している状態)、その中間証に分けられます。
  実証の人よりも虚証の人のほうが、気・血・水の変化に対して症状が強く出やすい傾向があります。
  証による差はありますが、更年期障害の第一選択薬が加味逍遥散(かみしょうようさん)です。中間証の薬ですが、冷えのぼせから頭痛、めまい、動悸、不眠、イライラ、うつ状態など、ほとんどの症状に対応できます。まずこの薬を一定期間使ってみて、効かないならほかの薬に変えます。
  また、実証の人によく用いるものに、柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)があります。動悸、不眠、イライラ、発汗、便秘などに適しています。
  実証でも、体力・症状ともに中等度の場合は、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)も使います。お血(おけつ・血の滞り状態)を改善する薬で、血を巡らせ、腰痛、肩こり、冷えにも効きます。
  のぼせやめまい、動悸、イライラ、頭痛などがある場合には女神散(にょしんさん)を、血圧が高く、便秘、イライラがある場合は三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)を用います。
  一方、虚証の人によく用いるものに桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)があります。これは、柴胡加竜骨牡蠣湯が適用になるのと同じ症状の虚証に用います。
  虚証で、腰痛、頭痛、冷えがある場合の漢方薬に五積散(ごしゃくさん)があります。特に冷えが強い場合は、温経湯(うんけいとう)が適しています。
  また、虚証で高齢、お血があり、冷えやめまい、動悸、腰痛などがある場合は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を用います。皮膚のカサカサ、のぼせ、不眠、イライラを伴う場合は温清飲(うんせいいん)を使います。中間証の薬ですが、実証や虚証の人でも、幅広く用いられます。

基本の漢方薬は加味逍遥散
  漢方の治療の目的は、虚や実といった片寄りを中庸に近づけることにあります。証を判断し、総合的に症状に適した漢方薬を選んで処方します。また、主な症状が改善してきたら、処方を変えることもあります。
  実際の患者さんの例を挙げて説明しましょう。患者さんは今年50歳になる虚証の女性です。46歳のときに生理が多少不順になってきて、手がほてる、発汗が多い、疲れやすいなどの症状が出てきました。
  発汗が多いため、加味逍遥散を基本にし、発汗を改善する目的で生薬(漢方薬を構成する天然の草根木皮)の黄耆(おうぎ)を加えました。それから4年間、漢方薬の服用を続けています。
  その間、胃の痛みや食欲不振、めまい、体力・気力の低下などの症状が、その時々で見られました。それらの症状に合わせて漢方薬を変えていきました。。
  例えば、一時、めまいがひどくなったときは、めまいに有効な真武湯(しんぶとう)を服用してもらいました。しかし、基本として加味逍遥散は変えず、最終的にはこれに人参養栄湯(にんじんようえいとう)を併用することで、体力・気力もつき、更年期障害もよい状態にコントロールされています。
  漢方薬は証に応じて選択するのが基本ですが、自分の証がわからない場合はまず、加味逍遥散を使ってみるとよいでしょう。

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