女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2003年5月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


漢方とは - 連載第1回 -

経験医学に基づくゆるぎがたい真理
  漢方の連載を始めるにあたって、今月号と来月号の2回に分けて、「漢方とはどういうものか」といった、漢方に関する基礎的なお話をしたいと思います。
  漢方は、中国で生まれました。その歴史は非常に古く、紀元前5000年くらいにさかのぼるといわれています。前漢の時代(紀元前202〜紀元8年)に、『黄帝内経』という中国最古の医書がまとめられています。
  この本は、黄帝という伝説上の帝王が、『論語』と同様に問答形式で、漢方の基本的な考え方である陰陽五行について語っています。
 ほぼ同じ時代に、『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)という、漢方の材料(生薬)に関する初めての本がまとめられています。
  この本は、神農というやはり伝説上の帝王が、身のまわりにある草木、昆虫、動物、鉱物を、片っ端からなめて体験し、毒がなくて、効果のある365種類の生薬を選んだものです。
  また、365の生薬は、上品(じょうほん)・中品(ちゅうほん)・下品(げほん)の3つに分類されています。上品は副作用がなく、主に不老長寿に役立つ生薬です。中品は養生的な薬で、体質を強くする生薬、下品は便秘や発熱などの症状に対症療法(そのときどきの症状に応じた治療法)として効果がある生薬です。
  後漢(紀元25〜220年)の時代、紀元200年ごろには、張仲景(ちょうちゅうけい)という人が、現在の漢方治療の原典ともいえる「傷寒論」(しょうかんろん)を著わしました。
  それらの書物が現在の漢方の基本となっていますが、漢方の最大の特徴は、経験医学であるということです。神農が自分の体験を基にしたように、漢方は長年の経験と実績を有する医学であるゆえ、そこにはゆるぎがたい真理があります。
  中国で誕生した漢方は中国あるいは朝鮮半島を経て、奈良・平安時代、仏教の伝来とともに日本へ伝わってきました。ちなみに、我が国では、古代出雲で医薬文化があったと伝えられています。
 中国伝来の漢方は、その後、先人の努力により、日本の風土・気候・日本人の体質に合わせて、独自に発達しました。そして、江戸時代に大きく発展して体系化され、明治以降は苦難の時代を経て、現在の日本の漢方へと継承されています。

五感を重視して診断・治療する
 現代医学は、病気の原因をつきつめることを重視し、発展してきた分析的な医学です。現在では遺伝子レベルの研究が進んでいます。
 一方、漢方は、患者の全身を診て、まず患者の苦痛を除くことが目的です。総合的な見方で健康や病気の状態をとらえ、それに対処するという方法で発達してきました。
 診断法も現代医学と漢方では異なります。漢方には、「望診」 「聞診」 「問診」 「切診」という4つの診断法があります。
 望診は顔色を見て、聞診は声を聞いて判断します。問診は質問をして、患者さんの訴えを聞きます。切診は脈を取る、おなかなどを触るといった方法です。つまり漢方では、五感に頼って診断するわけです。
  いずれも、体の外からの診断法ですが、こういった診断方法が発達した背景には、漢方の基礎が作られた当時、画像診断も血液検査も生化学検査も存在しなかったという事情があります。
 この五感に頼る漢方の診断法には独自の利点があります。ただし今日では、現代医学の診断法も参考にすべきで、それをしないことにとらわれるべきではないと思います。
 ところで、現代医学では、ややもすれが検査データを重視して、患者さんの体を診ないと、よくいわれます。かたや漢方は、舌を診たり、おなかを触ったりしますが、それは患者さんの「証」を決め、それにしたがって、処方(生薬と生薬の組み合わせ)を決めるためです。
  このことを「隋証治療」また「方証相対」といいます。証とは、外に出た症状のすべて(症候群)を整理し、まとめたものと定義されています。この証を正しくとらえることが漢方治療では非常に重要です(証については次回、詳しく説明します)。
  治療効果についても、漢方には現代医学では得られない、漢方ならではの効果があります。現代医学で治療が難しいといわれtる難病は60〜70ありますが、そのうちのいくつかは、漢方が予想外によく効く傾向があります。
  一例として、目の難病の網膜色素変性証は、進行すると失明する病気ですが、漢方薬によって進行を遅らせることができる場合があります。

漢方は女性の体質によく合う
 女性特有の病気に威力を発揮することも、漢方の大きな特徴です。
 たとえば冷え性は、現代医学の診断ではとらえようがない病気で、そのため現代医学の診断名に冷え性はありません。ところが、漢方では「お血(おけつ・滞っている血液)」の証ととらえ、それに応じて処方すると非常によく治ります。
 更年期障害は女性ホルモンの変化によって発症しますが、漢方薬によってお血を調整し、駆お血剤を服用することでよく治ります。生理不順や不妊症にも効果的な処方が何種類かあります。
 一般に、女性は男性に比べて慢性的な症状を抱えている人が多いものですが、慢性的な症状にも漢方薬は非常によく効きます。常習性の頭痛や便秘は、現代医学では治すことが意外に困難なのですが、漢方ならさほど難しくはありません。
 男性よりも女性の方が、漢方がよく合います。その理由は、女性のほうが男性より強くホルモンの影響を受けているからです。
 女性の体は、卵胞ホルモンや黄体ホルモンといった女性ホルモンの分泌とその働きによって女性である特徴が備わり、健康状態もコントロールされています。
 それら女性ホルモンの分泌が乱れ、ホルモン全体のバランスが崩れると、女性特有の症状や病気を引き起こすことがあります。
 それに対して、漢方で用いる生薬には女性ホルモンに作用し、ホルモンのバランスを整えるものが数多くあるのです。
 今日、女性特有の症状に悩まされている人がふえていますが、まず「漢方は女性に合う」ということを知っていただきたいと思います。次回は、証とはなにか、また一般の人が自分の証を見分けるポイント、さらに漢方薬との上手なつき合い方について解説します。



漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

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