女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2003年6月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


漢方の証とは - 連載第2回 -

漢方は不調和を調和させる
  女性は一般に、男性よりホルモンの影響を受けやすいといわれています。漢方にはホルモンのバランスを整えるものが数多くあることから、漢方は女性に合う治療法であると前回述べました。
  その漢方治療を行うのに重要なのが「証」です。今回は、証とはなにか、自分でできる証の見分け方、さらには漢方薬との上手なつき合い方などについて説明します。
  証とは、患者さんの自覚症状と客観的症状(他覚症状)のすべてをまとめて整理したもの、といえます。
 ですから、体のある特定の1ヵ所だけを診ても証は決められません。全身を診て、総合的にとらえます。
  ところで、漢方には、病態を把握するのに重要な「気(き)・血(けつ)・水(すい)」という因子があります。
  「気」は病気、元気といった言葉に使われていることからもわかるように、生命活動を維持する一種の体内エネルギーを指します。「血」は血液、「水」は水分です。
  漢方で証を判断するには、気・血・水が一つの指標になります。なかでも、大本は「気」です。
  漢方では、気を非常に重視します。形がなく、もちろん目に見えず、どこにあるのかわからないものですが、作用(働き)を持っているのが特徴です。
  一方、血と水は目に見える物質です。体を構成する物質を、漢方では血と水に分けたわけです。
  それらが充実しているか、あるいは不足しているかに二分し、患者さんがどちらに属しているかを判断します。
  例えば、気が強すぎると逆上し、ヒステリー状態になります。一方、気が少なすぎると、覇気がなく、ノイローゼぎみです。
  また、漢方では血が滞った状態を「お血(おけつ)」といい、多くの病気を招く原因とされています。
  気・血・水は、プラスに傾きすぎても、マイナスになりすぎても、病気を引き起こす元になります。
  みなさんは、虚証・実証という言葉を耳にしたことがありませんか。虚実はその人の気力体力の充実度をいい、気・血・水がすごく充実しているのが実(実証)、気・血・水が不足しているのが虚(虚証)です。
  虚実は、「八鋼」という漢方の指標の一部です。八鋼とは、陰陽、虚実、表裏、寒熱という、相反する4組の指標をいいます。
  虚実以外の六鋼を簡単に説明すると、陰陽は病気の進行度を指し(陰に傾くほど重篤)、表裏は病気が起こる場所(体表が表で内臓は裏)、寒熱は体の反応(熱が出るか出ないか)を見ます。
  以上の8つの指標について、患者さんの病気の状態がどの程度か、原因がどこにあるか、つまり患者さんの証を決めるのです。
  漢方治療は、この異常な状態にある証を中庸に戻すことが基本であり、原則なのです。つまり「不調和を調和させる」という概念です。
  漢方は、正確に証を診断し、それに合った薬を処方すれば、大きな判断ミスが起こることもなく、しかも治療効果が確実に得られます。
  たいせつなことは、現れた症状群の中で、なにがいちばん重要な症状であるかを見極めることです。これは非常に難しいことで、いい換えると、それを見極めることができる人が、漢方の名医というわけです。

虚証か実証かを見極めるポイント
  一般の人でも証を診断することは可能でしょうか。ここでは、八鋼の中でも見極めがたいせつな「虚実」の見分け方を、具体的にご紹介しましょう。
  実証か虚証かを見分けるポイントは、いくつかあります。
  まず第一に体格です。一般的に、見るからに頑健でたくましい人は実証で、一方、体格が貧弱で、骨格もほっそりしている人は虚証です。
  肋骨の形も目安になります。肋骨は、みずおちから左右へ、カーブしています。一般に、傾斜の角度が鋭いほど、つまり開き方が狭いほど虚証です。一方、角度が緩く、90度以上の開きがあれば実証です。
  また、いかつい肩は実証で、なで肩は虚証の傾向が、太く短い首は実証で、細く長い首は虚証の傾向があります。
  脈も判断の目安になります。脈が力強く感じられる人は実証で、弱々しい人は虚証です。
  声でも判断できます。一般に、効き取りにくいほど小さい声の人は虚証で、太くて大きな声の持ち主は実証です。
  症状からも判断はできます。一般に、カゼをひいても汗をかきにくい人は実証で、カゼをひいてすぐに汗をたくさんかく人は虚証です。胃腸が弱く、下痢をしやすい人は虚証、下痢をしにくい人は実証の傾向があります。

判断に迷うときは虚証の薬を使う
  一般の人が自分で証を判断することは、けっして最上の策ではありません。しかし、コツを習得しておけば、いざというときに役立ちます。それには、ふだんから漢方薬や薬草に関心を持つことがたいせつです。
  また親しい年輩の人がいれば、そういった人に日ごろから相談し、教えてもらうとよいでしょう。高齢の人ほど漢方的な治療の経験があるからです。
  実際に利用するにあたっては、漢方薬の適応や効果の欄をよく読むようにしてください。漢方薬には、例えば、「体力が中等度の人」などと適応が明記してありますが、これは虚実の中間ぐらいという意味です。実証か虚証かが判断できない場合は、まず、虚証の薬を使うのが基本です。そうすれば安全です。
  1週間以上、漢方薬の服用を続けても症状に変化が見られなかったり、悪化していったりした場合は、早めに医師の診断を受けるようにしなければなりません。
  服用期間については、症状が改善した後は、飲み続ける必要はありません。予防としての服用は、健康な人なら不要です。ただし、慢性的な病気を抱えている場合は、服用を続ける必要があります。
  先月号と今月号の2回にわたって、漢方について基本的な考え方や知識を紹介しました。次回からは、具体的な症状、病気を取り上げ、それに合った漢方療法をご紹介する予定です。



漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

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