女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2003年7月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


太れない悩み(虚弱体質) - 連載第3回 -

胃腸が非常に弱いので消化・吸収されない
  女性の多くは、もっとスリムになりたいと願っているようです。一方で、太りたいと思っているのに体質的に太れない人も案外多いようです。
  太れない体質とは、いわば虚弱体質といえますが、これはいったいっどういった体質なのでしょうか。西洋医学の見方には、肥満体質はあっても、虚弱体質ややせ体質はありません。
  西洋医学では、体質を形質・気質・素質の3つで分類します。形質は姿形としての肥満ややせ具合です。気質は気っ風がいいとか、ねちねちしているなどの精神的なものです。素質は、生まれつき体が丈夫、あるいは胃腸が弱いなどです。
  これらのうち、虚弱体質は素質の「生まれつき胃腸が弱い」にいちばん近いといえます。一般に、体質は遺伝子によってのみ先天的に決定されるように考えられがちですが、実際はそれだけでなく、後天的な環境や生活習慣によっても違ってきます。
  ところで、虚弱体質を総合的に定義するには、いくつかの条件があります。まず筆頭に挙げられるのが、先述したように胃腸が非常に弱いことです。
  胃腸の能力を大きく2つに分けると、消化する能力と吸収する能力があります。消化能力は、消化酵素や消化ホルモンを分泌させ、食べたものを分解して、吸収しやすい形にする力のことです。それを腸の表面から吸収し、体内に取り込む力が吸収能力です。
  どちらか一方の能力が弱いと、食べたものがきちんと吸収できずに、下痢しやすくなります。あるいは、排せつする働きが弱く、便秘になる傾向があります。胃腸が弱くて太れない人は、食べたものが早く便として出すぎて、栄養がじゅうぶん吸収できないために太れないのです。
  次に、呼吸器が弱いことが挙げられます。すぐにカゼをひいたり、熱を出したりします。3番目は、心臓血管系が弱いことです。顔が青白く、血の気も少なく、貧血になりやすい体質です。4番目が精神的に虚弱なことで、見るからに弱々しい感じがします。5番目が骨や筋肉が細く、筋骨薄弱なことです。
  以上のいくつかの条件が重なって、虚弱体質というものがつくられていると考えられます。

気力を整えることも太るための第一歩
  こうした虚弱体質の人を漢方(東洋医学)では総合的な概念として、「虚証」ととらえています。虚証とは、漢方でいう気(人体を流れる一種のエネルギー)・血(血液)・水(水分)が不足している状態をいいます。
  そして、消化器のどこに問題があるか、あるいは呼吸器が弱いのかなどを判断します。
  また、漢方の「虚」という概念は神経質な体質をも加味し、これを重視しているのが特徴です。漢方でいう気は気力をも表します。虚弱体質の人の中には、食べられないと思い込んでいる場合もあります。
  ですから、気力を整えることが大事です。漢方薬の服用で気力がつくと、実際に太ってくる人がいます。
  ただし、太るといっても適正な体重になるという意味で、漢方薬を取ると無制限に太り続けるということではありません。不調和を調和させるのが漢方薬です。
  虚弱体質の人には、まず、気力・体力を補う薬(補剤)を第一選択にしますが、その代表的なものに補中益気湯(ほちゅうえっきとう)があります。この漢方薬は次のような体質や症状が適応になります。
  (1)手足がだるい
  (2)言葉に力がない
  (3)目に力がない
  (4)口の中や口角に白いあぶくが出る
  (5)おいしいものを食べても味がわからない
  (6)冷たいものが飲めない
  (7)動悸がする
  (8)脈に力がない
  これらの傾向がある人に補中益気湯を投与すると、元気が出て、太れるようになってきます。
  ただし、気を補うだけでなく、胃腸などの各臓器の働きを高め、改善するための漢方薬も、体質や症状の特徴に合わせて選択して併用します。たとえば、六君子湯(りっくんしとう)はみずおちがつかえ、おなかのあたりでポチャポチャと音がし、食べたいと思っても食べられない人に用います。
  人参湯(にんじんとう)は下痢しやすく、口の中にツバがたまったように感じる人に、小建中湯(しょうけんちゅうとう)はおなかの皮が突っ張って痛む人に用います。また、顔色が悪く、手足の冷えが強い人には当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を投与します。
  それぞれ、特有の症状を改善し、胃腸などの働きを高め、食欲を増進するのを目的に投与するわけです。

長年の悩みの体質が59歳で変わった!
  実際に漢方薬を服用して、虚弱体質が改善し、適正な体重まで太れた患者さんの例を紹介しましょう。
  初診時の1997年6月当時、A子さん(女性)は59歳でした。本人の訴えによると、胃がもたれ、鈍くおなかが痛み、なにより食欲がまったくなく、下痢をしたかと思うと便秘もするといいます。そのため、身長が144cmで、体重は38kgと、たいへんやせていました。
  針灸やいろいろな薬を服用しても効果がなく、萎縮性胃炎とか過敏性腸症候群と診断されたこともあるそうです。
  おなかを診ると、みずおちのあたりでポチャポチャと音がして、動悸があり、へその周りを押すと痛みを訴えます。典型的な虚証でした。
  最初、六君子湯を投与しましたが、手足が冷えるというので当帰芍薬散も併せて服用することにしました。1ヵ月でおなかの痛みはだいぶ取れましたが、元気が出ないというので、補中益気湯を投与しました。
  この補中益気湯を服用するようになったところ、たいへん調子がよくなり、長年ふえることのなかった体重が2ヵ月後には40kgにふえ、下痢が止まり、疲労感がかなり消失したそうです。
  1998年の春には体重が42kgになりましたが、まだおなかがポチャポチャするというので、このときから補中益気湯六君子湯をブレンドして服用してもらいました。その後は順調で、翌年の春にはそれまでおなかの調子が悪いからと断り続けた国内旅行に出かけ、2000年には海外旅行をするまでになりました。土地のおいしいものも食べられたと喜んでおられました。
  時間はかかったものの、胃弱がすっかり解消し、食欲がわいてきて、2002年の11月には体重は44kgと、初診時より6kgも体重をふやすことができました。漢方薬の効用も大ですが、それによって気力がわいたこともよかったのでしょう。



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  必ず専門の医師にご相談ください。

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