女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2003年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


便秘と下痢 - 連載第4回 -

自分の証に合った漢方薬を選ぶこと
  排便の悩みは、なかなか人には言いにくいものです。女性の場合はなおさらでしょう。
  排便の異常は大きくは便秘と下痢に分けられ、さらには便秘と下痢を繰り返す「過敏性腸症候群」などがあります。漢方薬はこれら排便の異常にたいへん有効です。順を追って説明しましょう。
  いずれの場合も漢方薬は、実証・虚証などの証(自覚症状、他覚症状、体質などをまとめた漢方的診断)に応じて服用することが非常に重要です。漢方でいう気(一種の生命エネルギー)・血(けつ・血液)・水(水分)が体内に充実しているのが実証、気・血・水が不足しているのが虚証です。
  便秘の定義はあいまいですが、一般的には1回の便の量が少なく、しかも排便の回数が少ない場合をいいます。「回数が週2回以下で、1回の量が35g以下、しかも便が固い場合」と、厳密に定義する医師もいます。
  その状態が3週間以上続いた場合に常習便秘と診断されるようです。2〜3ヵ月以上、便秘が続く人も少なくなく、なかには1年以上という人もいます。
  便秘は器質性の便秘と機能性の便秘に大別されます。器質性便秘は、腸などの臓器にガンやポリープなどの特定の病気や形態の異常(癒着など)があるために起こるものです。機能性便秘は器質的な異常がないのに起こる便秘です。
  器質性便秘は、まず原因となる病気の治療が必要で、機能性便秘に比べても少数です。ここでは機能性便秘について、話をしましょう。
  機能性便秘は、腸の働きが低下し、腸がたるみきったような状態になるために起こる弛緩性便秘と、腸が異常に緊張してけいれんし、内容物を肛門へと送らなくなるために起こるけいれん性便秘に大別されます。
  両者を比べると、便の出方も違います。弛緩性便秘では、やや太めの便がでます。一方、けいれん性便秘の場合はウサギやヤギのふんのように小さく、コロコロしています。
  これらの常習便秘の代表的な漢方薬で、第一選択として用いるものに大黄甘草湯(だいおうかんぞうとう)があります。この漢方薬は生薬(漢方薬の原材料)の大黄甘草が配合されたもので、実証にも虚証にも幅広く使うことができます。
  実証が強い人には、大黄芒硝の入った漢方薬を用いると、より効果が高まります。
  例えば実証が非常に強く、肥満症でおなかが張っているタイプには、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)を、腹痛のある便秘には大承気湯(だいじょうきとう)調胃承気湯(ちょういじょうきとう)を用います。
  高齢者の便秘によく使う麻子仁丸(ましにんがん)順腸湯(じゅんちょうとう)は、中間証(実証と虚証の中間)から虚証に適しています。体内の水分が不足して便秘になった人の腸を潤し、穏やかに効きます。

下痢は体力の低下を招く
  一方、下痢は便秘の反対の概念ですが、医学的には、便の水分が80%以上あることと、排せつ量が200〜300gあることの2つの条件がそろうと、下痢と診断されます。排便の回数は関係ありません。その状態が3週間以上続くと慢性下痢です。
  ちなみに、下痢は手術で腸を切除した後にも起こり、細菌性の病気や潰瘍性大腸炎(粘血便で始まり、腹痛、下痢、発熱などが現れる原因不明の消化器疾患)などの炎症性の腸の病気によっても引き起こされます。
  慢性下痢は、実証の人にはそれほど多く見られません。下痢をすると体力が低下するため、必然的に中間証や虚証に傾くからです。
  中間証から実証の人の下痢に第一選択として用いられる漢方薬が半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)です。生姜瀉心湯(しょうきょうしゃしんとう)甘草瀉心湯(かんぞうしゃしんとう)を用いることもあります。
  これら瀉心湯類は、みずおちがつかえ、おなかが痛む下痢の場合に適しています。ゲップが強い場合は生姜瀉心湯が、また、そういう下痢がいっそう激しく10回、20回と続く場合は甘草瀉心湯の適用になります。
  以上とは別に、のどが渇いて水溶性の便が出る胃腸カタルには五苓散(ごれいさん)柴苓湯(さいれいとう)がよく使われます。また、冷え性で手足が冷え、ふだんから胃腸が弱い人で下痢が続いた場合は真武湯(しんぶとう)を用います。虚証が強く、下痢の状態もひどい場合は四逆湯(しぎゃくとう)茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)も使います。

下痢と便秘を繰り返す過敏性腸症候群
  最近ふえてきた過敏性腸症候群は、ガンやポリープなどの器質的異常がないのに下痢と便秘を繰り返す、腹痛が起こる、不安・不眠などの精神症状を伴うという3つの特徴があります。一般的には、下痢が主症状の場合が多く見られます。
  緊張すると自律神経(意志とは無関係に内臓などを支配し、その働きを調節する神経)が失調し、頻繁に便意を催します。これには腸の血液循環不良も関係しているので、漢方では自律神経の安定を目的とする処方と同時に、血行を改善する処方を合わせて行います。
  第一選択の漢方薬に、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)があります。便秘が主症状の場合は桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)を用います。また、下痢や便秘が主症状でおなかの痛みが強い場合は大建中湯(だいけんちゅうとう)中建中湯(ちゅうけんちゅうとう)小建中湯(しょうけんちゅうとう)などの建中湯類をよく使用します。
  このほか、更年期の女性で神経症的な傾向のある過敏性腸症候群には加味逍遙散(かみしょうようさん)を使います。
  最後に、過敏性腸症候群が漢方薬の服用によって改善した患者さんの例を紹介しましょう。
  69歳の女性で、粘液性の水様便が1日に6回も出ることがあり、病院で大腸ファイバースコープ(体内を直接見る医療機器の一つ)の検査を受けた結果、過敏性腸症候群と診断されました。
  診察すると、みずおち周辺に動悸があり、おなかにお血(おけつ・血が滞った状態)の反応が見られ、下腹が緩んでフニャフニャしています。
  桂枝加芍薬湯を処方したところ、下痢の回数はへったものの完全には治まらないため、甘草瀉心湯を追加しました。不眠もあったため、不眠に効く酸棗仁湯(さんそうにんとう)も加えました。すると2〜3ヵ月後には下痢が1日2回になり、粘液もへってきました。
  しかし、朝起きたときに食欲がないと言うので、桂枝加芍薬湯と気を補う補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を半々にしました。この結果、体力がついて元気がよみがえり、食欲もわいてきました。
  こうして約1年たったころには、下痢はほぼ解消しました。病院で検査を受けた結果も、過敏性腸症候群がずいぶん改善しているとのことでした。



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