漢方掲載記事−昌平クリニック院長・鍋谷欣市−

【 潰瘍性大腸炎 】

以下は健康雑誌「安心」2003年8月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された 記事です。


潰瘍性大腸炎による腸からの出血を強力に止めて治癒に導く特効薬「桃黄湯」
1日8回の粘血便が7ヵ月後に正常化
Kさん(65歳・女性)は、平成12年に粘血便が出て潰瘍性大腸炎と診断され、3ヵ月間入院しました。粘血便とは、はがれた腸の粘膜や、血液のまじった便のことです。
腸全体に潰瘍があったそうですが、ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤のプレドニンと、抗炎症剤のペンタサを使った治療を受けて、一応症状が落ち着きました。
しかし、1年後の平成13年9月に症状が再燃。1日に7〜8回もの粘血便が出るようになって、10月に当クリニックを訪れたのです。
当時Kさんは、身長が153センチで体重が体重は40キロ。血液中のヘモグロビン(血色素)の量は9.8g/dl(基準値は女性の場合、11.3〜15.2g/dl)で、貧血状態でした。
Kさんには桃黄湯(とうおうとう)啓脾湯(けいひとう)を飲んでもらいました。すると、2週間で出血が止まり、便に血がまじらなくなりました。
2ヵ月後には便に形ができてきて、排便回数も1日2回にへりました。5ヵ月後には、軟便ながらも正常な便に回復。7ヵ月後には便は完全に正常化し、排便回数も1日1回になったのです。
便潜血(見た目にはわからない、便にまじる微量な出血)もなくなったので、桃黄湯はやめて啓脾湯だけを続けてもらいました。その後も経過は順調で、約1年後には、体重は、45.6キロに、ヘモグロビン量は11.4g/dlに回復しています。
潰瘍性大腸炎は、血便や粘血便を伴う下痢が続く病気です。排便回数がふえるのも特徴的で、はなはだしいケースでは、1日に20回以上排便があることもあります。
そして、この病気のいちばんやっかいなところは、治ったように見えても、再燃をくり返すことが多いことです。
原因は、免疫(身体の防御機能)の異常や、体質的なものなど、いろいろなことがいわれていますが、ハッキリしたことは、まだわかっていません。
ただ、受験や就職、結婚などがきっかけで発病することも多いので、ストレスが影響していることは確かです。受験生の患者で、合格したとたん、治るケースもあるくらいです。
西洋医学では冒頭でご紹介した症例のように、ステロイド剤や抗炎症剤の使用が、治療の主流です。最近では、免疫抑制剤(免疫反応を減少させる薬)の使用や、過剰にふえた白血球を取り除いて症状を抑える治療法も行われています。
潰瘍性大腸炎は中高年者にも発症しますが、20〜30代の若い人に比較的多く見られる病気で、ここ数年急増しています。働き盛りに症状の再燃をくり返すことになるのも、この病気のつらいところです。
西洋医学の治療でなかなかよくならない、再燃をくり返す、といった人も少なくありません。漢方治療を希望する人のなかには、そういうケースがたくさんあります。

使用した8割以上に効果があった桃黄湯
私は先日開催された第54回日本東洋医学会で、独自の漢方処方が潰瘍性大腸炎の治療に良好な成果をあげていることを報告しました。その反響は、非常に大きなものでした。ここで、その内容をご紹介しましょう。
私は、平成13年1月から平成14年9月の間に、潰瘍性大腸炎の患者さんを92例、治療しました。このうち、血便の明らかな63例に処方したのが、桃花湯(とうかとう)黄土湯変方(おうどとうへんぼう)(一部分)を合わせた、桃黄湯という煎じ薬です。
私は以前、潰瘍性大腸炎の治療に桃花湯大桃花湯(だいとうかとう)を使っていました。桃花湯は昔、赤痢や疫痢の治療に使われていた、下痢や粘血便を止める効果がある薬です。桃花湯で出血を止め、柴苓湯(さいれいとう)啓脾湯で排便回数を調整していくと、意外にすんなり症状が改善するのです。
予想以上の成果に、手ごたえを感じていたのですが、あるとき桃花湯に、婦人科疾患や吐血のときなどの血止めに使う黄土湯変方を加えてみたら、さらによい結果が出たのです。
  それで、この2つを組み合わせて、桃黄湯(とうおうとう)と名づけました。
今回の桃黄湯の治療例は、男性28例、女性35例。年齢は、20〜30代が過半数を占めています。効果は、著効(1〜2ヵ月で改善)、有効(数ヵ月で改善)、不変(一進一退)、悪化の4つに分けて判定しました。
結果は、著効が9例で14.3%、有効が43例で68.3%、不変が10例で、15.8%、悪化が1例で1.6%でした。著効と有効を合わせると、82.6%、なんと8割以上もの例に効果があったのです。
ただし、潰瘍性大腸炎はくり返すことが多い病気です。なかには悪化し、これだけで治りきらない例もあります。また、ステロイド剤、サラゾピリンやペンタサと併用することもあり、今後の検討課題といえます。
  今回の例も、2〜3年は経過を見ないと「完治した」とはいいきれません。それでも、いままでの経験から、早めに漢方治療を始めた人ほど早くよくなって、再発もしにくいという手ごたえは得ています。
桃黄湯の大きな特徴は、赤石脂黄土という2つの鉱物が配合されていることです。
赤石脂は、かまどの焚き口の内側の赤く焼けた部分の土です。主成分の硅酸アルミニウムには、腸内の異常な発酵物や炎症からの滲出物を吸着して腸の粘膜を保護し、下痢を止める効果があります。血液中のナトリウムとくっついて過剰な酸を抑制し、出血を防止する効果もあります。これが、活性酸素(細胞を攻撃する不安定な酸素分子)を抑制するのではないかと考えています。
黄土は、同じかまどの土でも黄色く焼けた土です。成分は硅酸や酸化カルシウムなどで、止血に効果があります。漢方医学の古典である『金匱要略』に「遠血には黄土湯」とあるように、遠血、すなわち先に便があり、その後に出血するものに効果があります。
要するに、桃黄湯には赤石脂黄土、ダブルの止血効果があるので、強力に潰瘍性大腸炎の出血を止めてくれるのです。
桃黄湯の効果を最大限に引き出すには、飲み方も重要です。食前や食後ではなく、朝起きたときと夜寝る前に飲むのです。
潰瘍は夜中に進行すると考えられています。そこで、寝る前に桃黄湯を飲み、赤石脂黄土で潰瘍のできた腸壁を保護し、潰瘍が進行するのを防ぎます。いわば、腸壁を鉱物でコーティングして守るというわけです。
こうして、まず腸内の出血を止めます。出血が止まったら、その時点で桃黄湯の服用は終わりにします。あとは、柴苓湯啓脾湯で、便の回数をコントロールすれば、潰瘍性大腸炎はどんどん改善していきます。
ただし、桃黄湯はオリジナルの処方なので、一般の医院にはありません。漢方薬は患者さんの体質や症状によって処方が異なります。効果的で安全に用いるためには、漢方の専門医に相談することが必要です。
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