女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2003年9月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


頭痛 - 連載第5回 -

頭痛の裏に大病が潜んでいる可能性も
  頭痛は誰にでも起こりうる、一般的な症状です。痛みは非常につらい症状で、安易に頭痛薬を飲んで解消しようとしがちですが、その裏に落とし穴があることもあります。
  というのも、重大な病気が潜んでいて、その症状のひとつとして頭痛が現れる場合があるからです。
  ガンの脳転移や緑内障(眼圧と視神経のバランスがくずれて視神経に障害が起こる病気)、高血圧、さらに脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)といった脳の病気などでも頭痛は起こります。
  これらは症状と原因の因果関係がある、器質性の頭痛です。
  それに対し、身体に特定の病気がないのに起こる機能性頭痛を、慢性頭痛や習慣性頭痛、常習性頭痛と呼んでいます一般に頭痛というと、こちらの頭痛を指します。
  機能性頭痛は、いくつかのタイプに分けられます。
  ひとつは片頭痛で、名前のとおり、通常、頭の片側が痛みます。血管性頭痛ともいわれ、脳の血管が拡張・充血するのに伴って起こります。
  ズキズキ・ドキドキと拍動性の痛みを伴うのが特徴です。激しい痛みが、発作的に起こることもあります。
  頭が割れるような痛みが、長い人では数日間続き、反復して起こることもあります。痛みのピークには吐き気がしたり、実際に吐いたりすることもあります。
  寒さや精神的ストレスなど、なんらかの刺激が脳へ加わることによって発症すると考えられていますが、脳のどこに問題が生じて頭痛が起こるのかはわかっていません。
  機能性頭痛のもうひとつのタイプに、筋緊張性頭痛があります。これは後頭部や肩などの筋肉が緊張・収縮することによって起こるものです。多くの場合、痛みは軽く、頭にきつい帽子をかぶせられた不快感や頭が締めつけられるような鈍い痛みを訴えます。
  筋緊張性頭痛は、ストレスで起こることがしばしばです。筋肉の過度の緊張のため、後頭部から肩にかけて筋肉のこりを伴うこともあり、肩こりともつながっています。
  機能性頭痛は、大きくは以上の2つに分けられますが、両者が混合したタイプも見られます。
  さらにもうひとつ、20〜30代の男性に多く見られ、片方の目の奥が圧迫されるように痛み、前頭部から側頭部へと痛みが広がっていく群発頭痛などがあります。1時間程度で治まりますが、慢性的に起こります。

気・血・水の巡りをよくする物を選択
  これらの頭痛に対し、西洋医学では、対症療法的にそのときどきの症状に応じて、血管を収縮させる薬や筋肉を弛緩させる薬を用います。
  一方漢方では、頭痛の発症は、気(き)・血(けつ)・水(すい)の不調和が密接に関係しているとみなします。
  漢方では、気(一種の生命エネルギー)・血(血液)・水(水分)の循環を重視し、これらが順調に巡ることで健康が保たれると考えます。
  筋肉や血管の緊張は、特に気の巡りのよしあしによってずいぶんと違います。
  以上のことから、気をはじめとする血・水の循環をよくすることが頭痛の治療の原則です。気には気剤、血には駆お血剤、水には利水剤を用います。
  これらの薬を選択する際、患者の証が重要になります。証(自覚症状、他覚症状、体質などをまとめた漢方的診断)は、体が頑健なタイプの実証と虚弱なタイプの虚証に分けられ、その中間の中間証もあります。頭痛を訴える人の大半は中間証から虚証で、男性よりも女性に多いのが特徴です。
  それでは、各証の人に合った漢方薬をご紹介しましょう。
  実証の人の頭痛に用いる代表的な漢方薬に葛根湯(かっこんとう)があります。実証の人の頭痛は、発汗の傾向が少なく、しばしば肩こりを伴います。葛根湯は気・血の巡りをよくして、頭痛、肩こりをともに解消します。
  中間証に用いる代表的な漢方薬に五苓散(ごれいさん)があります。これは水を巡らす利水剤で、発汗や口の渇きを伴った頭痛によい処方です。同じ利水剤に苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)があります。これはのぼせや動悸、めまいを伴う場合に用います。また、精神的に不安定で血圧が高い場合は、釣藤散(ちょうとうさん)を用います。
  虚証に用いる代表的な漢方薬が桂枝人参湯(けいしにんじんとう)です。これは、下痢症によく用いられる人参湯(にんじんとう)に、桂枝(クスノキ科の肉桂の根皮)を加えたものです。発汗傾向やのぼせがあり、手足の冷え、だるさ、下痢傾向を伴う人の慢性頭痛によく効きます。
  生まれつき虚弱で胃腸が弱くて食欲もなく、疲れやすくて手足が冷えるタイプには半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)を用います。同様のものに呉茱萸湯(ごしゅゆとう)がありますが、めまいがある場合は半夏白朮天麻湯が、吐き気がある場合は呉茱萸湯が適しています。

頭痛に伴う諸症状もいっしょによくなる
  このように、その人の証に加え、どのような症状を伴っているか、つまり随伴症状によって、選択する漢方薬が絞られてきます。
  漢方薬の選択が適切であれば、長くても1〜2週間で確実に頭痛が改善し、随伴症状も取れてきます。漢方薬ならではの妙味で、逆にいうと、随伴症状が取れないと頭痛も取れないわけです。
  もし2週間服用して効きめがまったくない場合は、ほかの病気を疑うことも必要です。
  最後に、慢性の頭痛が漢方薬で劇的に改善した例をご紹介しましょう。
  45歳の女性で、以前から、ときどき片頭痛がありました。もともと網膜色素変性症(眼球の内側を覆う網膜に色素沈着が起こり視野が狭くなる病気)で受診し、漢方薬を服用していました。柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の2種類です。この組み合わせは網膜色素変性症の改善に最もよく用いられます。
  ストレスもあったのでしょうが、カゼをひいた後、頭痛がひどくなってきて、今年1月28日に頭痛を訴えて来院しました。診断すると、脈はしっかりしていますが、手足がかなり冷えています。もともとは中間証ですが、虚証寄りになっています。
  問診をすると、胃腸が多少弱めで、たまに下痢をするといいます。腹診でへその周りにお血の症状も認められました。
  そこで、網膜色素変性症の治療に以前から服用している柴胡桂枝湯桂枝人参湯に代え、1日に朝晩の2回、桂枝茯苓丸は以前同様、昼に1回服用してもらいました。
  先に説明したように、桂枝人参湯は、冷え性で下痢傾向を伴う頭痛に適しています。お血を取り、血の巡りをよくする処方です。
  桂枝人参湯を飲み始めて1ヵ月後には頭が非常に軽く感じられ、頭痛がほぼ取れたそうです。ちなみに、頭痛が治った後は、桂枝人参湯から元の柴胡桂枝湯に戻しています。



漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

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