女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年1月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


月経困難症と生理不順 - 連載第9回 -

生理は環境の影響を受けやすい
  生理(月経)のときは普通、多少の下腹部痛は生じるものです。しかし、痛みが極端に強かったり、ほかの症状を伴ったりして日常生活や社会生活に支障をきたすような場合は、月経困難症と診断されます。
  生理が始まる1日前、または当日から生理期間中に下腹部痛やさまざまな不快症状が起こります。妊娠・出産年齢にある女性の10%に見られるといわれています。
  下腹部痛のほかに、吐きけ、嘔吐、頭痛、胃痛などの症状が見られます。重症になると、うつなどの精神症状、神経症状、消化器症状(下痢や便秘)も起こります。
  月経困難症は、原因によって大きくは2つに分けられます。
  1つは、検査をしても子宮や卵巣などの生殖に関係する臓器に異常がない場合です。これを機能性月経困難症といいます。
  もう1つは、発育不全による子宮の奇形があったり、子宮筋腫や子宮内膜症、卵管炎、クラミジアの感染といった子宮や卵巣の病気がある場合です。これを器質性月経困難症と呼んでいます。
  前者の場合、特定の原因がありません。生理が始まって2〜3年以内の思春期に見られることが多く、大人になって妊娠・出産すると、自然に解消するケースもよくあります。
 後者は20歳以降に多く見られます。当然、原因となっている病気を治さないと、月経困難症も改善しません。
  また生理にからむトラブルに生理不順があります。月経困難症に合併して起こることがよくあります。
  生理の周期は通常28日です。これに+−5日で25〜33日以内なら正常で、それよりも短かったり長かったりすると、生理不順と診断されます。生理の出血量が多すぎたり、少なすぎたりする場合もこれに該当します。
  生理不順は、器質性月経困難症と同様、子宮や卵巣の発育不全や子宮内膜症などの病気が原因のこともあります。また、生理は環境の影響を受けやすいため、寒さなどの気候、家庭や職場での人間関係などのトラブル、大手術、栄養不良などが原因となることもあります。
以上のような女性の生理に伴うトラブルや症状に対して、漢方薬はよく効きます。

血液や気の流れを促すのがポイント
  漢方では、月経困難症は血滞(血液の滞り。お血)が原因で、気滞(一種の生命エネルギーでもある「気」の流れの滞り。気うつ)も関係していると考えます。おなかを押してみると、へその周りに軽い痛みがあり、お血点(圧痛点)が認められます。
  一方、生理不順は特にお血が関係していて、下腹部のお血点が顕著なケースがよくあります。
  漢方では、人間の体質をバイタリティがありがっしりした体つきの「実証」と、スタミナがなく弱々しい体つきの「虚証」に分類します。
  実証の人の月経困難症では便秘が多く、のぼせ、肩こりなどを合併します。虚証の人の場合は冷え性が多く、下腹部や下半身に冷えを訴え、顔色も悪い傾向があり、貧血、めまい、動悸などを伴うことがあります。
  月経困難症は実証と虚証の真ん中の中間証の人に多く見られます。生理不順は実証の人に多く見られます。
  漢方では、月経困難症や生理不順に対して、お血を取る駆お血剤を中心に、気うつを取る気剤を合わせて用いるのが一般的です。代表的なものが桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)です。
  桂枝茯苓丸は実証に用いるお血の薬です。生理時に下腹部に痛みがあり、へそのやや斜め下(多くの場合、左斜め下)にお血点が見られ、のぼせ、肩こり、腰痛などがある場合に用います。
  桂枝茯苓丸よりも実証が強い場合に用いるものに桃核承気湯(とうかくじょうきとう)があります。へその左斜め下にお血点があり、のぼせが強く、顔も赤みがかっていて、便秘が強く、肩こりもある場合に適用です。実証で、盲腸のあたりにお血点がある場合は、大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)を用いることもあります。
  当帰芍薬散は虚証に用いるお血の薬です。へその左右斜め下にお血点があり、生理時に手足の冷えが強く、顔色も悪く、腹痛、腰痛、動悸、めまいなどを伴う場合に適しています。
  当帰芍薬散と同様の薬に温経湯(うんけいとう)があります。これは下腹部にお血点があって下腹部や腰に冷えもあり、皮膚がやや荒れている場合に用います。特殊なケースとして、あまりにも出血が多く、貧血気味の虚証には、出血を止める薬のきゅう帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)を用います。
  中間証で、イライラ、気うつなどの精神症状があり、冷えが伴う場合には、気剤の加味逍遥散(かみしょうようさん)が適しています。

わずか服用1ヵ月で生理痛が大幅に軽減
  最後に、月経困難症で生理不順もあった24歳の女性のケースを紹介しましょう。初診は昨年の5月です。生理の直前から腹痛、腰痛、頭痛などの痛みに襲われました。冷え性で、生理のときには便秘にも悩まされ、出血量も多めとのことでした。
  以前から生理の周期が一定せず、1ヵ月以上たっても生理が来ないこともありました。
  一見したところ実証ですが、こめかみや目の奥が痛い、肩や首の後ろがこる、立ちくらみがするなど、虚証の症状も見られました。
  腹診の結果、へその右斜め下に強いお血点が見られ、左斜め下にも少しお血点が認められました。舌を診察すると、舌の端に歯痕(歯型)がついていることから、水(水分)が滞っている状態にあることもわかりました。
  そこで、まず桂枝茯苓丸を処方し、生理の期間中のみ、痛みに即効性のある芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)を併せて服用してもらうことにしました。
  すると、1ヵ月後には、痛みはだいぶ軽くなってきました。8月末には、頭痛もかなり取れ、生理痛も生理の1日目だけになりました。特に疲れがひどいときには、やる気を出す補中益気湯(ほちゅうえっきとう)を飲むように指導しました。
  こうして順調に改善して、今年2月ごろからは生理の痛みはほとんどなくなったのです。

line

● 漢方治療はその時のその人に合った薬を微調整するオーダーメイド処方です。
  必ず専門の医師にご相談ください。

このページのトップへ
Copyright(C)昌平クリニック. 記事の無断転載を禁じます