女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年10月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


胃痛 - 連載第18回 -

西洋薬の胃薬は長期使用を避ける
  みずおちに痛みが現れると、「胃が痛い」とよくいいます。しかし、みずおちに胃があることはまれで、ほとんどの人が胃下垂のため、へそより下に胃がきてしまっているのです。
  ですから、みずおちの辺りの痛みを、医療の現場では「胃部痛」「上腹部痛」などと呼んでいます。ただ、ここでは一般的にいわれているとおりに、「胃痛」として説明しましょう。
  胃痛にはいくつかの段階があります。
  最も痛みがひどい段階として、七転八倒するような、キリキリする激しい痛みが続く疝痛があります。
  みずおちが激しく痛むなら、胃潰瘍が急激に進行して胃に穴が開き、腹膜炎を起こしている疑いがあります(腹膜炎は、内臓が入っている場所である腹腔の内部に炎症が起こった状態)。また、急性の膵炎で、膵臓の一部が壊死した可能性も考えられます。
  上腹部の少し右側が痛むときは、胆石の発作の疑いが濃厚です(胆石は脂肪の消化を促す胆汁が、胆のう内で固体化し、石状になること)。
  疝痛ほどではないけれど、激痛がときどき起こる場合は、たいてい胃潰瘍や十二指腸潰瘍ができています。胃潰瘍の場合は食べ物を取ったときに、十二指腸潰瘍では空腹のときに痛むことが多いものです。
  鈍痛は、なんとなく、シクシクとみずおちが痛む場合を指しています。多くは、胃の粘膜が炎症を起こしている、びらん性胃炎です。びらん性胃炎では、痛みは軽く、膨満感のほうが強いことがあります。また、暴飲暴食で起こる急性の痛みが、慢性化することもあります。
  痛みが軽いからといって、ほうっておいてはいけません。胃ガンの初期でも、胃部に鈍い痛みが起きるからです。
  それに、発症数は少ないのですが、腹部大動脈瘤でも胃痛がときどき起こり、それが長期的に続きます(腹部大動脈瘤とは、最も太い動脈である腹部大動脈の一部がしだいに膨らんで、こぶができた状態)。
  腸間膜(腹腔内の腸管を保持している膜)の血管の血栓症でも、上腹部から腹部全体が痛み、吐き気がして、吐くこともあります。
  このように胃痛はさまざまな病気が原因で起こるので、痛みが軽くても病院で検査を受けた方がいいでしょう。
  以上に挙げた胃痛の中で日常的に多いのは、ときどき起こる鈍い痛みで、びらん性胃炎や慢性胃炎、軽度の胃潰瘍・十二指腸潰瘍です。
  こうした胃痛に対して、西洋医学では、酸の分泌をおさえる薬が使われていますが、使用期間を制限しています。
  また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍の原因とされるヘリコバクター・ピロリを除菌する治療が近年認められましたが、腸に住む有用な菌も殺し、免疫(病原体などから体を守るしくみ)に悪影響を与える可能性があり、今後に課題が残されています。

併発した症状で漢方薬を使い分ける
  日常的に起こりやすい胃の痛みや不快な症状に対して、漢方薬がよく効きます。
  漢方では、体力が強い実証、体力が弱い虚証、それらの中間証に大別します。それぞれの証によって、用いる漢方薬が異なります。
  体力が強い実証の胃痛には、みずおちを中心に痛みとつかえた感じがあり、便秘がちになるという特徴があります。このタイプには、大柴胡湯 (だいさいことう)、あるいは桃核承気湯(とうかくじょうきとう)をよく用います。どちらも、胃腸の中の余分な水分などを排出させる薬です。
  中間証から虚証の人に用いる代表的な漢方薬が、平胃散 (へいいさん)です。気(一種の生命エネルギー)の巡りをよくする薬で、胃の調子を穏やかにします。多少下痢をしていて、胃の辺りがシクシク痛み、ゲップや胸焼けがしてスッキリしないときに適しています。
  半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は、平胃散と同じような作用を持っています。中間証から虚証で、胃痛や吐き気、胸焼けがして、おなかがゴロゴロしてガスがたまり、少し下痢をする場合に処方する漢方薬です。
  そのほか、胃部の不快症状に用いる漢方薬に、生姜瀉心(しょうきょうしゃしんとう)甘草瀉心(かんぞうしゃしんとう)があります。生姜瀉心湯は、胃から酸っぱい液体が上がってきて、胸焼けや吐き気がする場合に、甘草瀉心湯は下痢が少しひどい場合に用います。
  みずおちの痛みが強い場合には、安中散 (あんちゅうさん)を用います。
  虚証が強い人の胃の痛みには、六君子湯(りっくんしとう)が適しています。胃内停水といって、胃に水がたまって、みずおちをたたくとポチャポチャする場合によく効きます。
  虚証が強く、突然おなかがシクシク痛み、しかも、痛みのためにおなかの皮が突っ張り、みずおちからへそにかけて動悸がする場合には、小建中湯 (しょうけんちゅうとう)を用います。
  また、虚証で、手足が冷え、生つばが出て、下痢をする場合には、人参湯(にんじんとう)がよいでしょう。
  ここで、漢方薬で胃痛が治った47歳の女性の例を紹介しましょう。この女性は、身長が158cmで、体重は44kgです。
  以前から消化不良で、胃が痛くなることがあったと言います。43歳のとき、便秘ぎみで、みずおちがつかえた感じもして、ときどき胃が痛むと訴えて来院しました。食欲も出ないし、生理は順調だそうですが痛みがややひどかったそうです。
  診察して舌を見たところ、縁にギザギザが目立ちます。このように歯痕があることから、水毒(体液の流れが滞った状態)があるとわかりました。
  おなかはふにゃふにゃしていて、へその上部に軽い動悸がありました。
  虚証と診断し、安中散六君子湯を処方しました。この2つの漢方薬の服用を続けたら、調子がよくなってきて、3〜4ヵ月後には症状はほとんど解消し、食欲が出てきました。また、生理痛も軽くなりました。
  この女性から「ずっと服用したい」と要望があり、現在まで漢方薬を処方しています。1ヵ月に5〜10日間、胃の状態をコントロールするために服用しているようです。

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