女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年11月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。


薄毛・白髪 - 連載第19回 -

髪のトラブルが女性にふえている
  髪のトラブルの中で、代表的なものが脱毛症(薄毛)と白髪です。
  髪を含め、体毛はもともと皮膚の一部分です。体を保護し、体温を保つ役割を担っています。
  髪の本数はだいたい10万本で、一日に約50本が抜けて、生え替わります。健康な状態でも、髪は抜けたり生えたりしていますが、極端に抜け落ちるのが脱毛症です。
  脱毛症の原因には、遺伝や老化などがあります。男性に多い男性型脱毛症は遺伝性のものです。
  また、部分的に脱毛する場合と、全体的に抜けて薄くなる丸はげの場合があります。
  ところで、皮膚や髪には黒褐色のメラニン色素を作る細胞があります。髪の色が人種で異なるのは、含まれているメラニン色素の量のためで、メラニン色素が多いほど濃い色になります。日本人の健康な髪にはメラニン色素がたくさん含まれています。このメラニン色素が正常に作られなければ、白髪になります。
  白髪には、年をとって白くなる老人性の白髪と、遺伝の影響で若いときから白くなる家族性の白髪があります。また、放射線の被曝や免疫(病原体から体を守るしくみ)の病気、精神的ストレスなども、白髪を招きます。それから、若いときの栄養状態が悪いと、早く白髪になりやすいといわれます。
  脱毛症も白髪も、昔から女性より男性に多く見られますが、最近は女性にふえてきました。若い女性に特に多いのが円形脱毛症です。ストレスが影響し、直径2〜3cmから握りこぶし大の円形に、髪の毛が抜け落ちてしまいます。
  それから、女性が髪を染めるのはごく一般的ですが、ヘアダイ(酸化染毛剤)は髪の毛を傷め、髪の毛の先端が割れて抜け毛になるだけでなく、脱毛や白髪の原因にもなります。
  脱毛症と白髪は、非常に深い関係にあると思われます。どちらにも、髪の栄養不良と精神的ストレスが影響するからです。ですから、豊かな黒髪を保つには、栄養バランスのよい食事を心がけ、ストレスを溜め込まないようにすることが大事です。また、過度のヘアダイや洗髪は、髪を傷め、脱毛や白髪の原因になるので、気をつけましょう。

薄毛の治療で白髪も黒く変化
  漢方は、遺伝性の髪のトラブルに効かないこともないのですが、老化や精神的ストレス、栄養バランスのくずれが原因である場合のほうに、かなり効果的に対応できます。
  漢方治療を希望してくる患者さんの症状は、大半が脱毛症です。ただ、脱毛症の治療を行っていくうちに、白髪も減少することはよくあることなのです。
  髪のトラブルにいちばんよく使われる漢方薬が、柴胡加竜骨牡蠣湯 (さいこかりゅうこつぼれいとう)です。これは、体力が中等度からやや強い実証に適しています。これを服用して脱毛症が治った例がたくさんあります。
  さらに実証が強い(体力が充実している)場合には、大柴胡湯 (だいさいことう)を使います。赤ら顔、高血圧で、頭が全体的に脱毛している場合に適しています。
  この2つの漢方薬には、いずれも柴胡という生薬が含まれています。柴胡は胸脇苦満が強く、みずおちに動悸がある場合に用います。胸脇苦満とは、みずおちから肋骨の下にかけて、ものが詰まったような膨満感があり、胸やわき腹が張って苦しいような状態をいいます。
  体力の弱い虚証には、桂枝加竜骨牡蠣湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)を使います。精神的ストレスに弱く、神経が過敏である場合に適しています。
  柴胡加竜骨牡蠣湯桂枝加竜骨牡蠣湯は、自律神経失調症にも使う漢方薬です(自律神経失調症とは、意志とは無関係に身体をコントロールしている自律神経のバランスがくずれて起こるさまざまな不快症状)。
  髪のトラブルがある人は、たいていお血(おけつ・血流障害)を伴っています。そのため、血流を改善する作用がある桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)を、よく併用します。
  ほかに、更年期以降で、虚証と実証との中間の証の女性には、加味逍遥散(かみしょうようさん)を用います。自律神経失調症ぎみで、イライラやのぼせ、ほてりがある場合に適しています。特に円形脱毛症によく効きます。
  また、かなりの虚証で、貧血があり、元気がなく、栄養状態が少し悪い場合には、四物湯(しもつとう)を用います。
  同じく虚証で、イライラが激しく、みずおちの動悸がひどい場合には、抑肝散(よくかんさん)が適しています。
  それでは、漢方薬で脱毛症が治った23歳の女性の例を紹介しましょう。後頭部が円形脱毛症になり、漢方治療を希望して来院しました。4月に就職し、半年後に円形脱毛症ができたといいます。脱毛の範囲は、親指よりは少し大きい程度でした。
  彼女の身長は153cmで、体重が46kgでした。最大血圧が102mmHg、最小血圧が60mmHgで、脈は少し弱々しい感じです。舌を見ると、むくんで、やや紫っぽい色をしていたので、貧血傾向だとわかりました。
  おなかを触診すると、筋肉が緊張して抵抗があり、胸脇苦満があるとわかりました。また、へその左右には圧痛点があり、特に右側で痛みが強く、お血があるとわかりました。
  夢を見たり、眠れなかったりすることがあるし、寒がりで、鼻血がときどき出ると言います。生理は順調でした。
  彼女の顔にはニキビもありましたが、これは就職する前からあったそうです。
  虚証ぎみと診断して、桂枝加竜骨牡蠣湯と、お血を取り除く桂枝茯苓丸を処方しました。
  すると、驚いたことに、2ヵ月たったら、脱毛していた部分に産毛が生え、それが徐々に伸びてきました。それから2週間後には、だいぶ太い毛が伸びてきて、半年くらいで円形脱毛症が完全に治ったのです。その後も通院を続け、1年余りで、ニキビも治りました。円形脱毛症は繰り返すことがありますが、この女性は再発をしていません。




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