女性のための漢方ノート

以下は健康雑誌「ゆほびか」2004年12月号(マキノ出版/マイヘルス社)に掲載された記事です。

慢性的な疲労感 - 連載第20回 -

気・血・水の不調和で起こる
  文部科学省の調査で、日本人の60%が慢性的な疲労を感じていて、疲労感が6ヵ月以上続いている人は37%に上ると報告されています。
  慢性的な疲労感は、甲状腺の機能低下や悪性腫瘍、肝臓病などに伴って多く現れます。しかし、疲労の原因となる特定の病気がないのに、日常生活を続けるのが難しいほど強い疲労感が長時間続いたり、何度も繰り返し起こったりする場合、慢性疲労症候群が疑われます。
  慢性疲労症候群は、次に挙げる11個の項目を診断の基準にしています。
  (1) 微熱・悪寒
  (2) のどの痛み
  (3) リンパ節の腫れ
  (4) 筋力の低下
  (5) 筋肉痛
  (6) 軽い労作後に24時間以上続く全身のだるさ
  (7) 頭痛
  (8) いろいろな部位に移動する関節痛
  (9) うつ・集中力低下などの精神神経症状
  (10) 睡眠障害(不眠・過眠)
  (11) 疲労感の急激な出現
  重要なのは(1)から(3)までの3項目です。3項目のうちの2つ以上に該当し、(4)から(11)までの4つ以上に当てはまると、慢性疲労症候群と診断されます。
  また、11項目の中で8つ以上に該当し、それぞれの症状が半年以上続くか、何度も再発する場合にも慢性疲労症候群と診断されます。
  以前は、朝起きられないほどの疲労感で病院を受診しても、原因がわからないので、なんの治療もされないまま帰されることがありました。今日では、以上のような診断基準が作られ、特定の病気として医療機関でも認められるようになってきました。
  ただ、西洋医学では、今のところ特に効果的な治療法はありません。生活指導をして体力の回復を図るとともに、疲労感にはビタミン剤、不安感には抗不安薬、うつ状態には抗うつ剤、関節痛には消炎鎮痛剤を使います。このような対症療法がほとんどです。
  漢方では、疲労感は気(き)・血(けつ)・水(すい)の不調和によってもたらされるととらえています(気・血・水は、生命活動をコントロールするエネルギー)。特に気は、血・水を統合するエネルギーと考えるので、気のアンバランスを立て直し、気を増強することが非常に重要です。加えて、血を補うことが必要です。
  ですから、慢性疲労の治療には、気と血を補う両方の作用を持つ薬を用いることになります。
  慢性疲労は、実証の人にはあまり見られません。たいていは虚証です。こういう病気を引き起こすこと自体、虚証の証拠といえるでしょう。虚であるため、補う薬、つまり補剤を用います。
  最もよく使われる補剤が、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。これには、人参黄耆など10種類の生薬が配合されています。主に気を補う薬で、気を増すとともに胃腸も丈夫にします。
  江戸時代、津田玄仙という漢方医が、補中益気湯の適用として、次の8つの症状を取り上げています。
  1) 手足がだるくてしかたがない
  2) 声がかすれる
  3) 目に力がない
  4) 口の中に白いあぶくがたまり、口角に泡が出る
  5) ごちそうを食べても味がわからない
  6) 冷たい飲食物を極端に嫌い、温かいものを好む
  7) へそより上部に動悸がある
  8) 脈に力がない
  慢性疲労症候群の診断項目と、たいへんよく似ています。「1)から8)のうち、2つ以上が該当するなら、気が消えかかっているから、補中益気湯を用いるべし」と津田玄仙は書き残しています。
  補中益気湯のほかに使う漢方薬として、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)があります。疲労感に加え、貧血ぎみで、多少手足が冷え、気虚とともに血虚がある場合に用います。
  体力が消耗していて、口の中が渇き、ジワッと汗をかいて、冷え性のときは、柴胡桂枝乾姜湯 (さいこけいしかんきょうとう)が適しています。
  みずおちがつかえ、口の中に薄いツバがたまりやすく、口角からツバが出て、手足が冷え、胃腸が弱くて下痢をするタイプには、人参湯(にんじんとう)が適しています。
  以上の4つが、慢性的な疲労に用いる主な漢方薬です。
  また、小児期から胃腸が弱く虚弱なタイプには小建中湯(しょうけんちゅうとう)を、また、高齢の人でおなかがやや張って、おなかに力がなく、ガスが出るタイプには大建中湯(だいけんちゅうとう)を用います。

1ヵ月で体のこわばりが消えてきた
  ここで、慢性的な疲労感を漢方薬で克服した例を紹介しましょう。
  22歳の女性で、数年前から、なんとなく体がだるいと思っていたそうです。それが発熱し、口の中が熱っぽく、頭痛があり、首のリンパ腺や扁桃腺が腫れるようになりました。2つの病院で診察を受け、慢性疲労症候群ではないかと言われ、なかなかスッキリしないので、漢方治療を頼って私の医院を受診してきました。
  身長は157cm、体重43kgです。生理痛がひどく、生理が始まると、吐き気、のどの乾き、鼻水、肩こり、関節や腰の痛み、頭痛、手足の冷えがあるそうです。多少便秘ぎみで、不眠に悩まされていました。
  診察をするとへその上の腹部大動脈の動悸が強く、おなかの筋肉が緊張して、少し突っ張っています。へその両側に圧痛点があることから、お血(おけつ・血液の流れが滞った状態)が認められました。
  ですから、補中益気湯と、冷えの解消に効果がある当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)を合わせて処方しました。
  すると、1ヵ月で腹部の動悸がだいぶ取れ、体のこわばりも消えました。しかし、生理痛がひどいと話すので、当帰四逆加呉茱萸生姜湯当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)に替えて、補中益気湯とともに飲んでもらいました。
  それから1ヵ月半がたった段階で、扁桃腺の腫れがかなり引いてきて、おなかの緊張もだいぶ取れてきました。
  さらに半月後あたりから、体力が出たことを実感できて、生理が順調になり、生理痛もなくなってきたのです。
  2年近く漢方薬の服用を続け、最近は、だるさや不快症状を感じることはほとんどなく、生理のときに当帰芍薬散を飲む程度です。
  前述したように、慢性疲労症候群は原因が不明で、この病気かどうか明確に診断しづらい病気です。しかし慢性的な強い疲労の改善には、漢方薬がよく効くケースが少なくありません。慢性的な疲労で困っている人は、ぜひ漢方治療を試してみるとよいでしょう。




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